調査二日目
「ああ、濡れた。どこかで服乾かしたいな…。」
梓は困っていた。自分以外男だし、その前でまさか脱いだりできない。しかし、入った建物は運よく釣具屋だった。二階に通じる階段も健在で丁度よく部屋は人数分あった。
「梓、部屋あるよ。」
真は二階から降りて言った。
「ホント?よかった。」
梓の顔からは笑みがこぼれる。
「ここはお前の家か?知ったように歩き回るよな。」
隆弘はいつもの調子に戻り、真に話しかけた。
「まさか。」
しかし、いろいろとボロが出てきた。
「ま、いいや。もう夜も遅いし俺は寝るよ。」
隆弘はあくびをしながら言って真の横の階段を上がって行った。
「お休み、宮城君。」
梓も隆弘に続いた。部屋割りのことを考えていなかったが、それは自然に決まっていた。梓は一番奥の部屋でその隣は誰もいない。つまり、真の部屋。その向かいに隆弘がいた。真は二階に上がり部屋を確認したら、階段を下りて倉庫に向かった。倉庫の扉を開いて中に入った。倉庫の中は乱雑で、真の望み通り釣竿があった。心なしか、以前愛用していたものに似ている気がした。保存状態は極めて良く、今すぐにでも使えそうな気がした。一通りの釣り具をそろえて堤防に上り、海に向かって竿を刺した。さっきまでの雨は何処へ行ったのか、星が輝く夜空の下で秋の始まりを思わせる風の中、真は当たりを待った。が、当たりはなかなか来なかったため真は竿を引き上げ、堤防にもたれかかって眠った。
そして、夜が明ける。
「……ん、…やぎくん。」
ん?山羊君?寝ている時に数えるのは羊だろ。
彼は夢見心地で梓の声を聞いていると激しくさすられ、勢い余って地面に頭をぶつけた。
「あ…。」
「いてえよ。」
「ゴメン、手滑らせちゃった。頭は切れてないし大丈夫だよ。」
梓は可愛らしく笑った。それで怒る気はすっかり失せる。これが計算ならかなりの悪女かもしれない。
「まだ早くない?まだ五時でしょ?」
真は釣り好きで太陽の傾きで時間が分かるようになっていた。
「何でわかるの?」
「太陽の傾き。」
梓はなるほどと言った顔で真を見つめる。
調査期間は一週間。その二日目が始まった。真は一つ驚いたことがあった。昨日はあの大雨の中調査していたが、メモ帳は濡れなかった。はっ水加工されていた。
「ここ墓場だよな。」
また、隆弘はグダグダになる。
「そうですけど、それがどうしました?」
真はケロッとした顔で答える。町の様子とは違いここは火事に巻き込まれなかったのだろう、二〇一二年と変わったところは特になかった。一方の梓はあちこち興味本位で歩き回っていた。
「よく平気だよな、お前ら二人。なんか意気投合してるし。」
「まあ、友達ですから。」
「じゃあ、お前にとって俺は何だ?」
昨日からすねていた理由はこれだったのかと真は思った。
「尊敬する先輩ですかね。」
真は正直に言った。
「そうか。それならよかった。」
隆弘は笑った。真は違う答えを期待していたのかと思ったが、本人がそれで納得しているならそれでもいいか。
墓場を歩いていると一際きれいな墓石があった。一昨日真が磨いた墓石だ。
「ん?この墓石、なんかきれいじゃないか?」
これも隆弘だけ知らないことだった。真は墓参りで、梓はそれを追いかけてきた。
「これ…。」
「俺の先祖です。すいません、一昨日ここに来ました。」
「そうか。」
以外に気にしていないようだった。
「ちょっと、そこで何してるの?早く来て。」
「ゴメン、今から行くよ。」
遠くから先に走って行った梓が声をかけた。
「どうしてそんなに怖がるんですか?」
あまりの怖がりにしびれを切らした真が言った。
「お前が変なこと言うからだろ!」
「俺のせいですか?」
「だって、お化けがどうのこうのって」
ああ…、あの時か…。
暑いからいたずらでお化けの話をしたことがあった。そのとき、隆弘がお化けはどこにいるか聞いたので、浜中のような所と真が答えた。そのことをまだ覚えていたようだ。子供のような人だ。
「あんなのはったりに決まってるじゃないですか?」
「え…?」
「まさか、その年になってまだ信じてるとは思いませんでした。」
隆弘はガックリと肩を落とした。




