ほんとに調査開始
「ところでそれは何?」
浜中の入り口に来たところで梓が真に聞いた。梓や隆弘にとってはただの紙束と変な形をした短い棒にすぎなかった。
「こういうのをあの店で探してました。これでフォンが無くても調査ができます。」
「へえー。そう便利そうにも見えないけど…。」
梓は怪訝な声で言う。
「どうしてお前だけなんだ?」
気にするところがそこ?しかも、かなり不機嫌だし。
どうやら、怒られたこととシャープペンが隆弘につかえないと言われたことにご立腹の様子。そこの場面に居合わせなかった梓はにこにことその場に立っている。
「ねえねえ、行こうよ。」
梓は彼らを催促する。その催促を受けて、立ち入り禁止の柵を跨ぐ。緩やかな勾配は海に向かって下っている。道がところどころ寸断されている。彼はポケットからメモ帳とシャープペンを出した。
「建造物は鉄筋コンクリート以外すべて焼失。町の中央部にビル群。」
彼はそうつぶやきながらメモを取った。彼は二〇一二年の浜中の地図を思い返しながらメモを取ったため、まだ建物の残骸が見える前にそう書いていた。普段ならこの丘からビル群は見える筈だが生憎の大雨で見えなかった。
「うわ、何だここ?瓦礫だらけだった。」
瓦礫の山を見て隆弘は立ちすくんだ。木の骨組みの先は焦げて黒くなっていた。梓は隆弘が立ちすくんでいるのを見て「どうしたの?」と軽く聞くと「よく貴女は平気ですね」と言う。何となく、隆弘が女性に「あなた」と言うとキザな感じがしてきた。言っている内容は置いておく。
「うん。でさ、『貴女』はやめて。」
梓は今まで見たことがない表情を見せた。軽い嫌悪を込めた笑みだった。
「どうして?」
「キザっぽいから。」
梓はきっぱりと言った。隆弘は真を見たが、真も黙って頷いた。隆弘は肩をすくめた。
「じゃあ、どうやって呼べば…?」
「うーん。仲野さんかな?」
梓は明らかに隆弘を嫌っている。真には「梓」と呼び捨てにさせるが、隆弘には苗字でさらに「さん」付させる。隆弘は、見た目は悪くないのにどういうわけか女性に好かれない。男から見ると爽やかな若い男だが…。
「宮城君、これ何か分かる?なんかいっぱいあるけど。」
真は梓が指差した物を拾い上げた。それはコインだった。焦げと錆で黒ずんでいた。
そういえばここゲーセンだったな。
「ゲームセンターのコインですよ。」
「ゲームセンター?何それ?」
あ…。無いんだった。確かに、ネトゲがあったからな…。
「宮城君って不思議だよね…。魔法でも使えるの?」
梓の声は何処か嬉しそうな声を上げた。
「あ、いえ、そんなことは…。」
しばらくはミステリアスな男のままでいよう。そっちの方が女性受けよさそうだ。
メモ帳には金属製の丸く小さい板が多数。と、書いた。それともう一つ。カラオケ用マイクあり。
「イタッ。」
「あ、すいません。」
メモしている時に真の肘がメモ帳を覗き込んでいた梓の顔に直撃した。真の癖で字を書くときに肘を張ってしまった。
「いいの、いいの。宮城君だし。」
なんか、好かれてる…?
「安藤さんだったら許さないですよね?」
少しいたずらで聞いてみた。
「そうかもね。なんかあの人、嫌なんだよね…。」
これが生理的に受け付けないというヤツか…。悪い人じゃないのに…。
真は少し気の毒に思えてきた。隆弘は道を挟んで向かい側で何かを探していた。その屈んだ姿がいじけている様にも見えた。嫌われたのは一目瞭然だった。それは本人が一番よく分かっていることだった。
隆弘は一人で、真は梓と辺りを探していた。
「真―。」
隆弘は急に叫びだした。真は急いでいくと隆弘は色褪せて元の色が分からなくなった消防車の前で尻餅をついていた。真を追いかけてきた梓はそんな隆弘を見て顔をしかめる。真は隆弘が臆病者なことに気が付いた。
「何だこれは!?でかい…。」
そんなに怖がるほどの物じゃないけどな…。
女性が隆弘を嫌がる理由が何となく分かった気がした。
「へえ、面白いなー。」
梓は当てつけのように言う。
「宮城君も怖いの?言葉数少ないよね?」
もちろん怖がってはいない。ただ、一つ怖いとすれば自分がボロを出してしまうことだ。そのことに必死になって口数が減ってしまったのと、話題がなかった。
「ん?話題がなかっただけだよ。」
と、意識的にタメ語で話してみた。
「そう。今、初めてタメ語だったよね。」
梓は笑った。その笑顔が可愛らしかった。今後もタメ語で話そうと決めた。




