浜中
彼は夢で見た浜中に来た。見渡す限り瓦礫で夢で見た景色のかけらもなかった。浜中と清水を仕切る丘から浜中を一望した。
彼は丘を降りて立ち入り禁止区域に踏み込み堤防に向かった。堤防に腰を下ろしここまでのことを思い返した。そして今親が墓の中にいることを思いつき、墓参りをした。偶然、ポケットに入っていたハンカチで墓石の汚れをぬぐう。
「宮城家之墓」と書かれた墓石に彼の両親の名前が刻まれていた。その隣に彼の名前も刻まれていた。落ちてから一年後にここに葬られていた、名前だけ。
「ねえ、ちょっと。」
「…!誰だ。」
しばらく警戒を忘れていたので梓に尾行されていたことも気づかなかった。彼は振り向くと意外に知った顔だったので拍子抜けした。
「あたしだよ。仲野梓。昨日だったから覚えてるでしょ?今日も会ったし。」
「ああ、すいません。」
彼が謝ると梓は笑った。
「いいのいいの。こっちも勝手に付いて来ちゃってゴメン。食べる?」
梓は袋からアンパン二個を取り出して片方を真に向けた。
「いただきます。」
彼は梓からアンパンを受け取りかじりついた。
「ここ、立ち入り禁止なの知ってて来たの?」
唐突に梓が話しかける。
「はい…。怒るなら怒ってください。」
「あたしと同じだね。」
梓は怒るのではなく笑った。
「は?」
「だって、あたしだってここに居るんだよ。怒れないじゃん。」
「連れ戻しに来たのでは…。」
梓は袋に入っていた缶コーヒーを取り出して開ける。
なぜか、二〇一二年と暮らしがさほど変わらない。変わったとすれば、車がなくなった、と言う事と、通信が発達したことぐらいだった。町を行けば見えるのは、スーパーにデパート、アパートやマンションやコンビニだった。
「ふう、…苦い…。」
梓は顔をしかめてつぶやいた。どうやら、彼の言葉は聞こえてなかったようだ。
「海に移動しましょう。」
と、彼は立ち上がって言った。
「へ?ここ海あるの?どうして知ってるの?」
しまった…。つい口走った…。
梓は彼が発した咄嗟の言葉に疑問を投げかけた。
「そ、それは…。」
俺が二〇一二年の人だから、なんて言えないよなぁ。
「さっき見えたから。」
「え?ああ、そういう事ね。」
梓は意外に早く引き下がった。
二人が海に着いたのはもう日が暮れて真っ暗になったころだった。いつもの堤防。二百十年の時が過ぎた今でも変わらず残っている。
「ああ、歩きづらかった…。もう真っ暗だし、何も見えないし…。」
少しあとをついてきた梓がぼやいた。
「さすが廃都って感じね。管理がまるで行き届いてないし…。」
真は堤防を背もたれにして座り込んだ。あの古びた空き缶はまだ転がったままだった。その空き缶を見て彼はあることを思い出した。登ってきたときの情景だった。
次の休み。ちょっと試してみよう。
二人は知らず知らずのうちに眠り込んでいた。




