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明日に向かって

作者: 有璃香

 昨日まで降り続いていた雨が嘘のように、今日はとても空が青々として晴れています。

葉にはいくつかの水滴、そしてそれを避けるように、一匹の青虫が葉っぱの上をはっています。

「凄い雨だったなぁ。僕はどうにか助かったけど仲間の青虫達、大丈夫かなぁ。」

出来る限り体が濡れないように、さりげなく仲間を捜しながら、はい続けています。


「今日は良い天気。だけど敵にも見つかり易いんだなこんな日は。無理な行動はよそう。この辺は、いっぱい食べれるとこあるもんね。ぶくぶく太って敵に見つかりやすいかも知れない。」

目の前の葉を食べ始めました。この辺りは住宅街になっていて、沢山のマンションが建っています。この青虫君がいる公園にも良く子供達が遊びにやって来て、ボールや鬼ごっこで遊んでいます。


進五(しんご)、暗くならないうちに帰るのよー。」

お母さんがベランダから大きな声で言いました。その声は辺りに響いて聞こえました。

「恥ずかしいなぁ、もう。わかってるよ。」

うつむいて頭をかいていると、一緒に遊んでいる友達もくすくす笑ってしまいました。

「大丈夫だよね、俺達。みんな、この辺に住んでいるから。」

「そうだよ。おばさんが心配してるって言う事は、僕のママいや、お母さんも心配してるって言う事だもん。」

「まだ、ママって言ってるんだなぁ。」

「進五、内緒にしてて。」

5人で遊んでいました。

サッカーしたり、砂遊びで手がどろどろになったり・・・。

あっと言う間に時間が過ぎて行きました。暗くなり始め、そろそろ家に帰る時間になりました。

「もう帰らないとだめじゃないかなぁ。」

「そうね、進五君とこも含めて親が心配しちゃうからね。」

「じゃあ、今日は解散と言う事で。」

「うん、じゃあね、又、学校でね。」

それぞれ手を振って、うまく片寄らないで帰って行きましたが、進五君は自分と同じ目線にある木の葉に目が止まりました。

「ん?」

大きくぷくぷく育った青虫がいました。とても色鮮やかな色彩をしていて、全く動いていませんでした。

「あれ?死んでんのかなぁ。」

その青虫が着いている葉の枝ごと、ポキッと折っていろんな角度から青虫を見てみました。

「きれいだけど気持ち悪いな。お母さんに見せたらびっくりするだろうな。」

しばらく、その青虫を見つめていました。

青虫の方も動いたらまずいと思い、見られている間は体を動かしませんでした。

「よし!」

進五君はそのまま家まで走って帰って行くと、

「ただいまーっ」

お母さんにすぐ見つかりました。両手を腰に当てて、

「どうするの?虫は飼うとすぐ死んじゃうわよ。自然に帰した方がいいわよ。」

「ご、ごめんなさい。1日だけ観察して良い?これだけ葉っぱが着いていたら食料は1日分はあるから。」

自分の部屋の机に置く準備をしました。まずこの枝が枯れないように、花瓶に水を入れてさし、青虫が水の中に落ちないように、口が小さめの花瓶を選びました。そして机の右側、窓際に置きました。

窓は少し開いていました。


「進五、宿題した?」

「うん、したよ。」

「それじゃあ、お風呂入って早く寝なさい。」

「はーい。」


青虫はこんな高い所まで来た事がないなぁ、と思いました。そして初めて、夜空を見ました。

「あのキラキラ輝いて美しい石みたいなのは何だろう?ここはあの少年の家なんだな。広すぎてわからない。」

青虫は顔を少し上げて美しい星が輝いている夜空を眺めていました。

すると遠くから黒い影が見えて来て、青虫もそれが一羽の鳥だとわかり、体の動きを止めましたが鳥は一度、窓の側を過ぎたのですが戻って来て、窓際で飛びながら静止していました。そして青虫を見つけると、素早く枝ごとくわえてどこかへ飛んで行きました。

それが起きてから数分後に進五君が部屋に戻って来ました。机の上には数枚の葉、花瓶が倒れていました。

「あーあ。」

呆然とつっ立って、言葉を無くしていました。


「僕をどこへ連れて行くんだい?」

風がびゅんびゅん、青虫の体に当たっていて葉に一生懸命にひっ付いていました。

「子供達のいる所、つまり餌にしようとしてるんだよ。きれいな青虫君。」

「僕を食べても美味しくないんだよ。毒がたっぷり入っているからね。」

鳥も必死でした。嘴で枝をくわえ、風が強く吹き、真夜中なので真っ暗、星の明かりだけが頼りでした。

「いつまで飛ぶんだい?ずいぶん長い間・・・。」

「し、静かにしてくれないか、この方角で良いと思うのだが。あー見えた見えた海が。」

「海?」

青虫は顔をほんの少し下に向けると黒くて非常に大きな水溜りが見え、

「これが海?凄くたくさんの水が溜まってる。」

まだまだ飛び続けました。海の上を長い間飛び続けると小さな島が見えて来ました。鳥はほっとして、疲れが出てきて、どこかへ休みたい気持ちになり、その小さな島の大きな木の上で休憩をする事にしました。大きな木の枝に止まると青虫が逃げないように、枝を羽に突き刺して眠ってしまいました。

「逃げるなら今だ!どっちにしてもどうせ食べられるかも知れないから。」

力いっぱい振り絞って、乗っていた葉からジャンプしました。

ずーっとずーっと下へ真っすぐ落ちて、運良くどこにも体をあてる事なく落ちて行きました。地面はたくさんの葉が生い茂って、大きな葉の上に体をぶつけると、跳ね返ってもう一度違う大きな葉の上に乗りました。青虫はその葉の裏側にひっ付いて、そのまま眠ってしまいました。


翌朝、青虫は大変驚きました。こんな大自然は生まれて初めて見たからです。見た事もない生き物や美しい草花が咲き乱れていました。高い木や低い木も所々に。

「ここはどこ?なんて美しい場所なんだ。」

空を見上げると高い所でたくさんの鳥達が飛んでいました。

「敵も多いし餌もたくさんある。こんなきれいな花達を見た事がない。早く大人になって自由にすばしっこくなりたい。」

何日間は、その小さな範囲で生活をしていました。やがてさなぎになり、立派な大きな蝶に生まれ変わりました。この場所には蝶がこの一匹だけでした。

「やっと飛べるようになった。今度は花の蜜をたくさん吸うんだ。」

周りに咲いている美しい色鮮やかな花の上をあちこちと飛び回り、花の蜜を吸っているとその花のような美しい羽に変わっていきました。

「何だかパワーがついたし、羽の色も今までと違ってきたみたいだ。少し、もう少し高く飛んで見よう。」

試しで高く飛ぼうとすると、思っていたより高く上昇する事が出来ました。

「おおっと、これ以上高く行くと、今は鳥がいるから危ない。」

今度は低く飛んで羽を休ませました。葉の上に止まると羽が花の様に見えました。

「こうやって羽を広げると花みたい。よし!」

蝶はある決心をしました。もう一度、あの少年のいる地域まで帰りたいなと。

「長い距離だった。僕一匹で心細いけど・・・。命がけの旅になりそうだ。しばらく無駄な体力を使わないようにしないと。」


その晩はぐっすり休み、次の日、目を覚ますといつも飛んでいる鳥の姿がほとんど見かけませんでした。

これはチャンスだと思い、この場所から脱出しようと日中、花の蜜をたっぷり吸って、夕方、空高く旅立ちました。意外とスピードが出るなと、思いましたが風の力でかなり助かっていました。

「海って怖いなぁ、落ちると終わりだ。これぐらいにちょうど良く風が吹き続けたら、ありがたいんだけど。誰も追って来ないだろうね。」

後ろに向きを変えて見ると、ほっとしました。

向きを戻すと、ちょうど同じ目線で鳥の群れが見えたので、低く下に海面ギリギリにしばらく飛び、鳥の方が速いので過ぎ去るとすぐ上昇し、

「あー疲れる。早く日が昇ってほしい。」


1日半、飛びました。花を見つけるとすぐ羽を休め、どうにかして懐かしい空気漂う公園に着くと、その夜はぐっすり眠りました。

朝、子供達の声が聞こえ、はっ!として、木の葉の陰から覗いて見ると、あの少年がいました。

「うわぁ懐かしいなぁ、きっと僕からは長い時間だったけれど、人間の時間だとあまり経っていないんだろうね。」


「行って来まーす。」

進五君の大きな声でした。

学校から帰る時間が近づいて来ると雲行きが怪しくなっていました。進五君は授業が終わると走ってマンション5階の家に帰って来ていました。

「あら?今日は早かったのね。」

「うん、雨が降りそうなんだもん。」

急いで自分の部屋のドアを開けて振り返ると、机の上に一匹の大きくきれいな蝶が羽を広げて止まっていました。

「びっくりしたぁー、ちょうちょだ!」

じーっと見つめていると、

「いなくなった青虫の色に似ているな。気持ち悪いけどきれいだな。」

そして、お母さんを呼びました。

「お母さーん」

「そんな大声出さなくても。」

机の上を見て驚き、

「蛾?でもなさそうね。蝶?」

「このちょうちょ、飼っても良い?でも餌がないや。」

「よくここまで飛んで来たわね、5階なのに。飼うのはだめよ。もう少し窓を開けて、そしたら飛んで帰って行くわよ。」

「あの青虫に似てない?」

「そういえばそうね。もし、あの青虫の成虫だったら・・・何て言えば良いのかしら。」

「元気だったよって、知らせに来たんだよ。」

蝶がすーっと浮いて部屋の天井近くを飛んで一周すると、窓から出て去りました。


「わかってくれたみたい。」

幼虫の頃、住んでいた木がわかると止まり、

「僕もたくさん友達作りたい。ここらへんにいる蝶より僕はでかいから、心配。ただ、明日に向かって生きていくだけなのかもね。」


進五君はその夜、考えました。

「あの蝶はきっとあの青虫。大きな蝶だし、目立つから僕や僕の友達と一緒に、敵が来たら守ってあげるからね。」



                     終




誰でも読めるような、そんな作品だと思います。

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