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朝食も終えてた後、ルートニックに引かれるまま、アルは歩いていた。
あの村にはもういられない。家族も知っている誰もかもを失ったアルは、天涯孤独。頼れる人もいないのだ。
そんなアルを、ルートニックは黙って連れていた。
村の方にはもう戻らないように、自然と異なる方向へ向けて歩いていく。
アルの方も、なぜ村の方に戻らないのかと尋ねない。
あるいは、たずねる勇気わ出せなかった。
そんな状態で歩いていた2人だが、アルが洪水でできた水たまりを何気なく見たとき、そこに不思議なものを見た。
いつもだったら、青い色をした自分の両目が、なぜか片方だけ黄金の色をしていたのだ。
「あれ、おかしいな」
ゴシゴシと目をひすって、もう一度水たまりに映る自分の顔を見るアル。
「どうしたんだ、何か変なものでも見えるのか?」
「それが変なんだよ」
「変、何が?」
「僕の目がおかしいんだ」
アルの左の眼は、右の眼と同じで青い色だ。
秋の空を思わせる、透きとおった色の瞳。
なのに、なぜかこのときアルが水たまりに見た自分の左目は、黄金の色をしていた。
「左目が、金色になっている」
「まさか、知らなかったのか?」
「知らなかったって、この目のこと?
だって、僕の左目は青い色のはずだよ。
でも、今は金色をしてる」
「知らなかった……」
―――黄金樹の瞳を宿していることを、今まで知らなかっただと?
ルートニックの脳裏に疑問がわく。
「なあ、アル。お前本当に、その目のことは知らなかったのか?」
「そうだよ。
僕の眼は青色だよ。
おかしいなあ、どうしてこんな色になってるんだろ?
不思議だな?」
「なら、いつまであるの眼は青かったんだ?」
「いつまでって、そんなの分からないよ?
でも、金色になってるのには、今気づいたばかり」
少年の言葉に、ルートニックは押し黙った。
―――黄金樹の瞳が、突然現れた・・・・・いや、そもそも俺だって伝説でしか知らないんだから、生まれたときから黄金樹を持っているとは限らいな。
ってことは、ある日突然黄金樹の瞳をもったってことか
深刻に考えるルートニックに、だがアルは全然気付かないらしい。
「困ったなー。僕の知ってる人はみんな両方とも目の色は同じなのに。でも、別に色が違うからって、困ることもないようね。だって、いつもと同じように見えてるし」
―――いつもと同じ……もしかして、千里眼の力も、人の心を見通す力もないのか?
アルの言葉を聞きながら、ルートニックは、もしかしてアルの瞳が黄金樹の瞳ではないかもしれないと疑問を持つ。
そもそも、ルートニックはまだアルの瞳が、本物の黄金樹の瞳だと確かめたわけではない。
「なあ、アル。
お前俺が今何考えてるか、分かるか?」
「どうしたの、突然?」
「いいから、答えてくれ!」
「えっ、そんなの僕にわかるわけ……ジュンサツシ?
あれおかしいな。何でだろう。
変な言葉が思いついちゃった」
「!」
―――俺が巡察士だとアルに言った覚えはない。
もしかするとこれは……だが、まだ確証は持てない。
仕方ない、ここは時間をかけて確かめるしかないか。
アルの瞳に不思議な力を見てとるルートニック。それが本物であることを彼は確かめたかった。
幸い、そのための時間はこれからあるのだ。