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あるが目覚めたとき、そこはまた知らない場所だった。
今度も、知らない人が傍にいる。
いや、名前なら知ってる。ルートニックという名前のオジサンだ。
昨日ラーベラムが死んでしまって、それから最初に出会った人。
一緒にアルの住んでた家を探してくれて……それで……
「うっ」
そこまで振り返って、アルは思わず吐き出した。
喜納の光景が脳裏によみがえった瞬間、胃の中のものが逆流してきた。
「ゲエェッ、ウエッ」
地面に突っ伏して、出てくるものを吐き出す。
「そんな、どうしてこんなことになったんだ」
弱々しい声を出すアル。
そんなアルの姿を、眠りから冷めたルートニックも認めた。
「おい、おまえ朝から吐くなんて大丈夫なのか?」
「……」
「しまった、またろくでもないことを俺は言ったな」
思ったことがすぐ口に出てしまった。ルートニックは自分の迂闊さを恨んだが、すでに遅い。
だが、そんなルートニックに、アルは小さく言った。
「オジサン、ありがとう」
「あっ、ああ」
昨日あれだけ泣き悲しんでいた少年からの思いもよらない感謝の言葉に、ルートニックは驚いた。
だが、アルはやはり不安だった。
ルートニックの服を両手でギュっとつかむ。
「なあ、頼むから話してくれないか?」
―――ブルブル
しかし、首を振ってアルは言うことを聞かない。
(やれやれ、俺は子供の相手は苦手なんだけどな)
それでも、アルを無理に振りほどこうとしないのは、ルートニックがこの少年に同情しているからだった。
とはいえ、いつまでもそうしてはいられない。
「……なあ、もういいだろう」
「……」
「それに、お前ちゃんとゲロをふいたか」
―――フルフル
「ゲッ、俺の服についてるじゃないか!」
「……ゴメンナサイ」
「ああ、早くふかないといけないじゃないか。
って言うか、着替えがあるわけじゃないし、まさか俺はゲロをつけたまま旅をしないといけないのか!」
「ゴメンナサイ」
「謝らなくてもいい。
畜生。俺ってついてないなー」
そう言いながら、ルートニックはなんだか惨めに思う。でも、そんなルートニックの姿を見ていて、少年はほんの少し、そう、本の少しだったが元気づけられるのだった。
その後、ルートニックは火をおこして、塩辛い干し肉を焼き始めた。
―――グキュルルーー
「お前、お腹すいてるな」
―――フルフル
首を振るアル。
「涎が出てるぞ」
「あっ!」
慌てて口の周りをぬぐうアル。
「ほら、これぐらい焼けばいいだろう。お前の分だ、食えよ」
「本当!いいの?」
「ああ、もちろんだ」
「でも、僕のってことは、おじさんの分は?」
今ルートニックが焼いた干し肉は一切れだけだ。それがアルの分と言うことは、ルートニックの分がなくなってしまう。
「俺はいいんだよ。ちゃんと昨日食べたからな」
そういって、ルートニックはアルに焼いた干し肉を渡す。
だが、
―――ギクュルルーー
今度は、ルートニックのお腹が元気のいい音を出したのだ。
「はい、おじさんも半分食べようよ」
そんなルートニックを見て、アルは自分の干し肉を半分にして、ひとつをルートニックに渡した。
「……ありがとうよ」
「うん」
子供に差し出すつもりだったのに、逆に自分の方が食べさせてもらってしまった。なんだか、立場がないなと思いながらも、元気に頷く少年の姿に、ルートニックは安心した。
(とりあえず、大丈夫そうだな)
昨日あれだけ落胆の大きかった少年が、元気な顔を見せたのだ。