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(この洪水はひどい。なんてことだ。
だが思いもしなかった。
まさか、こんな場所で伝説の『黄金樹の瞳』を見つけるとは……)
ルートニックはアルに付き合って、アルの住んでいた村の傍まで共にやってきた。
だが、それは彼が人がいいからでも、また無条件にアルのことを心配してのことではなかった。
『黄金樹の瞳』
千里の果ての光景を見通し、人々の心をガラスのように見通すことができる伝説の力。リューシャン帝国の初代皇帝が持つとされる、300年も昔に現れた伝説の力だ。
とはいえ、もはやそれはただのおとぎ話としか思われていない。
だが、ルートニックが見つけたのは、紛れもない黄金色の瞳だった。
こんな色の瞳を持つ人間は絶対にいない。
だが、ルートニックはその伝説を見つけたのだ。
その人物の右目は青い色の人を見していた。
しかし左目には、黄金色の輝きが宿っていた。だからルートニックは、その人物に対して親切にしたのである。
そして、できることならば、その少年がなぜ黄金の瞳を持っているのかを知りたかった。
その人物の家族であれば、あるいはと思ったが、それも洪水の被害で聞き出せそうになかった。
しかたなく、ルートニックは黄金の瞳を持つ人物が、泣きじゃくるままに任せた。
やがてその人物は悲しむことに疲れ果てて、意識を失うかのように眠ってしまった。
仕方なく、ルートニックは近くに野宿をできそうな場所まで、その人物を抱えて移動した。寒くないようにと、自分の外套をわざわざかぶせてやり、野宿できる場所では火を起こす。
それでもその人物は疲れ果てて起きない。
当然だろう。あれだけの光景を直視するには、その人物の年齢が小さすぎるのだから。
大人である自分でも、もしも自分の住んでいる街が一瞬で失われようものならば、どうなるか分かったものではない。
そんなことを思いながら、ルートニックは塩辛い干し肉をとりだした。
「今日の晩飯はこれだけか」
別にうまくもない食べ物を食べる彼の顔は、しぶしぶと食べているという感じだ。
ただ、その瞳は自然と、近くで休んでいる人物の方へ移る。
その寝顔は無邪気な天使という感じだ。
赤焦げた色の髪をした。まだ10歳にもならない小さな子供だ。
「アル、お前は一体何者なんだ?
どうして、黄金樹の瞳を持っている?」
そう尋ねはするものの、少年は静かな寝息を立てている。
だが、不意にその呼吸が乱れて、苦しそうに喘ぐ。
「ううっ、お母さん、お母さん」
悪夢があ沿ってきたのだろう。
当然だろう。
苦しむ少年の傍で、しかし何もしてやれないルートニックは、ただ静かに傍にいてやることしかできなかった。