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ルートニックは、自分の家(部屋)に戻ると、そこで衣服を旅で使っていたものから、正装へと着替えた。
「うっわー、ルートニックまるで貴族みたい!」
と、アルが声を上げる。
「フフン、俺はこれでも栄えあるリューシャン帝国の騎士だぞ」
「すごい!
騎士様なんだ!」
興奮するアル。
「と言っても、騎士は最下級の貴族だけどな」
いらないことを言うラーべラムだ。
だが、それでも少年の心にはどこ吹く風。
「それでも貴族様なんでしょう、すごいじゃん!
僕、ルートニックを尊敬しちゃう!」
と、素直に言った。
「ハハハ、これでようやく分かっただろう。
俺は貧乏人ではなく、由緒ある騎士様だってな」
「ああ、そうなんだ!
ルートニックって貧乏な騎士様なんだ!
すごいけど、格好悪いね」
―――ガクリッ
貧乏であることから離れてくれないアル。
せっかくさっきまで気をよくしていたのに、今の一言でルートニックはがっくりしてしまった。
「ところで、お前たちにもまともな格好をしてもらうぞ」
「お前たち?」
「アル。それにラーベラムもだ」
「うわー、僕も立派な格好ができるんだ。
ワクワク」
「俺もかい」
「ああ、お前たちには王宮にきてもらう必要があるからな」
「王宮、スッゴーイ。
僕知ってるよ。皇帝様が住んでいるところなんだよね」
「……」
感嘆の声を上げるアルに、しかしラーベラムは無言だ。
「どうした、お前は王宮に行ってみたくないのか?」
「ああ、どうも俺は偉い人間のいる場所が、肌に合わないんでな」
「それでも、お前にも来てもらうぞ」
―――黄金樹の瞳
ルートニックが、アルを連れているのも、ラーベラムたちの帝都への同行を許したことも、すべてアルの黄金色の瞳のためだ。
今は、ラーベラムによってアルの瞳は普通の色に戻っているが、ルートニックはいまだに、アルの持っていた黄金の瞳に執着しているのだ。
もしもあれが黄金樹の瞳であれば、とてつもないことになるであろうから。
「仕方ない。それじゃあ俺も王宮に行かせてもらいますかね」
「ああ、しっかり見物をしてよ。
なんたって、お前みたいな庶民には縁のない場所だからな」
「ふん、好きに言え」
ルートニックの嫌味な言葉を、ラーベラムは不機嫌に返した。
「あの、ところでワシはどうなるんですか?」
「ん?
アントン、お前は付いてこなくてもいいぞ」
「ええっ!
なぜですか、この2人はよくて、どうして私は王宮に言っちゃいけないんですか!
私だって一生に一度くらいは王宮の中を見てみたいんですよ!
この帝都に来れたんだから、この機会を逃したら2度とないじゃないですか!」
以外にも、アントンは王宮に対して興味深々らしい。
それもそうだ。
一般人は帝都の中に入ることを許されていない。まして、王宮の中ともなれば、生涯に一度として入ることのできない場所なのだ。
「ねえ、ルートニック。
アントンも連れて行ってあげようよ」
「ダメだ。
用のある人間以外は、王宮に連れて行くわけにはいかない」
「えー、いいじゃん。ルートニックのケチ」
「何を言われても、ダメなもんはダメだ」
懇願するアルに、ルートニックはとりつく島もない。
ならばとねアルのねだるような視線が、今度はラーベラムの方を向いた。
「ねえ、兄さん」
「アル、あんまりルートニックを困らせるなよ」
「えー、だってー」
駄々をこね始めるアル。
しかし、結局アルとアントンの願いは届かなかった。
「仕方ないです。
私はここで待ってますからね」
と、王宮へ向かうアルたち一行を見送り、アントンは一人、ルートニックの住んでいる家(部屋)で帰りを待つことになった。




