20
20
「ねぇ、ルートニック、ラーベラム」
ドアを開けて出てきたアルは、2人の姿を見た。
「アル、お前どうしてここに!」
「兵士の人に聞いて、2人がここにいるって聞いたの」
ルートニックの問いに、アルが答える。
「ねえ、ルートニック。
ラーベラムは悪いことをしたんじゃないんだ。
僕を守ってくれようとしただけなんだ。
だから、お願いだから、牢屋から出してあげて」
と、アルが願い出てきた。
「お前……!」
アルの願いに、答えようとしたルートニックだったが、その言葉がつまり、表情が驚きに変わる。
「お前、どうした!
左目が青いぞ!?」
「えっ、僕の左目が青い?」
黄金の色をしていたアルの瞳が、右目と同じ青い色に戻っていた。その様をみて、ルートニックは驚いた。
黄金樹の瞳かもしれない人間の目が、ただの青い色に戻ってしまったのだから、驚かずにはいられない。
「おかしいな……僕の左目は……」
「おーと、何言ってるんだ!
ルートニックのおっさん」
「おっ、おっさん!」
突然、おっさん呼ばわりされて、別の驚きに包まれるルートニック。
俺はまだお兄さん。
などと、少年のアル相手に言って他ぐらいだから、オッサンとい言われて、衝撃を受けたのだろう。
「おっさん、アルの左目が、金色なんてバカなこと言っちゃいけないぜ。
こいつの眼は両方とも生まれたときから、青い色だぜ」
「そんなバカな、確かに青かったぞ」
「そうだよ、ラーベラム。
僕、確かに金色……」
「はあっ?
お前何バカ言ってるんだ?
青い目が、金色になるなんて、そんなバカな話があるわけないだろう。
どうせ寝ぼけて、夢でも見てたんじゃないのか?」
胡散臭げに言う、ラーベラム。
そして、ルートニックに向かっても言い放つ。
「オッサン、何を勘違いしているのかは知らないけど、俺の弟は変な色の目をしてないぜ」
「だが、私は確かに見たのだ。
金色の瞳を。
黄金樹の瞳かもしれない、目の色を……」
「はあっ?
どうやら、おっさんもアルと同じで、寝ぼけてるみたいだな。
見てみろよ、こいつの眼は青い色だぜ」
ラーベラムに言われて、もう一度アルの左目を見るルートニック。だが、アルの瞳は見間違えるはずもなく、青色をしていた。
「おかしい、確かに黄金の色だったはず……」
と、納得のいかないルートニック。
「まったく、その歳でボケるなんて、困ったもんだな」
一方のラーベラムは、これでとどめとばかりに言い放つ。
「そうだ。そんなに疑うなら、あのときの兵士たちに聞いてみたらどうだ。
目の色が金色の子供だったら、兵士たちも覚えているはずだろう。
うっ、うむ。確かにそうだが……」
納得できない様子のルートニックではあるが、結局ラーベラムにいいように言いくるめられて、兵士たちに、アルの瞳の色を聞き出すために牢を出て行った。
2人だけになると、ラーベラムはアルにこっちに来いと手で合図する。
「ラーベラム、ゴメンね、僕のせいで捕まったんだよね」
「なーに、安心しろ。
別にこんなの初めてじゃないから、俺は全然平気だ」
「そうなの」
「ああ、もちろんだ。
それより、お前の眼のことだがな」
「僕の目のこと?」
「お前は、自分の目が金色だったことを人に言うなよ。
あの目が見つかると、結構面倒なことになるんだ。
だから、俺が青色に戻しておいてやった」
「もどしておいた?」
「そう、こうやったときにだ」
ラーベラムはそう言いながら、アルの左目を隠すように手を伸ばす。
それは、この街でアルがラーベラムと再会した時にした動作だった。
「ああ!
あのときに僕の目の色が元に戻ったんだ!
でも、どうやったの?
手品みたいですごいよ、ラーベラム!」
「コラコラ、あまり大声を出すと、おっさんに聞かれるだろう。
……あれは手品じゃないんだが……そのうちお前にもできるようになるよ」
「そうなんだ。
よーし、それじゃあ今から、頑張って練習しよう」
「練習ねえ……練習したからできるようになるってもんでもないけどな」
「えー、じゃあどうやるのか、教えてよラーベラム」
「だから、そのうち自然にできるようになるって」
「ムー、けち」
「よし分かった。
教えてやるが、簡単にはできないぞ」
「大丈夫、僕がんばる!」
「なら、今から腕立て伏せを百回に、腹筋を五十回。それから会談があるところでは、ウサギ跳びをしながら移動てだな……」
百パーセント純正の嘘をついていくラーベラム。しかし、本人は、適当に言ってるのだが、少年のアルはキラキラと輝く目をしながら頷いている。
「……てなことを、毎日欠かすことなくやり続けるんだ。
1日でも忘れたら、また始めからやり直しだからな」
「よし、分かった!
それを毎日すれば、できるようになるんだね」
「頑張れよアル」
(さっさと諦めろよ)
心の中で真逆のことを言って、ラーベラムは心にもない応援をアルにした。
「ああ、それとアル」
「なにラーベラム?」
「今日から、俺はお前の兄貴になってやる」
「……本当、ラーベラム?」
「おう、俺は本気だぞ」
「やったー、よろしくねラーベラム……兄さん」
「ん、よろしくな、アル」
アルは、輝くように笑った。
ラーベラムは、不遜な笑みを浮かべた。