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「ヤバッ!行き止まりかよ」
「ラーベラム、後から兵士たちがくるよ」
全力で逃げだしたラーベラムたちだったが、運悪く袋小路の行き止まりに出くわしてしまった。
高層の建物が道をふさいでいて、飛び越えられるはずもない。
後からはすでに、鎧をガチャガチャとならす兵士たちが追いついてきた。
兵士たちが怖い顔をして、ラーベラムを睨む。
それに対して、ラーベラムは不遜な表情で答えて見せる。まるで、「お前たちなんてなんともない」と、言い張っているかのような、ふてぶてしい姿だ。
とはいえ、心の中では余裕をかましていられない。
武器を持った兵士に抵抗すれば、山賊の時のように切り抜けるられるほど、今の自分が強いとは思っていないのだ。
「参ったな。
せめて、もう少しのこの体に慣れてたら、これぐらいの数なんとかなるんだけどな」
そう愚痴る。
まだ前のラーベラムから、今のラーベラムに生まれ変わって、ひと月もたっていない。
今の体を自分の意思どおりに完全に動かすには、まだ体に慣れるための時間が必要だった。
「さあ、痛い目に遭いたくなかったら、観念することだな。
もっとも隊長をぶん殴ったお前は、タダで返すわけにはいかないが」
「へー、ただじゃないってことは、何かいいものでもくれるのかな?」
「ああやるとも、その顔にこいつをな!」
そう言い放ち、兵士の1人が拳をラーベラムにお見舞いしてきた。
「おっと」
だがねそれを簡単に避けて、懐に強烈な拳をお見舞い……
―――ガンッ
「イデエッ!」
「ワハハ、バカかお前。
鉄の鎧に素手で殴りかかるなんて、お前バカだろう」
「うるせぇ、こっちだって体が勝手に動くんだから仕方ないだろう!」
勝手に動く体のせいにして、自分の落ち度を認めないラーベラム。
「ラーベラム、大ピンチだよ!」
「クッ」
兵士たちに取り囲まれ、もはやこれまでという状態だ。
「これは参った、降参だ」
ついに勝てる要素なしと見てとり、ラーベラムは両手を上げて降参した。
「そうだ始めから、そうやれば痛い目を見ずに済んだのにな」
―――ドカッ
兵士の拳が、無防備になっていたラーベラムの腹に命中した。
強烈な一撃に、口から息が漏れ、その場に膝を折るラーベラム。
「ラーベラム!」
慌てて、アルが駆け寄る。
「それ以上、ラーベラムにヒドイことをするな!」
ラーベラムと兵士たちの間に、両腕を広げたアルが立ちふさがった。
「おいおい坊や。
ヒドイことって言うが、そいつが先に、俺たちの隊長をひどい目に合わせたんだぞ。
これは正当な罰ってもんだぜ」
「それでも、ラーベラムにひどいことをするな!」
少年とは思えない、強い口調でアルが制止する。
だが、兵士たちはそんな少年を相手にしなかった。
「まったく、そっちの金髪もとんでもない男だが、ガキの方も、俺たちに刃向うみたいだな」
「どうする。
こいつも黙らせるか?」
兵士たちは、今度はアルに暴力を振るおうとする。
―――ガチャッ
兵士の1人が一歩あるの方へと近づいてきた。
「来るな!」
アルが兵士を制止するが、兵士はまた1歩前進してアルに近づく。
勝てる見込みのない相手を前に、それでも両腕でラーベラムを庇おうとするアル。
だが、兵士はそのアルにまで、暴力を下そうとしているのだ。
「それ以上来るんだったら……」
近づく兵士に、アルは怯えながらも動かない。
だが、その時背後にいたラーベラムが、そっと立ち上がった。
「ラーベラム、立っちゃダメだよ」
さっき腹にもらった一撃のために、やや顔色の悪いラーベラム。よほど強烈な一撃だったのか、足取りもややおぼつかない様子だ。
「やれやれ、この俺が子供にかばわれるとはな……。
だが、お前の覚悟はたいしたものだ、褒めてやるぜアル……いやアルフォード」
アルを本名で呼ぶラーベラム。
そして、不遜な表情になり、にやりと笑った。
「それでこそ、俺の契約者だ」
そう言い放つ。
そしてラーベラムは、詰め寄る兵士の1人をにらみつけた。
その視線があまりにも鋭く、兵士は本能的な畏怖を覚えた。足が一歩後退してしままう。
後退してしまったことに気づいて、兵士は慌てて叫んだ。
「な、なんだ!
お前みたいな奴が!」
言っている意味は兵士にも分かっていない。ただ、自分の感じた恐怖を振り払うために叫ぶと、ラーベラム目がけて殴りかかろうとした。
(やれやれ、参ったな。
はったりをかましたはいいが、ヒドイ目にあいそうだ)
威圧こそしたものの、ラーベラムには勝さんなんて全くなかった。ただこのまま兵士に捕まるぐらいだったら、やられる前にやれるだけ殴り倒してやる。
そう思っていたのだ。