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迷子になって、ゴロツキに襲われかけていたアルを助けたのは、金髪碧眼の青年だった。
あっという間に、ゴロツキを倒した男は余裕の表情……と言いたかったが、右頬を摩りながら、不貞腐れていた。
「畜生、まさかこんなザコに一発もらうとはな。
やっぱり、生まれたばかりだから、こんなものか?」
よく分からない言葉を口にする。
「……」
そして、その青年の傍に、無言の男がやってきた。
なぜだか、その顔はげっそりと疲れ果てていた。その顔はアルが知っている中では、ルートニックがペットに倒れ込んだ時の顔に、そっくりだ。
「助けてくれてありがとう」
アルは、そう言ってゴロツキから助けてくれた金髪の青年に感謝した。
「ああ、いい響きだ。
いいね、こういう純真な少年の感謝というものは、百万の賛否にも勝る栄誉だ。
もっとも、乙女のキスには、及ばぬがな」
「……」
「……」
アルと、金髪の青年の付き人らしい人物は、黙り込んでしまった。
アルには、どう返したらいいのか分からない。
一方、付き人の男は、もはや何を言っても無駄だと悟りきっているから、無言だ。
「変なおじさん」
結局、青年に対してアルが言った言葉はそれだった。
「……お前、前にも俺のことを、『変なおばさん』って言ったよな」
青年が押し殺した声で言う。
「えっ?
どうして?
僕、オジサンに会ったのは、初めてだよ?」
不思議そうに話すアルだが、青年は不機嫌な顔をやめなかった。
「どうしてなんだ。
どうして、子供ってやつは、こうも純粋で、残酷なんだ」
そんなことをブツブツという。
なんだか、アルがどこかで一度聞いたようなことと似ている。
「あれ?
おかしいな、オジサンによく似た人を、僕知ってる」
「当たり前だろう。
なんたって俺はラーベラムだからな」
「ラーベラム」
「そう……
この声だと分かるだろう」
いきなり、目の前のラーベラムと名乗った青年の声が、女性の者に変わった。
それは、アルが知っている、淡い一人と共に消えてしまった、女性のラーベラムの声だった。
「へっ?
その声は、ラーベラム」
「お前、そんな特技まであったのか、とことん変態だ……」
女性のラーベラムの声を知っていたアルは驚く。
一方、この場にいるアントンは、女性のラーベラムのことを知らない。自然、この場にいるラーベラムが出した女性の声に、変態であることをますます強烈に意識せざるを得なかった。
「アントン、お前いい度胸してるな」
「プッ、プクククッ」
不機嫌な顔のラーベラム。でも、声がさっきの女性のままだ。もしも声だけ聞けば、その美声に思わずうっとりしたことだろう。だが、男が目の前で出しているのでは、もう笑うしかない。
「ワハハハ、ワハハハハ、ヒー、面白い。ワハハハハハ」
「……」
笑いまくるアントンは、ついにその場に立っていられなくなったのか、地面に膝まで着いてゲラゲラと笑い続ける。
「俺としたことが、なんて無様な……」
こいつに、女性のラーベラムの声を聞かせるんじゃなかった。
そう思う、ラーベラムだったが、もう手遅れでしかなかった。