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黄金樹の瞳  作者: エディ
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 山賊に襲われていた時、ラーベラムに助けられた行商の名前をアントンと言う。

 彼の命は、ラーベラムに助けられたことで助かった。

 だが、その後の彼の運命は大きく変わってしまった。

 少なくとも、当人はそのように思っていた。


 なにしろ、ラーベラムは帝都を目指すと言いながら、一番初めにたどり着いた町で、一番いい服を選び、その代金をアントンに無理やり出させた。


 次に帝都に向かうために、ユフラス大河を行く大型船に乗ったのだが、その船賃もアントンが出したのだ。

 ラーベラムは、一等の船室を要求したが、そんな金は、アントンにはない。


「なんだと、この俺にただの庶民と同じ部屋で、寝ろだと!

 絶対に許さん!」


 そう意気込んだラーベラムは、船の乗組員に突っかかり、乱闘騒ぎまで引き起こした。

 腕っ節の強いラーベラムであるが、船中の乗組員相手に、勝てるはずもなく、行き場がなくなって、ついに船から飛び降りて逃げ出す有様だった。

 その時、アントンはこの厄介すぎる青年から逃げ出したかったのだが、時陽院の1人がアントンをラーベラムの連れ人だということを覚えていた。

 いきり立つ船員たちに囲まれ、

「この乱闘騒ぎの責任をとれ。

 弁償してもらうからな。

 ……何、金がないだと!

 だったら、役所に付きだしてやる!」


 いきり立つ船員たちから逃げるために、アントンも仕方なく、ラーベラムと同じく、船から飛び降りるしかなかった。



 だが、これでラーベラムとはお別れだ。

 川に飛び込んだ後は、ラーベラムと離れ離れになったのだ。


 ―――これで一安心。


 そう思ったものの、次にたどり着いた街で、平然とラーベラムがお茶を飲んでいた。

 何やら妙齢の美女相手に、楽しく話し込んでいたのだが、その彼が目ざとくもアントンの姿を認めたのだ。

 お茶を楽しんでいたラーベラムは、コイコイと指で合図してくる。

 だが、アントンは急いで逃げだすことにした。


「この男に関わっては、ダメだ。

 もういやだ。

 絶対に関わらない。

 あんないかれた男はごめんだ!」


 心の中で絶叫し、アントンは逃げたのだ。

 幸い、ラーベラムはアントンが逃げ出した後も、美女とのお茶をのんびりと続けていた。


 これで全て終わった。

 めでたしめでたし……


「よっ」


 次の街にたどり着くよりも早く、ラーベラムは街道上でアントンに追いついていた。しかも、あとから追ってきたであろうラーベラムの方が、涼しい顔をして、アントンがやってくるのをのんびりと待っていたのだ。


「どうして、お前が俺より先にいるんだ!?」

「それが、さっきの女性が場所で隣町まで行くってもんだから、途中まで同行させてもらってね」

「……」


 にこりと微笑するラーベラムの顔は、なんともすがすがしそうだった。とても気持ちのいい顔をする、この男の顔は、そこだけ見れば天使の笑みだ。

 確実に、真黒な尻尾が生えている、邪悪な天使の笑顔だが……。



 その後、捕まってしまったアントンはラーベラムの言われるがままに、帝都近隣の街にまで旅を続けた。


「この街はよく知っているんだ。なんたって、昔の俺が作り始めた街だからな」


 ラーベラムはそう言った。


「何を言ってる。

 この街はリューシャン帝国の建国の時代に作られた街だ。

 今から300年以上も昔の、『俺』って、一体どういう意味だ?

 でも、こいつは見た目がまともでも、頭はおかしいから、これぐらいの言動はちっともおかしい部類に入らないぞ」


 ラーベラムと旅する間に、すっかり鳴らされてしまったアントンは、そのように心の中で思った。

 もちろん、口に出してこんなことを言うわけはないが。


 だが、自称この街を作った男は、簡単に迷ってしまった。

「おかしいな。

 ここはどこだ?

 この俺の勘が間違っているのか?」


 勘と言ってるところで、もう絶望的だった。


「……なあ、アントン。

 お前ならこの街の道、知ってるよな」


 ついに諦めたラーベラムは、あっさりと同行者のアントンに、道案内を頼んだ。


「俺はこの街に来たことがないんだ。

 そんなの分かるわけないだろう」

「へっ?

 それは困ったな」


 今までふてぶてしい様子を崩さなかったラーベラムが、このとき初めて間抜けな顔をした。


「しかたない。

 じゃあ俺の勘を、頼りにするか」


 人に道を聞きもせずに、その後アントンとラーベラムの2人は、散々道に迷った挙句、どことも知れない袋小路に迷い込んでいた。


「おっ、ようやく探し物みっけ!」


 と、それまでただの迷子と思っていたラーベラムが、そんなことを口にした。


 突然走りだすラーベラム。


「おい、どこに行くんだ!」


 走り出すラーベラムの後をアントンは追う。建物が乱立する道のため、すぐにラーベラムの姿を見失ってしまった。


「ハアッ、本当に自分勝手なやつだ。

 なんて困った奴なんだ」


 そうため息を口にしたアントン。


「だが、もしかしてこれは逃げるチャンスか?」


 だが、ラーベラムが勝手に走っていなくなったのだから、これ幸いにアントンは逃げ出すことにした。


 とはいえ、街の複雑に入り組んだ袋小路の中にいるために、簡単に抜け出すことができない。

 小路のところどころには、まずしい貧民が群れていたり、明らかに犯罪と関わりのある人間たちの姿がある。

 ラーベラムの財布代わりにされたせいで、ほとんどすっからかんの財布しか持っていない、アントンだったがねそれでも全財産を取られては困る。

 犯罪者にしても、金のない貧民にしても、どっちかに襲われては困る。


 アントンは小心者なのだ。


 その結果、袋小路の道を、さらに人がいない場所だけを選んで進んだ。その結果、アントンは見てしまった。

 刃物を振り回している男を、簡単にのしてしまったラーベラムの姿を。


「おい、俺は逃げてたのに、どうしてこうなるんだ……」


 己の不運を呪うアントン。

 そんなアントンに、こっちにこいと指で仕草をするラーベラム。


「トホホ、しかももう見つかってるし」


 泣きたくなるアントンだった。


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