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「ふむ、この体は思っていたいじように素晴らしい。
やはり女では、こうはいかないからな」
ラーベラムは自惚れていた。
ものすごく自惚れている。
ただし、彼の周囲には、苦しみもがく山賊たちが、うめき声を上げながら転がされていた。
「で、誰をボコボコにするって言ってたんだ?」
―――ゲシッ
ラーベラムは、倒した山賊のボスにとどめの一撃のように蹴りを入れる。
もう立ち上がれない人間に対して、手加減というものがない。
「グハッ」
「なんだだらしないな。
もう気絶したのか?
やれやれ、何じゃくな奴らだ……いや、単に今の俺が強いだけか」
ニタリと笑い、ラーベラムは勝ち誇った。
だが、まだ彼は服を着ていない。
勝ち誇るなら、せめて、文明人として服をきてから勝ち誇ってもらいたいものである。
「な、なあ、あんた」
「ん?」
と、それまで怯えるだけだった行商が、ラーベラムに声をかけてきた。
「あんた、すごく強いんだな」
「ああ、俺も今それを確認したところだ。
今の俺は、かなり強いぞ」
「……」
―――やっぱり、頭がおかしい
ラーベラムに助けてもらった形になる行商だが、それにしても、変な男に助けられてしまったと思う。
「……ま、まあいい。助けてくれてありがとうな」
「今の間は何だ?
もしかして、俺をおかしい奴だと思ってないか?」
「へっ、そ、そんな、ことは、ないぞ」
「そんなに動揺して言うなよ。
どうせごまかすなら、もっと堂々として嘘を言えよ」
堂々と嘘をつけというラーベラム。
「……」
この奇妙奇天烈すぎる青年に、行商は声を失ってしまった。
「ま、そんなことよりもだ?
あんた服持ってないか?」
「服?
何に使うん……」
「だ」という言葉を口にする前に、今のラーベラムの姿を見れば一目瞭然だった。
「なるほど。そういうことか。
命を助けてくれた恩人だ。
俺の服があるから、それぐらいならやるよ」
「話が早くて助かるな」
話がまとまり、行商はラーベラムに、自らの着替えの服を渡した。
だが、着替えて見てすぐ、ラーベラムは眉をゆがめて、不機嫌そうに言った。
「なんだこれは、プカプカだ。
おまけに背丈が小さすぎる」
ラーベラムの体系と行商の体系は雲泥の差だった。
まるで亀の服を、鶴に着せようとするみたいに、全くサイズがあっていない。
「すまない、俺が今持ってるのは、それだけだ。
それより、あの山賊の服ならどうだい?
背丈も結構にてるから、大丈夫じゃないか?」
「ヤダ」
せっかくの行商の提案だったが、ラーベラムは即答で拒絶した。
「誰があんな、臭い服を着れるか。
あんな臭うのを着るなら、この服で我慢してやる」
「そ、そうかい」
―――なんだか難儀な男だな。
そう行商は思う。
しかし、行商がラーベラムのことを本当に難儀だと思うのは、ここからだった
「ところでだ。
お前を助けてやったわけだから、これからお前は俺の従者になれ」
「はい!?
……今、なんて言いました?」
ラーベラムの突然の言葉に、行商は我が耳を疑う。
「なんだ、頭の悪い男だな。
お前は俺の従者にしてやるぞ。
どうだ、このラーベラム様の手下になれるんだ。
感激してもいいんだぞ?」
当然のように言う、ラーベラム。
「ちょっと待て、俺が何でお前の手下なんかにならないといけないんだ!」
「ああ!
何を寝言を言ってる!俺のような天下一の美人の手下になれるんだぞ。
どんな男だって、イチコロ……って、今の俺は男だったな」
自分が男であることを、なぜわざわざ口にしているのだろう。男は、まるで自分が女であるかのように勘違いしている。
「ああ、面倒だ!
女の頃だったら、こんな面倒な間違いをせずに済んだのに」
―――誰か、この変態を何とかしてくれ!
お願いだから、助けて。
心の中で、切実に願う行商。
しかし、そんな行商の願いを聞いてくれる人は、ただの1人もいなかった。
「も、面倒だ。
お前は、今日からおれの手下。
いいか、絶対に逃げようなんて思うなよ
こうなりたくなければな」
―――キーン
倒れていた山賊の1人を、ラーベラムは手加減無用で蹴った。男にとって非常に大事な部分を、手加減もせずにだ。
気絶していた山賊が、その瞬間泡を噴き出した。意識を既に失っているとはいえ、この一撃は相当に強烈だったのだろう。
「てことで、今から帝都に行くぞ」
「ひー、俺はまだ手下になるなんて言ってないぞー」
行商が、そう叫んでラーベラムに抵抗するが、ラーベラムが容赦なく男の首根っこをつかんで離さない。ずるずると引きずられながら、行商はラーベラムと共に、帝都を目指すことになった。
……なってしまった。