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突然だが、視点が変わる。
その人物は森の中で目覚めた。まずは眠気を払うかのように、肩を回し、伸びをする。
「うーん、私はどれぐらい寝ていたのだ?」
そういってね立ち上がる。
「おっと」
―――ドテッ
すぐにこけてしまった。
「まったくなんて様だ。この前と身長が随分違うな、おかげでバランスがとりにくい」
そんなことを言って、その人物は不満げな顔をする。
「よっと」
しかし、すぐに反動をつけて立ち上がる。
パンパンと手に付いた土をはたき落とし、そしておもむろに前髪を書きあげる。
瞼を閉じて深呼吸をゆっくりとする。それからゆっくりと瞼を見ひらく。青い色の瞳が、周囲に広がる世界を映し出した。
何の変哲もない森の中、森の緑色の景色が、しかしやけに新しく、眩しく感じられる。
「んっ、いい景色だ。諸君には感謝する」
森の木々に向かってそういうと、その人物は手を振りながらその場を後にした。
ほどなくして、その人物は河にたどり着いた。
「どれどれ、私の顔はどんなのかな?」
そう言い、川面に移る自らの姿を確かめる。
そこに映っていたのは、金髪碧眼の青年の姿。
にやりと笑い、それから左右に動かして、顔の形を確かめる。笑ったあとは、怒った顔や、困った顔に、泣いた顔、さらには呆けたような顔までして見せた。
そのどれもが、絵になる顔立ちだ。並の容姿ではない、美麗な相貌をしている。
とはいえ、女のような姿ではなく、自信をもった男の姿。
男々しすぎず、それでいて女の容貌ではない。
何やら不遜な姿をした青年だ。
青年は透きとおる金髪をゆっくりとかき揚げ、気障な笑みを浮かべた。
「残念だな、今度は男か」
そう言い、男は自分の体を見る。
体は、一糸まとわぬ姿だった。無駄はないが、それでいてしっかりとした筋肉のついた体。筋肉を撫でまわし、それから青年の視線は自然と、女性にはないでっぱりの方へと移る。
「ああ、なんてことだ、ラーベラム。私は前の姿が気にいってたのだぞ。
あの銀の歌姫とまで呼ばれた姿が、何という様だ。
今では男になってしまった……」
ラーベラムのことを口にして、男は嘆きの声を上げる。
「ああ、それに私の声も変わってしまった……」
青年の声は、女性の透き通る声ではない。それはそれで美声なのだが、それでも女性のように透きとおる響きを持った声ではなかった。
「これでは歌姫は無理だな……第一、男が姫になってはとんでもない侮辱だ」
何やら当たり前のことだが、どこもかしこもおかしなことを口にしている。
青年はまるで、自分がつい先ほどまでは女でいたかのような口ぶりなのだ。
「ま、仕方がない。
それより、今回の契約者は確か男だったな。
……うん、覚えているぞ。前のラーベラムだった頃の記憶を」
そう口にする。
前のラーベラム。
そう口にした青年は、不適な表情をして、耳をすませた。
「ちょうどいい、私好みの展開だ」
そういうと、青年はあろうことに、裸体のままでその場から駆けだした。