8 水面の都市
8 水面の都市
リューシャン帝国を東西に分つ大河、ユフラス。
この河は帝国を北から南へと流れる大河で、その河口付近は帝都の近郊にまで続いている。
川幅は広い所で数キロにもなり、その深さは大型船の交通も可能にしている。
帝国を南北に貫く、重要な交通路。そして物資の運搬路でもある。
帝国の人の流れと物流を支える、重要な大河なのだ。
ルートニックに連れられた、アルは、この大河をゆく船に乗っていた。
「ねえ、ルートニック」
「……」
「僕どうせならあっちの大きな船に乗りたかったな」
「……」
「ねぇねぇ、乗りたいよー」
「ダメだ、金が足りない」
「ちぇっ、ルートニックのケチ」
ケチだろうがなんだろうが、金がないのだから大きな船に乗ることはできないのだ。ルートニックはたいした膨らみのない自分の財布を手に持ち、そしてため息をついた。
「どうしてだろうな。
金ってやつは入ってくるときは、重いはずなのに、出ていく時には、まるで羽がついてるかのようだ」
「言ってる意味が全然分かんないよ?」
「だろうな、子供に分かるはずがない」
現実のつらさをこぼすルートニックだ。
しかし、本当に現実と言う奴はつらいものだ。
何しろ、アルが大型船に乗りたいと言っているが、ルートニック達が今乗っているのは、オンボロの漁船なのだ。
それも今にも沈んでしまいそうで、大型船が近くを通るたびに、右へ左へ、激しく揺さぶられている。
その船を選んだ……いや、選ぶしかなかった理由は、無論ルートニックの路銀のためだ。
「なあ、爺さん。本当にこの船で帝都まで無事にたどり着けるんだろうな」
「ホッホッホッ、安心せい。まだ沈んだことはないから大丈夫じゃぞ」
「全然安心できねぇ」
「ホッホッホ」
のんきに笑うのは、船の持ち主のお爺さんだ。
―――ザブン、ザバン
―――グラグラ、グーラ
近くを大型船が通り過ぎるた。船が激しく揺さぶられて、船のヘリから水が若干入ってくる。
「わーい、楽しいなー」
「……」
「大きい船にも乗りたいけど、この船って面白いね」
「……」
「あれ?どうしたのルートニック。
さっきから全然しゃべらないね?」
「気持悪い……」
「へっ?」
「オエエエッ」
激しい揺れで、とうとう船酔いしてしまったルートニック。
「ホッホッホ」
船の上では、お爺さんがのんきな笑い声を再び上げるのだった。