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その言葉の先は、シラフで聞かせて  作者: 黒乃きぃ


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 もや、とした気持ちをどう言葉にするか。幸い、入店した時には満杯だった店内は少し空いてきていて、外に待っているお客さんもいないから、多少会計に手間取っても許される空気感ではあった。それに甘えて、どうにか言葉を引っ張り出す。


「…デートって言うなら」

「うん」

「もう少し対等に扱ってくれてもいいと思います」


 甘やかされるのが嫌なわけじゃない。有難い。でも行き過ぎたそれは受け取りがたい。気遣ってくれていてこそなのはわかるから、それをどうしたら不快に思わせず伝えるか。悩んだ結果まろびでたのは、なんとも意地っ張りな言葉だった。

 今度はコウタさんが目を見開いて、それから吹き出す。


「そりゃあそうか」

「そうですよ」

「よし、じゃあ今日はちゃんと割り勘しよう。三千五百円」

「はい」

「ほい、丁度。……すみませーん!」


 ほら見た事か、千円じゃあ到底足りてなかった。コウタさんがお会計をしてくれるのを眺めつつ、お互いのコートをハンガーから回収しておく。お会計が終わったのを見計らってコートを手渡し、店内は狭いからとりあえず外へ。店先で寒い寒いと言い合いながらコートを羽織った。


「じゃあ帰るか」

「コウタさんはまだ飲んでていいんですよ?」

「拗ねんなって。送らせてよ、な?」

「……はあい」


 割り勘に落ち着いたけれど、それでモヤモヤが完全に消える訳でもなく。わざとらしくツンとそっぽを向く私に吹き出して、コウタさんはするりと手を繋いでくる。


「甘やかしたかったんだって。許してよ」


 へにゃりとした困ったような笑顔は初めて見る。どうしたもんかと弱りきった顔。徹頭徹尾、コウタさんは今日私を甘やかそうとしてくれていた、と思う。というよりエスコートされるのが下手な私をリードし続けてくれた。だから意図はわかる。分かっている。それと自分のささやかなプライドが両立するかというのはまた別の話だ。

 

「……甘やかされているというより、なんかこう…」

「ん?」

「有難いことなのは前提として、でもなんか…飲み仲間だっていうのに完全に目下の人間として接されてるのがなんか、嫌です」

「うん、そうだな。ごめん」


 ぽつぽつと話す私の言葉一つ一つに、優しく相槌を打ってくれるのが有難い。ともすれば面倒な酔っぱらいの絡み酒として一刀両断されても致し方ない自覚がある。だけどそれをちゃんと拾い上げてくれる面倒見の良さがコウタさんだよな、とも思う。まだまだ、短い付き合いだけれど。

 

「…また飲み行ってくれます?」

「そりゃあ勿論」

「なら許します」

「ありがと」


 厚意に対して駄々を捏ねた自覚はあるので、恐る恐る問えば、きょとりとした後で破顔される。それにほっとして、わざとらしく許します、なんて高飛車な答えを投げた。私のしょうもない心の機微に振り回されたというのに、コウタさんはニコニコと楽しそうに笑って私の手を引いて駅の方へ向かって足を進める。


 ロッカーに預けておいたアウター入りのショッパーを引っ張り出して、改札どころかホームまでコウタさんは見送りに来てくれた。優しい。


「結構ふわふわしてるけど、帰れるか? 大丈夫?」

「大丈夫ですよ? いつもの帰りよりはしゃっきりしてるつもりですけど」

「いやそれはそうなんだけど…」

「むしろ見送ってもらえるのに慣れなくてちょっとソワソワしてます」

「見送るのは当然じゃない?」


 駅まではわかるが流石にホームまでは当然ではない、と思う。お互いにきょとん、とし合う。私の元カレは確かにクズかダメンズばかりだけれど、ホームまで見送るのが当然ってそれはちょっと尽くしすぎでは。

 不意に思い出す、コウタさんの私と似たような経験の話。それを思うと…実は私にとやかく言うけれど、コウタさんも尽くし体質というか、なんというか、似た者なのでは、という疑念が湧いた。


「当然じゃないと思うし、それはちょっと尽くしすぎじゃあ…」

「えー…そうか?」

「コウタさんも元カノストーカー話があったの、なんか納得してます」

「え」

「案外似てるのかも、私たち」


 考え方の根本とかは絶対に似てないけれど、その、色恋沙汰に関しては一定似ているかもしれない。だからこそコウタさんは私を見捨てられなかったんじゃあなかろうか。お互いに気遣いを見せるたびにそわそわするのも、きっとお互いに普段は自分がやることをやってもらってるから、では。


「…いや似てるか?」

「似てないですかね?」


 お互いに首を傾げ合って見つめ合うこと数秒。どちらからともなく吹き出す。なんでこんな真面目にしょうもないことを酒入った状態で論じているんだか。


「ふはっ…これ考えるだけ答えでねえやつ」

「んふふふ、それはそう」


 じゃあ考えるだけ無駄か、とお互いに肩を叩き合って電光掲示板に目をやる。あと二分で、電車が来る。

 似てても似てなくても。一緒に飲む酒が美味しくて楽しいなら、それがすべてである。


「コウタさんここから近いですか?」

「何なら歩いて帰れる」

「あ、だからこの辺のお店詳しいんですね?」

「そうそう。またこの辺で飲みたかったら任せてよ」

「やった。女子会向けのお店とかも聞いても良いです?」

「女子会…あーまあ女子受けの良さそうな店くらいなら…?」


 歩いて帰れる距離なら、ホームまで送ってもらうのがやっぱり申し訳なかったな、と思いつつ。お互いに譲らないんだからこれは甘受しておこう、と気持ちを切り替える。


「あ、電車きた」

「おー。じゃ、またいつもんとこで」

「はあい。またあそこ以外でも飲み行きましょうね」

「今日みたいに?」

「今日みたいに。楽しかったので」

「じゃあまたな。…俺も楽しかった。おやすみ」

「おやすみなさい」


 電車に乗って、扉が閉まるまでを言葉で埋める。丁度おやすみを言い合ったところで扉が閉まり始めたので、窓越しに手を振った。

 コウタさんは、電車が動き出して私の姿が見えなくなるまで、ホームで見送ってくれていた。



『無事に家につきました、今日はありがとうございました』

『俺も家ついた。また行こうな』


 家に帰って、定型文的なやり取りをする。二、三のラリーをおやすみなさいスタンプで区切って、ベッドに後ろ倒しにダイブした。


「…甘える、かあ」


 甘えて振り回していい、と言われたのは人生で初めてだった気がする。酒でぽやぽやとした頭のまま、言われたことを反芻してみる。確かに今日は甘やかされていた。というより、コウタさんと一緒の時は常に甘やかされている気がする。それに沈み込むのが怖いような、もっとそこに浸ってみたいような。

 今まで男性に振りまわされる側だった自覚があるから、急にそうじゃあない関係性に、少し足がすくんでいる。まあ色恋沙汰じゃない関係性で、踏み込んでいいラインをお互いに見定めているタイミングだから、というのもあるだろうけれど。


 今日撮った数枚の写真をSNSにアップする。勿論、コウタさんと──というより、男性と二人、というのが分からなそうな画像だけに限定したり、ちょっとトリミングして分からなくしたりはしつつ。


 時計を見れば、まだ二十一時過ぎ。なんとも健全な時間に解散したものだ。メイクを落としつつ、まだ時間的にもそこまで遅くないので湯を溜めることにする。ぼーっとしていると、スマホがけたたましく着信を告げた。

 

「…はいもしもし」

「ちなっさん? アレ、相手あのいけ好かない人でしょ!」

「え、なんで分かったの?」

 

 電話を取れば相手はアヤネだった。しかも何故か、相手をしっかり特定している辺りが怖い。ぎょっとしつつ質問すれば、相手側をメンションしていないアップの仕方が珍しいからカマをかけたと。まさかの特定方法に遠い目になる。


「デート?」

「デートというか…アイス食べ行って酒飲み行ってただけだよ」

「二人でしょ? それはデート!」

「いやまあそうなんだけれども…」


 何でこんなにピリピリしてるんだろうなあ、と思いつつ、耳元で聞くのがちょっとしんどいのでスピーカーモードにしてベッドに放り投げて横に腰を下ろす。


「…付き合うの?」

「ないないない。なんで?」


 まさかあんなに犬猿の仲っぽい空気感なのに、実はコウタさんのことが好きとか? そんな安直な恋愛脳みたいなことを思い浮かべれば、口にしていないのに電話口、それだけは絶対ないからね、と先んじて釘を刺される。


「…ああいう手練れのタラシ男、なんか気に食わないのと…」

「と?」

「ちなっさんが振り回される未来しか見えないから! 嫌!!」

「えー」


 アヤネはアヤネで、私の引きの悪さ(ある種引きの良さとも言えばいいのか)を心配してくれているらしい。だからといってコウタさんに敵意丸出しなのはちょっとどうかと思いつつ。駄々っ子のようになってしまったアヤネを電話越し宥める。


「コウタさんとは飲み友達だから。安心してよ。向こうもそんな気ないし」

「ちなっさんがそうでも向こうは分からないじゃない…」

「ないないない。絶対ないって」


 電話越し、無言で私をなじるアヤネに、ケタケタと笑い返す。

 この時、軽くアヤネの言葉を笑い飛ばしたのを真剣に悩む日が来るなんて、私は心の底から予想もしていなかった。

これで一旦一区切り。

しばらく更新お休みいただきます。

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