8話 今のピス
誤字修正2026.1.25
時は少し戻り 街の外れ_森の入り口にて
ピスが意識を失って倒れてる横で私_ピネルは魔犬の背をさすっていた。
サザは背を丸めずっと唸っている。
「…ごめんねサザ。苦しいよね‥でももう少しで終わるから…」
私は隣で苦しそうに唸るサザに対しそう言った。
もうあれから六年。長いようで短かった。
でもそんな日々が今日で終わる。
私はナイフをポケットから取り出しピスの首に当てる。
(…人間はみんな消えちゃえばいいのに)
人間は魔法使いを殺す悪人。
私は自分を含めて人間が大嫌いだ。
だから今日、全世界の人間をとはいかなくてもこの街の人間を絶望の淵に落としてやる。
そう決めていた。
「だからピスさんをまだ殺すわけにはいかないけど」
そう呟き私はナイフをポケットにしまった。
この街に「夜鳩」が来たことを私は知っている。
きっとサザのフィディスを回収しに来たのだ。
でもあの人たちにフィディスを回収されてしまえば私の野望は叶わない。
そのために街へ来た「夜鳩」の中で唯一人間だったピスを狙い人質にすることに決めた。
天種は薄く闘気を纏うし、竜種は人とは関わらない。他は呪いで判別できる。
となると消去法でピスは人間と絞ることができたのだ。あの愚かで自分勝手な「人間」なのだと。
ポケットに穴を開け落とし物を届ける作戦が上手くいってよかった。
(…ピスさんはまだ人質でいてね。抵抗をしなければ無傷で返してあげるから)
夢の中で聞こえないピスに私はそう告げ私は立ち上がる。
ーー復讐の始まりだ、
* * * *
「っち」
俺は商家の娘とピスが見つからない焦りで舌打ちをする。
街中を走り回ったがピスも商家の娘もいないことが判明した。
いつもは冷静と言われる俺でもさすがに焦りを隠せない。
落ち着いたはずの心臓がまたバクバクと大きな音を立てて鳴っている。
(ーっ静かにして、くれ俺の心臓)
『おいメルロ、カシアいた』
ゆっくりと呼吸をしていると、そう言うラチャの声が聞こえた、
顔を上げれば右からラチャを乗せたメルロが走って来た。
メルロの顔は汗だくで息も荒かった。
『そっちはどうだった?メルロの奴魔力探知も試したんだが、分かんなかったらしくて』
「俺の方もいない。だが魔力探知に引っかからないってことがあるのか?魔犬だろ?」
基本的に魔物なら魔力探知に引っかかるはずなのだ。魔力があるし。
それにメルロは魔力探知が得意と前にラチャから聞いたことがある。
普通は半径二百メートル範囲しか魔力探知を展開することができないらしいが、メルロは半径六◯◯m範囲まで繰り広げられるらしい。
この街はそこそこ大きい街だとは思うが、半径六◯◯mまであるかと言われたらないと思う。
そのため街の中央で魔力探知を使用すれば引っかかるはずなのだ。
だが引っかからないということは‥。
「もしかして街にいないのか?」
『その可能性の方が高いかもしれないな。だがピスはどうだろ‥精霊種には魔力が無いからメルロの魔力探知には引っかからない。迷子って線はもうないだろ?』
「…」
ラチャに指摘され俺は口をつぐむ。
そうだ。ピスは精霊種だ。魔力探知では探せない。
だが街中を走り回っても見つからないのだ。‥もしかしたら‥。そう悪い考えが脳裏をよぎる。
『その‥きっと大丈夫ですよカシアさん!ピスさんは心がとっても強いんです!だから…えっと‥』
口をもごもごとさせメルロは俯いてしまう。
ラチャを強く抱きしめていた手は少し震えていた。
きっと俺を励まそうとしたのだろう。いつも以上に余裕がなかったから。
(でも‥今のピスと前のピスは…同じではない。俺は今のピスをあまりに知らなさすぎる。ずっと前のピスと同じように接していた‥だから今のピスが本当に無事なのかは分からないんだ‥)
ちゃんと今のピスを知ろうとすればよかった。その人という人物の定義はどこからしていいか分からないが、今のピスと前のピスは同じようで違う。
前のピスは暗かったが芯のあるやつだった。
絶対人前では泣いたりせず、誰の力も借りずに一人で仕事もやり遂げる。
今のピスは昔と違い明るい。人前でも泣く。それぐらいしか俺は知らない。
だから俺は今のピスにちゃんと向き合わなきゃいけないんだ。新しい仲間のピスとして。
「何が好きなんだ?」「嫌いな食べ物は?」「面白いと思ったことは?」「何がしてみたい?」そんなたわいのことない会話で構わない。
前のピスと接してピスを段々と知ったように、今のピスも段々と知っていきたい。
(だから無事でいてくれ。生きてちゃんと話し合いたいんだ)
俺は両手で頬を叩いた後メルロとラチャを見る。
「‥そうだなメルロ。ピスは強いしな。きっとどこかの露店で美味しいものを食べてるだけだよな」
『そうです!きっとそう!』
そうメルロは笑いながら言った。
少し不安が混じったような笑顔。そんな表情をしたメルロに俺は拳を突き出す。
よく分からなそうな表情をしていたメルロだがラチャに耳打ちされ、メルロも俺に向かって拳を突き出した。
「頑張ろうなお互い」
『僕も混ぜろよ~』
そう言ってラチャも拳(?)を合わせる。
きっと大丈夫。そう心に言いかせていたその時どこからか悲鳴が聞こえてきた。
「だ、誰か助けてくれぇ!!魔物‥魔犬が現れたぞ」
ガシャーーンと大きな音が鳴り響く。
建物が崩壊したような音だ。
「きゃぁぁぁっ!もう終わりよっ!!」
「魔法使いの奴らがきっとけしかけたんだ!!」
どうやら人間の住居地区から聞こえるようだ。
だが探す手間が省けた。どうやら向こうから主役のお出ましらしい。
急いで現場へ向かわなけれらばならない。だが悪い予感がして足が動かなかった。
(…。いやここで立ち止まってたら何も始まらないよな)
「…っよし。メルロ、ラチャ行くぞ!」
『は、はい!』
俺はメルロとラチャを抱えて悲鳴のする方へ走り出した。
ーー全速力で。




