5話 契約精霊と私の力
誤字修正 2026,1,25
「これって…血の匂い!?」
生臭い鉄の匂いが鼻を突き、私は慌てて辺りを見回す。
だが、特に騒ぎはない。気のせいだろうか。
メルロとラチャも不思議そうな顔で私を見ている。カシアは…よく分からない。
だが神妙な顔をしていたので、気になりじっと見つめているとカシアは私を見て口を開いた。
「…精霊種は他種族に比べ鼻が利く。もしかしたらどこかで怪我人がいるのかもしれない。ピス、どの辺りから血の匂いがする?」
「えっと…街の入り口付近…私たちがさっき入って来た方からする!」
私は目を閉じ鼻を鳴らした後、カシアに伝えた。
カシアは頷き私たちの方へと近づいてきた。
入口とは逆方向なのになぜこっちへ近づいてくるのだろうか。そう思った時。私とメルロそしてラチャをカシアの左右の腕に担ぎ上げ、街の入口へと走り始めた。荷物になった気分である。
とても恥ずかしいし。すごく注目を浴びている気がする。夜鳩の意味である闇の中はどこへ消えたのだろうか。
「ちょっ!めっちゃ目立つじゃんこれ!?いいの目立って…痛っ!?」
私は想いきり舌を噛む。
一人で口を抑えて唸っていると、言い忘れてたと言わんばかりにカシアが「あんま喋るなよ‥」と言ってきた。もう少し早く言ってほしい。
カシアのバカ…と心の中で愚痴っていると私の先程の疑問をラチャが答えてくれた。
『大丈夫。バッチには認識阻害…ってピスはしてないのか…あとで渡す。まぁとにかくカシアに運んでもらった方が移動は早いよ?それにメルロは運動音痴だからな。走らせたりでもしたら明日筋肉痛になって使い物にならなくなる』
だからと言って私まで担がれる理由はあったのだろうか。
(もしかして過去の私も運動音痴だった‥?でも今の私ならもしかしたら運動音痴じゃないかも‥あ)
そこまで考え私は気づいた。
あくまでも第五パーティーの仲間が知っているのは過去のピスなのだ。
そりゃそうだ。今の私の話なんて誰も聞いてこないから話してもいないのだ。だって記憶を無くしただけで『ピスはピス』。前の私と今の私は同じだと考えているから。
それを私も疑問に思わなかった。‥実際には同じなのだろうが少しだけ悲しくなった。
今の自分は何なのだろうかと。いつか今の私が消えたら今のピスは誰の記憶にも残らず忘れられてしまうのかと。
(みんなが私に話しかけているのは前の私がいい人だったから。‥今の私を好いて話しかけてくれているわけではないんだ…)
私の目的は自分の過去を知ること。過去の私の想いを知ること‥だから知ってこの人格が消えたとしても嫌ではないんだろうけど…
でもだれか一人だけでも今の私を覚えていてほしい。
いつか消える人格だとしても。
みんなから忘れられるという経験をもう二度としたくないから。
* * * *
街の入口へ辿り着くと、子犬の集団(恐らく魔物)が、人を襲っていた。
補足するならば半ドームのようなものが集団と人を覆っている。
(早く助けなきゃ!だけどあの白っぽいドームは何?)
『おいカシア!あれだっ!人が二人血を流して倒れてる!結界が張られてるせいで声が外部へ響かないから騒ぎが大きくなんなかったのか』
どうやら結界と呼ばれるものだったらしい。
だが結界‥声が外部へ届かないと言っているが、中へ入ることは可能なのだろうか。それによって対処法が変わってくる。
カシアも同じことを思ったのか結界に触れる。するとすんなりと結界の中へ手が通った。だが引っこ抜こうとすると、手が結界から抜けないようだった。
「‥‥中へ入ることは可能だな‥だが出られないというだけだ」
そう言ってカシアは結界の中へ入っていく。
それに続き、ラチャやメルロも結界へと入っていく。私もついて行こうとしたが『ピスさんは結界の中へ入らないでください。危険です』と言われてしまったため、私は結界へ入らず立ち止まった。
カシアは薙刀をどこからか取り出し、メルロも赤い杖を手に持って子犬と対峙している。
(私にも力があれば‥精霊術ってやつが今すぐに使えればみんなの役に立てたのに)
カシアによれば精霊術は心にいる精霊と対話しなければ使えないらしい。
試しに病棟へいるとき心に話しかけてはみたが無反応だった。ピスの緊急時には絶対力を貸してくれるとカシアは言っていたが。
(…そんなのいつ来るの?私も一緒に戦いたいよ‥)
二人が戦う様子を見てそう思った。
:
:
中へ入ったカシアはというと、薙刀を手に持ち地面を蹴る。
そして宙に浮いたかと思えば速度をつけて回転し落下し、薙刀で広範囲の子犬を一掃する。
「すごい‥」
私はそう言葉を零すがカシアの攻撃はまだ続く。
先程の攻撃で弱り動きが鈍くなった子犬は突き刺しとどめを刺していた。
こんだけド派手に戦えば血が凄そうと思ったが、実際に生きているわけではないのかカシアがとどめを刺したと思った途端に消滅した。
メルロも杖を取り出し、次々と魔法で子犬を食べていく。
攻撃に迷いはなく杖で操作しながら飲み込ませていた。
相変わらずメルロの頭上にいるラチャは声こそ聞こえないが上機嫌だった。『メルロそこだーっ!行けー!』とでも言ってそうである。
このままなら何事もなく終わりそう。そう思った時だ。
「あっ!」
メルロの体がよろけ、魔法で出していた白い球体が消える。その隙を狙うようにメルロの腕に子犬は噛みつく。
細い腕からは血がポタポタと流れた。
「メルロ!!!!」
私は必死に叫ぶ。私の声を聞きカシアは同じ結界内にいるメルロを振り返った。
だがそれと同時にメルロが守っていた人たちにも子犬が噛みつこうとした。
急いでカシアはメルロたちの元へ向かおうとしていたが、目の前にいる子犬の量が多すぎて、助太刀が間に合わなそうだった。
(…っ!このままじゃあの人たちは死んじゃう。危険って言われたけど。私は目の前で人が死ぬのを見たくない!)
私は意を決して結界の中へ飛び込み人の前に立ちふさがった。
今にも子犬は私の腕を嚙み千切りそうな勢いで襲ってくる。
(怖い。誰か助けて。光!助けて)
怖くて目を瞑り、心の中でそう叫んだ瞬間だった。
『やれやれ。新しいマスターは無茶をするのね‥わたくしの体でもあるんだから無茶をしないでほしいわ』
「え」
頭の中に綺麗な声が響く。
この声は誰なのだろうか聞いたことが無い声。
私は近くに人がいるのだろうかと思い目を開ける。だが目を開けた時には結界の中にいる子犬が一匹もいなかった。
カシアもメルロもラチャも呆気にとられたような顔で私を見る。
何が起きたのだろうか。もしかして私が‥?いや私は何もしていないはずだ。先程どこからか声がしただけで。
そこまで思いハッと気づく。
「ねぇ。もしかしてあなたが私に力をくれたの?」
どこに先程の人物(?)がいるか分からないのでとりあえず、宙に向かって声を出す。
すると先程の綺麗な声が聞こえてきた。
『えぇ、初めまして新しいマスター。わたくし風の精霊ラピスラズリと申しますわ。で。ですが、必要な詠唱をしてくださなければわたくしもマスターも力を使用する際とても疲れますのよ?次からはちゃんと詠唱してくださいな。それに無理やりこの体の魂と契約したせいでわたくし疲れているの。次に呼ぶとしても四時間は時間を空けなさい』
そう言って声は聞こえなくなった。
(喋るだけ喋っていなくなるのはやめてほしいな…)
それに精霊は「わたくしの体でもある」って‥仕組みがよく分からない体である。
だがとりあえず精霊が力を貸してくれたらしい。経緯は分からないが‥。
(そういうのは後で聞こう。今はカシア達に怪我がないか確認しなくっちゃ。あと怪我をした人たちも‥)
そう思い私は傍にいた怪我人の怪我の具合を診る。
腕からかなり出血をしているが、腕はくっついている。恐らく適切に治療し安静にしていれば元の生活に戻ることは可能だろう。
もう一人も同じだ。
(とりあえずみんな死ななくてよかった)
安堵の息をつく私なのであった。
* * * *
『ピスさんすごかったです!びゅーってばーって!』
「あはは…そう?私も詳しくは分からないから今度勉強しなきゃ‥。メルロは大丈夫なの?戦闘中よろけてたけど‥」
私は心配になりメルロに問う。もしかしたら体調が悪いのではないのだろうか。先程も炎を食べていたし。
『それは大丈夫です。子犬を取り込みすぎてお腹いっぱいになって…それでよろけたんです。この魔法なんでも取り込めて便利なんですけど私の胃に送り込まれるので‥』
メルロはお腹をさする。
確かにどんな便利そうに見えても欠点はつきものである。
『まーこういうのはピスの方が向いてるかもな。集団の魔物とかは。俺も記憶操作が専門だから集団の魔物の戦闘には向かないしさ』
「そうかも。…ってあれ?そう言えばフィディスを取り込んだ魔犬て今のじゃないよね?宝石眼でもなかったし」
「あぁ。今のではないはずだ。だが子犬の魔物にしては力が強かった。もしかしたらフィディスを取り込んだ魔物が作り出した可能性もある」
眷属。何個も作り出せるとなるといささか面倒くさそうである。
初依頼でどのくらい戦闘があるのだろうと考えるピスなのでった
~種族の特別な力講座~
〇【人間】人間は特に特別な力は持ってないです。ですが知能がかなり高く、手先がとても器用な種族です。
〇【魔法使い】魔法を使って戦います。一つの魔法を極めるのが一般的で、基本的に一つの魔法の習得に十五年ほどかかります(あくまでも平均。魔法によっては五〇・一〇〇かかるものもあります)
〇【天種】身体強化を使います。ですが身体強化を少し使い武器を扱って戦う人もいます。(中~全開の身体強化だと羽や角などがでます。ちなみに天使と悪魔で地味に力が異なります)
〇【精霊種】精霊術を使います。契約した精霊が魂に宿っているため精霊を自分の体とリンクさせ戦います。
〇【竜種】個体数が少なぎるせいであまり良く分かっていませんが、竜化して戦うそうです(竜に変化して)




