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淡きレテの果て〜世界を駆け巡る忘却少女の冒険譚〜  作者: 雪道 蒼細
4章 ジークード王国

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10話 綺麗な月


 ーー色々ありピスは夜鳩へ戻ってくることができた。

 

 ピスが夜鳩へ戻るとまず怪我の手当てをするために医療棟へ向かい念のためそこで一日休むことになった。

 ピスは第五パーティーの家へ戻りたいと言っていたが、気づいたら眠りに落ちていた。

 相当疲れていたらしい。


 ピスをベッドに寝かせ布団を掛けてやるとカシアはベッドの傍にある椅子に座った。


 「本当に戻って来て良かった…」


 カシアは一人そう呟く。

 前…いや前世でカシアはピスを救えなかった。


 あの檻の向こうにいたピスの歌声にカシア自身は救われていたのに、それを返すことなくピスは死んでしまった。

 

 だから生きた状態でもないけどお返しがしたくてピスの魂を再びこの世界に生まれてくるようにした。

 結果的に力不足て魂は散ってしまったがカシアにとってピスがこの世界に再び生きているという事実の方が大切だった。

 だからそれぞれピスの魂を持つ者達に恩返しをしようとしたが


 (邪魔が入った)


 夜鳩にいたピスを攫い、それにそれぞれのピスの魂を一つにくっつけようとした。

 このことは今ピスの体にいるラピスラズリから詳しく聞いた。

 ラピスラズリの主人は精霊茹で慎ましやかに過ごしていたがある日フードを被った二人組がやってきて殺されたらしい。

 そして気が付いたら違う体に移っていたと。


 ーーもともと魂が欠けた状態で生きている者達には何かしら影響が出ている。ラピスラズリの元の主が病弱だったように、夜鳩の前のピスに感情があまりないように。

 一番魂が欠けてないのが夜鳩にいたピスだったらしいが、それを聞いた時は複雑な気持ちだった。

 

 だが同時にまたピスと会えることも嬉しく思った。

 魂が一つになったピスは前世のピスと何ら変わらず、明るく楽しそうだった。


 だからずっとこの笑顔が見られたら…守れたらいいと思っていた。


 (だけど…)

 

 少し欲が出てきてしまった。

 前世では一方的にピスの歌声などに惹かれていたが死んでしまい…記憶喪失になる前のピスには好意を持たれていたが、あくまでも魂の一部にすぎないピスに好意を伝えるわけにはいかなかった。

 

 (俺にとっては魂の一部一人一人のピスが大切だったしな)


 だが…ピスの魂が一つになったことふぇまチャンスが訪れた。

 

 カシアはピスの髪を自身の指に絡みつける。


 「なぁ…ピス。…約束は守るから…もういなくなるなよ。…死ぬなよ」


 カシアは遠い記憶のピスの歌声を思い出し立ち上がる。

 そしてそっと寝ているピスの唇にキスをした。


 (…一方的でわ憂いけど…俺はもう傷つきたくないんだ)


 ずっと傷ついてきた人生。

 もう傷つきたくない。これ以上自分から幸福を奪わないでほしい。


 そう思いピスから離れる。


 (きっとあの二人組はまたピスを奪いにやってくる。…裏切者の件も片付いていない。…それに)


 今世界の情勢がどこか危なげだ。

 何か嫌な気配がする。


 前世の時。人間が過ちを犯したせいで世界が滅びかけた。

 

 それと似たようなことがまた起ころうとしている気がする。

 だがそれが何かまでは分からない。

 


 「いや今考えても仕方がないか」


 そう思いカシアは目を閉じ眠りにつく。

 そのすぐ傍で眠っているはずのピスの耳が真っ赤なことにはカシアは気がつかなかった。


 * * * *


 「…ねぇリン。本当に良かったんでしょうか?」


 クレマチスがコップを持って言った。 


 「何が?」

 「…ラチアのことですよ。ラチアに何も説明しないで…」

 

 そうクレマチスが言うとダージリンは窓の外の月を見た。

 

 「いいのよ。だって知らない方がいい時もあるでしょう?私たちのことなんか忘れてラチアは幸せになるべきなの。…ここにいたら死ぬかもしれないんだから」

 「そうですけど…」


 そうだダージリンの言っていることは間違っていない。

 これから起こることに戦いは避けられない。

 

 それにラチアを巻き込むわけにはいかない。


 「…それにあの子…私のことみて怖がってた。別れるときさようならって言った時。あの子震えてたのよ?」

 「…」


 ここ最近ラチアがダージリンのことを少し不安げに見ていることは知っていた。

 だが…


 「それはリンが怖いからってわけじゃない気がしますけどね」


 そう言ってクレマチスはコップを机に置く。


 「そうかしら…。…でも本当に呪いって嫌ね。感情が無いのも嫌…マチスだってそう思わない?」

 「‥そうですね…俺も記憶が消えるのは嫌です」

 

 これは事実だ。思い出がどんどん消えるのは辛い。


 「そうよね…あ。じゃああの夜のことも覚えていないの?」

 「あの夜?」


 よく分からずクレマチスは首を傾げる。

 そんな印象的な夜など日記に書いてあっただろうか。


 「そうよ。あーあー。あの時のマチスは可愛かったのに…」

 「へ!?」

 

 無表情で言われるものだから真実っぽく聞こえクレマチスは驚く。

 可愛いと言うがダージリンと出会ったのはクレマチスが成人してからだ。可愛いなんて表現あるわけがない」


 「そうよ。可愛かった。可愛かったの…」

 

 そうポツリポツリダージリンが言い始めてようやくクレマチスは気づいた。


 「…リン…酔ってますね?酒飲んだでしょ」

 「可愛かったのよ。可愛くて…」


 ずっと「可愛い」を連呼するのみ。

 ダージリンの傍によれガラスの中にジュースではなく酒が入っていた。


 「はぁー。いつもは飲まないのに…」


 そうクレマチスは言う。

 だが酒に弱いダージリンが酒を飲むのは決まってショックを受けるような出来事があるときだ。


 (ラチアのこと可愛がってたもんな…)


 それだけにショックが大きいのだろう。


 クレマチスは酔ったダージリンを抱え寝室へ向かった。

 

 「いい夢を」


 そう言って。

 

 * * * *


 ランル王国の城の一室にてすすり泣く声が聞こえた。


 「…っ…なんでっ…?」


 声の主はラチアだ。

 真っ暗な部屋で地面に座り泣いていた。

 いつもは三つ編みを二つにしているのに今日はそれをせず髪を下ろしていた。

 

 「…私…リンさんに嫌われるようなことしたかな?」


 ラチアはそう言いながらボロボロ涙をこぼす。

 


 ーーそう時は戻すこと一日前。


 いつものようにアジトで過ごしていたラチアは突如としてリンにこう言われたのだ。

 「今すぐラチアが生まれた城へ戻るわよ」と。

 

 ラチアの生まれはランル王国という大きな国だ。

 そして王族として生を受けそのまま王宮で育つはずだったのだ。

 だがそう上手くはいかなかった。ラチアの母は妾で、美しい美貌で王に見初められたらしい。

 …それ自体は特に問題が無かったらしいが。私を生んだ後からが問題だった。

 母が妾になること自体そもそも本意ではなかったらしい。逆らえば両親がどんな目に合うか分からず合意しただけみたいだ。

 だが母の存在に嫉妬した貴族の誰かが母の両親を殺したらしい。ラチアを妊娠しているときだ。

 母にも毒が盛られたり暗殺者が来ることはあったが、母の両親にまでは手を出されたなかったらしい。


 だが今回殺された。

 その事実に耐えられなかった母は復讐の道へ走った。

 ラチアの異母兄・姉や王の妻たちを殺そうとしたのだ。

 だが上手くいかず。結局は捕まり首切りにされた。


 その当時ラチアは三歳。

 子供に罪はないと父…国王が言いラチアは生かされることになった。

 だがラチアの母はラチアが殺されると思っていたらしく預け先を用意していた。


 「…あなたがラチア?」

 

 そう問う声は今でも忘れない。

 淡い紫のドレスを着た綺麗な顔立ちの女性が窓から入って来たのだから。


 「あなただあれ?」


 まだ三歳だった私は不思議そうに首を傾げる。


 「私はあなたの保護者。ほらいらっしゃい。あなたのお母様に頼まれてるの」


 そう言ってダージリンはラチアを抱きかかえた。

 

 後に話を聞くと母とダージリンは母が子供の時からの友達らしい。

 「あなたのお母様にはとても助けられたからね」そうダージリンは言っていたが本当かどうかは分からない。

 だがこれによって今の生き生きとしたラチアがあると言っても過言ではない。

 

 きっとあのまま城にいても病弱な王女で鬱陶しく思われていただろう。

 薬を勉強する機会も無くそれで終わっていた。

 だから絶対にあの城へ戻ることはないと思っていたのに。


 「ど、どうしてですか!?」


 ラチアはダージリンにしがみつく。

 なんでどうして。その言葉ばかりが頭の中を飛び交う。


 「…あなたは本来ここにいるべきではない。もうここは安全じゃないの。だから…」

 「あ、安全じゃなくてもここにいたい!!お願いしますリンさん。…何がダメでしたか?戦えないからですか?…ダメな所は直すから‥‥お願いします捨てないでください」


 ラチアはそう言って涙をこぼす。

 だがダージリンは冷たい声で「ダメ。あの城に行くのよ」と言った。


 そう言った瞳は今までよりも冷たいように見えた。


 (やっぱり…リンさんは私んこと邪魔と思ってるのかな?)


 表情がないと怖い。

 何を考えてるのかどう思っているのか。伝えられても感情が無いと怖く感じてしまう。


 呪いだと分かっているのに怖いと思ってしまう。

 何で城に行かなければならないのか聞きたいのに怖くて聞けない。

 

 ラチアはダージリンから手を離し頷いた。


 (…もうリンさんが分からないよ…怖いよ…)


 :

 :


 そうして今に至る。


 帰ってきたことに何故か歓迎され、ラチアの部屋があったところにそのまま案内された。

 だが歓迎された理由は使用人の話を聞いてすぐに分かった。


 「ほら東の地の王国に和平のため誰か娘を一人送らなくちゃいけないらしいの。三○歳ぐらいの恰幅がいい方らしくて…国王が誰を送ろう悩んでいたみたいだけどあの妾の子供が帰って来て良かったわね」


 そう話していた。


 だがラチアにとってはそんなことよりもダージリンがラチアを何故ここに戻したかの方が問題だった。


  

 「…リンさん…私は…あなたの力にもうなれないのですか?」


 

 そう窓から見える月に向かって呟いた。


 月は左側が掛けているがとても綺麗だった。



 

 これで四章終了です。

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