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淡きレテの果て〜世界を駆け巡る忘却少女の冒険譚〜  作者: 雪道 蒼細
4章 ジークード王国

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9話 約束

 

 「戦う‥と言いたいが俺も万全の体力じゃない。逃げるぞ!」


 カシアはそう言うと私を抱き上げ、腕に抱えた。

 そして全速力で走り出した。


 「逃がさない」


 モリはカシアに向かって剣を振り下ろす。

 だがカシアは器用にそれを避け、私を担いでいない方の手で応戦する。

 

 カキンカキンと武器の音が耳元でする。

 

 カシアも強いがモリも強い。

 両者ひかずに斬りあいを続ける。


 「っ…はぁっ!」

 「!」


 だがカシアはモリの足をなぎ払い、モリの大勢を崩した。

 そしてそのタイミングでモリを斬りつける。

 モリは顔をゆがめるが、声には出さない。


 モリも急いで大勢を整えカシアに向かって攻撃をする。

 だが怪我をしているせいか、踏み込みが甘かった。


 カシアはそれを見逃さず、薙刀で押す。


 だが今回はカシアの方が優勢だ。


 何回かの攻撃の時モリは吹き飛ばされた。

 

 カシアはモリが吹き飛ばされた方を見て、すぐにまた走り出す。、

 

 私はその光景をカシアに抱えられながらボーっと見ていた。 


 *  * * *


 ーーー追ってが来なくなったのを確認した後カシアはようやく地面に私を下ろした。

 

 「ピス‥大丈夫か?」


 カシアが心配そうに尋ねてきた。

 だが私は素直に「大丈夫」と言える状態でもなかった。

 少し怪我をしたが命に関わるほどでもない。いつもの私なら笑って終わってた。


 (なんでだろう……なんかモヤモヤする…)


 カシアが信用できないから?

 夢の中で前のピス…もう一人の私と話したから?

 それらが理由か分からないが、一度止まったはずの涙が込み上げてきた。


 「…っ…」

 「…!?ピス!やはり傷が痛むのか?」

 「違う…違う」


 私は首を勢いよく横に振る。

 違う。そんなことじゃない。


 何とか言葉にしようと試みるが、上手く話すことができない。

 

 (怖い…今までも戦いがあって死にそうな場面があったけどみんながいた…だから怖くなかった…だけど…)


 今回は誰もいなかった。

 それに助けられても、帰る場所が本当にあるのか分からなくなった。


 誰を信じていいのかが分からなくなった。

 

 私は見た目はきっと大人だ。それに記憶はないが知識はある。

 だから皆大人だと思って接していた。

 だが結局は私は子供なのだ。

 思い出がない。ただ辞書のように知識だけがある。

 生きている限り体験しなければ得られないこと分からないことあるだろう。


 記憶を失った私にはそれが無いのだ。経験もなにもない。

 今まで積み上げてきた経験もピスという人生にはあるだろうが、今の私にはない。


 父親も母親も


 人伝に聞くことすらない。


 両親の代わりもいない。

 皆が大人として扱うから頼れる大人が必要なのにいらないと思っている。


 分からない。

 この感情すらどうしていいか分からない。

 教えて欲しいのに教えてくれない。


 「傍に…誰もいないの‥‥っ…誰もいてくれないのが…怖いのっ…」

 「…傍に?…助けが遅れたのはすまない。だが…俺はピスの傍にいる…ほら…いるだろう」


 カシアはそう言って私の右手にさわった。

 だがそれが嫌だった。

 思わずカシアの手を私は思いっきり振り払った。


 「嫌っ!」

 「!?」


 カシアは目を丸くして私を見た。

 何かしようと動こうとするが、何をするべきか分からず戸惑っている。


 「…ピス。…何が嫌なんだ?…教えてくれ。…俺はエスパーじゃない。ピスの気持ちを完全には理解できないんだ」

 「…」


 (分かってる言わなきゃ伝わらないことも。…でも言いたくない…)


 カシアは私のことを心配してる。記憶を無くしてからずっと寄り添おうとしてくれている。

 それは嘘ではないと思う。

 きっと嘘ではないのだ。でもそれをしてくれるのももう一人の私との思い出があったからこそ。

 じゃなきゃ関わらないはずだ。

 だが…

 

 (違う…そうじゃないんだ。私が求めてるのはそれじゃない)


 私が求めているのはただ私自身。今の私を想う気持ち。無条件の愛がほしい。


 それだけなのだ。


 簡単な望みに見えてそれがすぐに…そう簡単に与えられるものではないと知っている。

 だがそれが欲しい。

 ただただ…裏切られることのない愛が欲しいのだ。

 

 だがそれを言ったらカシアを困らせる。

 だから言えない。


 でもこの気持ちを誰かにぶつけなきゃ自分は壊れそうだった。

 そのためかゆっくりとだが私は言葉を紡ぐ。

 

 「…カシアには分かんないよ…カシアにはいたでしょ?自分を愛してくれるお母さんやお父さん。…私にはいないんだもん。いたかもしれないけど記憶を無くした私には…いないんだもん。…両親じゃなくてもいい…私のことを一番に考えてくれる人が…私にはいないんだもん…」

 

 落ち着いてきたからか涙も止まる。

 私は服の裾で涙を拭う。


 「…そうだな…俺にもいた。…と思うが覚えてない。…だが幼い俺が体も心も成長できたのは両親のおかげだ。…それは言える」

 「…じゃあやっぱり分かんな」


 「分かんないよ」そう言おうとしてがカシアが「だが」と言葉を遮ったので私は口を閉じた。

 

 「…俺の心に傷をつけたのも…親だ…母親だな。俺は今まで与えられていた愛情が欲しくていい子にしてた。だが与えられる日は来なかった。逆に俺に当たるようになって…諦めたんだ。愛情を貰うのを。ピスと同じ感情は分からない。感じ方は人それぞれだからな。だが…俺は親に捨てられたようなものだ。実際捨てられたけどな…だから…一番俺を好きでいてくれる人は分からない。今の俺にいるのかすらもな」

 「…あ…ごめん…カシアのこと良く知らないのに…勝手なこと言っちゃって…」


 さすが自分の気持ちにいっぱいいっぱいだったからと言って人の気持ちをよく知らずに決めつけるのはよい

ことではなかった。

 私はカシアから地面へと視線を移す。


 「…な…ピス。一緒に…帰らないか?夜鳩へ。俺がピスに愛を与えられるのか分からない。だけど大切には思っている。…夜鳩にいる人たちは訳アリの人が多い。だからみんな家族だと思って夜鳩で過ごしている。本当の家族の居場所のようにな」

 

 カシアはそう言った後に微笑んだ。

 だが一つだけどうしても気になることがあった。

 今聞かずともよい。だが今行かなくてはずっと聞かないような気もした。


 だからか私はカシアの襟を引っ張り顔を近づけて口を開いた。


 「ねぇ。カシアが…カシアが私に愛をくれようとするのが…大切にしてくれるのは…やっぱり、前の私のことが好きだったっから?」


 そう問うとカシアは目を見開いた。

 だがすぐに表情を戻し笑った。


 「いや。そんなことない。今のピスを大切に思っているからだよ」

 

 そんなことない。ならどうして私が目を覚ますまでずっと病棟へ足を運んでたの?

 どうして記憶喪失の私に優しくしてくれたの?

 色々と疑問点はある。


 「…それ…嘘でしょ…。そんなことないでしょ?私に優しくするのは…前の私の代わりでしょ?」


 嫉妬か。怒りからか襟をつかむ力が強まる。


 「…そんなことない」

 「嘘…嘘だ。…嘘だ…。‥‥っねぇカシア。別に私は怒りたいわけじゃない。ただ…確認したいことがあったの…」

 

 そう。別に文句を言いたかったわけじゃない。

 ただ私が確認したかったのは


 「私が…あんたたちの中を引き裂いたの?」

 

 これだ。どうしても確認したかった。

 カシアの顔を見ると何とも言えない顔をしていた。

 だが言葉を肯定するというよりは迷っているような気がしていた。

 なんといえばいいのか分からないような。


 「…先に言っておく。俺と記憶喪失になる前のピスは別に恋中じゃなかった。ただお互い居心地が良かったという関係なだけだ。それにーー」

 「ーーそれに?」

 「…いや…。今は言えない…だから…少しだけ待ってくれ。絶対に。時が来たら言うから」


 そう言ってカシアは私に小指を差し出した。

 これはなんだろうか。よく分からずにカシアの小指を握るが「違う違う」と首を横に振られた。


 「これは指切りだ。約束みたいなもの」

 「そっか約束…分かった。待つから…ちゃんと伝えてね?」

 「あぁ絶対に」


 カシアは頷き、私はカシアの小指を握った。

 そうしたらカシアは私の小指に口づけをした。


 「…約束だ…」

 

 ポツリとカシアは呟く。

 口づけも約束の意味なのかと思い私もやろうとした。

 だが同じ場所にやるのも面白くない…。そう思い私はじっくりとカシアを見る。

 そしていい場所を見つけたので、私はカシアの髪の毛を手でどける。

 

 そしてカシアの額に口づけを落とした。


 「そうね。約束。破ったらあんたのこと呪ってあげる」

 「…ただでさえ呪いがるんだ。これ以上増やさないでくれ」


 カシアは苦笑いをする。そんなカシアを私は指で頬をつついた。

 なんだか心がスッキリとした。


 (ちゃんとカシアは話してくるんならそれでいいかな。さっきのも私が色々考えすぎちゃったせいだし)


 私は立ち上がり、手を上へ伸ばす。

 なんだかんだで疲れた。

 夜鳩へ帰ったらメルロやラチャに癒されたい。それかアザーと主に共謀しカシアを揶揄うのもいいのかもしれない。

 それかツァイトとまたお喋りをするか。


 したいことが一杯だ。


 (今の私。過去の私。関係ない。…夢で言っていた通りだな…過去の私に嫉妬しても意味ない。私は私の道を進むだけ)


 それだけだ。


 「じゃ。帰ろうか。私たちの居場所へ」

 

 私はカシアに手を伸ばす。

 

 「それ俺が言いたかったんだけどな。…まぁそうだな。帰ろうか…」


 カシアは肩をすくめ、私の手を取った。


 「うん」


 きっとカシアも何か私に隠している。

 みんなそうだ。

 何かを隠して生きている。

 それを知っててわざと隠しているのかもしれないし、本当に知らないのかもしれない。


 だがカシアが私に秘密を離すとき。

 私も自分のことを全て知っておきたい。

 

 (そのためにも…情報集めなきゃな)


 古代の巫女の話。

 記憶喪失になった経緯。

 

 色々あるのだ。

 

 次の話で四章終了です。

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