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淡きレテの果て〜世界を駆け巡る忘却少女の冒険譚〜  作者: 雪道 蒼細
4章 ジークード王国

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8話 記憶の塊


 「…わっ…ここは…夢?」


 急に視界が暗くなったと思ったら、目を開けても暗闇だった。

 どこまで続くか分からない暗闇が目の前にはあった。


 現実とは到底思えないので夢なのだろうが、夢にしては現実味があるような気がしてよく分からない。


 「おーい。誰かいないのー?」


 とりあえず声を掛けてみる。

 だが返事はない。

 

 ーーと思ったのだが。


 「呼んだ?」

 「へっ!?」


 急に背後から声を掛けられた。

 驚きのあまり私はその場で飛び跳ねる。

 だって先程まで前後左右誰もいなかったのだ。急に現れたとなると幽霊としか考えようがない。

 というか幽霊であろう。


 どうかお伽話のような恐ろしいお化けではないことを願いつつ私は背後を振り返った。


 「…え?」


 背後にいたのは毛先が青い銀髪を腰まで下ろし、青い宝石のような瞳をした女だった。

 この姿は見覚えがある。

 毎日見ている顔だ。

 顔を洗って鏡を見るときに必ず見る顔。


 ーーそう。ピスと同じ顔をした女がそこにはいた。

 

 背格好も全て同じ。違うのは髪の毛を結っているかいないかの差だろう。

  

 「な、何で私がもう一人いるの?…双子…じゃないよね?そっくりさん?」

 「…違うわよ。私はピス。あなたと同じピスよ」

 「いや…だって私もピス。あ、あなたは誰なの?ピス…かもしれないけど…」


 私は戸惑いを隠せなかった。

 段々と近づいてくるもう一人の私から距離を取るように一歩。また一歩と下がる。


 「なんで逃げるの?私はだたあなたと話がしたいだけよ。古代の巫女を前世に持つピス?いや…記憶喪失のピスとでも呼んだ方がいい?」


 その言葉を聞いて私は目を見開く。

 私の前世を知っている。それでいて今の私を知っている。

 

 「ーー!…も、もしかして…あんたは…記憶を失う前の私?」


 もしかしたらと思い問うてみる。

 するともう一人の私は口角を上げクスリと笑った。


 「正解。そうだよ。私はあなたが記憶を失うまでの私。まぁ今あなたの前にいる私はただの記憶の塊」

 「…記憶の塊?」

 「そう。あなたの魂に刻まれた記憶の一部…。それが私よ。だってあなたが記憶を失っても魂は変わらない。あなたはあなたなんだから」


 そう言ってもう一人の私は人差し指に髪の毛を絡ませクルクルといじり始めた。


 「そうなんだ…じゃあなんで今私はあんたと話してるの?今まで話す機会なかったよね?」


 あったら色々なこと聞きたかったのにと思った。

 

 「そうね…別に今までもできたんだけどね…私が決心できなかったの。…だって私はあなたでも…私が生きた私だけの記憶があるでしょう?それをあなたに全て取られてあなたが私の代わりとして生きるのが…少しだけ嫌だったんだ」

 「え?」

 「だって…周りから見たらピスはピスでしょ?そりゃ最初のうちは戸惑う間もしれないけど本当に最初のうちだけ。きっといつか私のピスは忘れられちゃう。それが…悲しくて嫌だった」


 もう一人の私はそう言って私の頬を撫でた。

 

 「…私好きな人がいたの。…けどその人からも忘れられちゃうのかなって思ったらね…。……私にこんな感情があったとは思わなかったよ。…ただの記憶が何言ってるんだって感じなんだけどね…」

 「…」


 もう一人の私は今にも泣きそうな表情をしていた。

 その表情を見るだけで申し訳なさがこみあげてくる。


 (…きっと私は私。記憶がなくなる前も後も同じ私。…だけど…思い出が人格を作る…前の私が違うのも当たり前。…なんて言ったらいいか分からないけど…やっぱり前と後の私は…違う気がする。…ううん。違うんだ)


 私は拳を握りしめ、視線をもう一人の私に合わせる。

 そしてもう一人の私をゆっくり抱きしめた。


 「…どうしたの?…ふふ。なんだか落ち着くね。…もしかして同情してくれてる?……でもねしなくて大丈夫…私はねちゃんと決心したから」

 「え?」

 「私は私。あなたはあなた。一緒の体だけど違う。一緒の魂だけど違う。…それでいいだって…無理に一緒にならなくてもいい…だからね何が言いたいかって言うとね…もう私のことは気にしないでって言いたいの…」


 もう一人の私はそう言って私の抱擁から逃れ、距離を取った。

 そのもう一人の私の表情はどこか嬉しそうだった。


 「あなたは今過去とか色々考えて…囚われてるでしょ?結局は過去は過去なんだよ。記憶がなかろうとあろうと関係ない。…私はあなたに過去に囚われてほしくない。だから…助けてあげる」

 「助ける?」

 「そう。あなたは今…世界を終わらせようとしている組織の二人組に囚われている。今にも儀式が始まろうとしている。あなたは後一分後に目を覚ますの。…だからそうしたら風の精霊ラピスラズリを起こし精霊術を発動させて。そうしたらすぐ近くにある森に入って走り続けて…そうすればすぐ近くにスーアって言う村があるからそこまで行って、そうすればあなたは助かる」


 もう一人の私はそう言い切った。

 今の私に比べてもう一人の私は慎重派だったとメルロが言っていた。だから絶対そうなりそうな出来事でも「絶対」という言葉を使わないんだろうな。そう思っていたのに。


 「…なんでそう言い切れるの…?生きているなら絶対はないでしょ?」


 私は視線を足元に落としそう声を小さくして言った。

 村へ駆け込んだところで助けてくれるとも思えない。せめて街くらいの大きさでなければ兵もいないだろう。

 

 「…馬鹿ね。助けが来るよ」

 「…来なかったら?」

 「私を恨めばいい。でも絶対来る。カシアは来るよ。だってああみえて彼。粘着質だから」

 

 そう言ってもう一人の私は微笑んだ。

 その笑みはカシアを心の底から信頼しているんだ。そう思える表情だった。


 「…もしかして…あんたの好きな人って…」

 「さようなら。私」


 私が最後まで言い終わる前に、もう一人の私(ピス)はそう言って私の額を指ではじいた。

 「待って」と声を掛けたけど段々と私の意識は消えていく。


 最後に見えたのはいたずらっ子のようなピスの笑みだった。


 * * * *


 「…!ラピスラズリ‥‥・スキャタァ!」


 私は目を開けた瞬間に指で宙に円を描き呪文を唱えた。


 「…!」


 すると近くにいた二人組は遠くへ吹き飛ばされ、周りに会った木なども倒れた。

 

 (よし。後は逃げるだけ。森は…)

 

 もう一人の私が言っていた森はどこだと思い、辺りを見渡す。

 だが探すまでもなく直ぐに見つかった。

 左を見れば真っ暗な森がある。


 私はすぐに立ち上がり、森のある方へ走った。

 後ろから「待て!」と大声で叫ばれるが止まらない。

 

 胸が痛む。一度立ち止まって休みたいが、そんなことをすれば追い付かれてしまう。


 (カシア…助けに来てよ…っ…)


 だがカシアのことを思い出すと先ほどの会話を思い出す。


 『私好きな人がいたの』


 誰と問わなくても分かる。

 それに記憶喪失後の私へのカシアの対応を見ていればカシアが記憶喪失前の私をどう思っていたのかもわかる。


 (きっと両想いだったんだろうな…)


 だけど二人の恋は叶わず散れた。

 生憎記憶喪失後の私に恋愛どうのこうのは分からない。

 

 (分からないけど…分かんないよ…)


 みんな記憶喪失前のピスの方が良かったに決まってる。

 誰にでも優しくて、気遣いができる。

 今の私はきっとできない。

 

 (私…本当に生きていいのかな…。生きても…今の私じゃ…記憶ない私じゃ…居場所があるの?分かんないよ)


 みんな心の奥底で何を考えているなんて分からない。

 本当に夜鳩の第五パーティーに居場所があるのかすら。


 ないならこのまま誰かに利用されて死んだ方がいいとすら思ってしまう。


 (…きっと私の中に火がある…この火がある限り利用される可能性があるなら…)


 段々と息が荒くなる。

 走っているうちに涙まで出てきた。


 (もう嫌だ…信用できる人も分からない。親もいない…怖いよ…誰か…助けてよ)


 頑張ってるって誰かに褒められたい。ここにいていいんだよって言われたい。

 無条件の愛が欲しい。

 

 「誰か…私の一番になってよ」


 私はそう呟いた。

 それと同時に地面へ倒れる。


 何が起こったのか自分でもよく分からない。

 だが足をよく見れば、ふくらはぎから血が出ていた。

 それもザックリと。

 

 「…っ」


 思わず顔をしかめ、出血部分を押さえる。

 今は護衛服のままなので、手で敗れるような素材ではない。

 ハンカチはないかとポケットを探すが、何も入ってはいなかった。


 焦る私に対して、私を攻撃した者は静かに私に近づいてきた。


 「動かないで。また逃げるつもりなら容赦はしない」

 「…あっ…」


 まだ体が回復しきっていていないのに精霊術を使った痛みと、恐怖心からのパニックで私は動けずにいた。

 このまま死んでしまってもいいと思う自分もいるが、まだ生きたいと思う自分もいる。


 どうしよう。そう考えるが首には剣が突き付けられていた。

 変な動きをすれば刺される。


 だが少しでも抵抗しよう。

 そう思い指を動かした時だった。


 「はぁっ!」

 「!」

 

 聞きなれた声が聞こえた。

 待っていたような声。聞きたかった声。


 「カシア…」

 「あぁ。待たせた」


 カシアはそう言って私に微笑んだ。

 

 

 

もう少し長くしようとしたのですがキリが良かったので

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