5話 昔話 前編
ガタゴトと揺れる。
ここは馬車の中だろうか。
だが何故だろうか。心地よい揺れなはずなのに寝心地が良くない。というか痛い。
あぁきっと眠れない人たちが私を嫉妬しているのだ。
だからこうやってお尻が痛い。手足も思うように伸ばせないのだ。
あぁ嫉妬よどこかに飛んで行ってくれー。
ーーみたいなことを考えていたら目が覚めた。
「…?」
目を開けた先にあったのは鉄の棒…いや檻だった。
囚人用の個室に檻があって出られないという感じではなく、獣を閉じ込めておくような感じの檻だ。
上を見ても下を見ても横を見ても。
鉄の棒で囲われていた。
(確か…モリさんが暗殺者で…それで…)
カシアが助けに来たと思ったらお腹を刺された。…そこで記憶が途絶えている。
この光景を見るに私は捕まったのだろう。
理由は分からないが。
「ん…?あ。目が覚めたようね」
そう頭上から声がした。この声はモリだ。だが。
「……誰?」
顔を上げ、そこにいたのはモリではなかった。
くすんだ銀色の髪を一つに束ねた女がそこにはいた。
なんだか目つきが悪いのは気のせいではないと思う。
「…私。モリ。あなたが見ていたのは私が変装していた姿。こっちが本当の姿よ。こっちの姿なら会ったことあるでしょ」
そう言ってモリは自分の髪を指にからませる。
だがこの姿のモリには会ったことないようと思う。
こんな目つきの悪くて、珍しい銀髪の女性なんて一度会ったら忘れないだろう。
「いや。会ったことはないけど…ってそれより。…私なんで誘拐されてるの?」
地味に気になっていたことを聞く。
お腹に包帯が巻かれている。
手当はしてくれたみたいだが…ってきり私は殺されると思っていたのだ。
誘拐される意味が無いというかなんというか…。
「そう。忘れているのね。…まぁいいわ。目的地に着くまで時間があるし、少し昔話をしてあげる」
「昔場話?」
どこかへ連れていかれているのも気になるが昔話の方が気になる。
「ええ。あなたどうせ昔のこと覚えてないんでしょう?教えてあげるわ。本当に昔の話を」
ーーーーそう言ってモリは語り出した
遥か昔。人類の祖先の話について。
* * * *
人間は昔。
創造神から賜った火を使い、大きな力を得ていた。
その力で天気を操ることもあれば、大地を割ることもある。
植物の成長を促すことも、水を操ることも、風も操ることができた。
人間は神と他種族から崇められ、過ごしていた。
だが火を扱うには三つ決まりがあった。
一つ 同種族の殺し合いはしないこと
二つ 火の監視をすること
三つ 他種族に火を分けないこと
これらのどれか一つでも破れば火は消え世界に災いがもたらす。
そう言われていた。
ーーそんな世界で巫女が誕生した。
巫女は銀髪で生まれることが条件とされている。
その子供は銀髪で青色の瞳をしていた。
巫女はすくすくと育ち、二〇歳で正式に巫女となった。
巫女は愛らしく「姫様」という愛称でも親しまれた。
「…あぁ姫様。嵐を止ませてくださいませ。どうか火の力を」
「姫様。子供が病に倒れてしまい…火の力を使ってはくれませんか?」
巫女の仕事は火を見守り、他者に力を与えること。
それで困りごとをなくすことなのだ。
力を使いすぎれば火は消えてしまうため、加減が大切だ。
心優しい巫女は皆の願いを叶えた。
そうやって過ごしているうちに巫女はあることを知ってしまった。
「…あら姫様は?」
「おい姫様がいないぞ!」
「探せ!」
巫女は火の管理をずっとしていなければならないため、火を保管する神殿から出ることができない。
だが誰かが巫女を神殿から連れ出したのだ。
民は大慌てで巫女を探すことになった。
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「ねぇ。どうして姫は神殿から出られrないの?火の理由以外にも何かあるような気がするんだけど」
ふと疑問に思ったので、挙手して質問をした。
巫女と崇められてはいただろうが、自由が無いのなら逆に火ではなく巫女を監視しているのでは?と疑いたくなる。
「そうね。理由はあったわ。…話に戻ってもいい?聞いていれば分かるわ」
「わ、分かった」
そう言われたのでj私は頷き、また話を聞くことにした。
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「はぁっ。はぁっ。あの…あなたは何故私を連れ出してくれたの?」
巫女は神殿を連れ出してくれた少女そう問うた。
いつものように神殿で火の監視をしていたら、急に巫女の手を引っ張る少女が現れこう言ったのだ。
「世界を見たくはないか?」と。
巫女は「見たい」と言ったが、出てはいけない決まりを思い出し「火の管理があるから」と言い断ろうとした。
前に一度外に出たいとねだったことがあったが「火の管理は巫女にしかできない」と言われてしまえば引き下がるしかない。
だが火の管理が巫女にしかできないと言っても、少しの間なら目を離しても大丈夫と思ったのだ。
よくよく考えれば、火の力で睡眠は必要なくても巫女だって眠る。
それに対し咎められたことはない。
だから巫女はよく考え「やはり外を見て見たいわ。世界を見て見たいの」少女に言った。
そうすれば巫女の民ではないくすんだ銀髪の少女はニコリと笑い巫女を神殿から連れ出してくれた。
少女が何をしたのかは分からないが、少女の手を握った瞬間外にいたのだ。驚いた。
ーーそれで今に至る。
「そうだな。…息苦しそうだったから。それに火を使うなら、しっかりと世界を見てから使ってほしいと思ったからかな?」
「え?」
少女はそう言って、ロウソクに明かりを灯し辺りを照らす。
どうやらここは崖だったようだ。崖の下が見える。
怖いと思ったが少女が「下を見て」と言ったので、少女の服の裾を握りつつ巫女は崖下へ顔をのぞかせた。
「…!」
その下にあったのは他種族の集落だった。
何の種族かは分からないが、人間でないのは分かる。
人間とは気配が違うからだ。だが…この種族たちは肉が無くやせ細っていた。
骨が見え、来ている服も粗末だ。髪の毛にもつやが無い。
巫女がいつも見ている民たちとは違っていた。
いつも見ている民はふくよかで、骨なんか見えていない。服も清潔な服を着て髪にもつやがある。
「これが君たちのいる集落以外の集落の現状さ。前の巫女はこの現状を他者から聞き、どうにか対策しようとしていたようだけど、自分たちの生活が脅かされると思ったのか君の父が前の巫女を殺し、前の体制のまま今が続いている。君を外に出さないのはそのためさ。君が何か言ったら動かなければならなくなるから」
「…もしかしてあなたは私にこのことを伝えるため?」
「そうだね…だからさ…」
少女が下を向き巫女の手を強く握る。
「君の力。火の力を分けてよ」
「え?」
少女はそう言って巫女の腕をひっかいた。
巫女の腕からは赤い血が流れ地面に垂れる。
「痛いっ…あ。あなた…何のつもり?」
「え?何のつもりって…私は自分の種族を助けたい。だから君の力を貰いに来たんだよ。本当に君は何も知らないんだね。知ってた?巫女なんて立場を用意してあんな狭苦しい死んでんの中。ただただ火を見守っているのはなんでだと思う?」
「そ、それは火の監視を…」
「違うね。君を監視するためだよ。ここまで言ってまだ気づいてないんだ。じゃあ教えてあげる。君の中に火がある。君が他者に力を分け与えられる存在なんだ…よっ!」
そう少女は言って巫女を突き飛ばした。
巫女は地面に尻餅をつく。そしてニンマリと笑う少女を見た。
「じゃあねお姫様。もう君に用はない。力を分けてくれてありがとう」
そう少女が言った瞬間。少女は元の神殿にいた。
腕から血を流して。
ーーー巫女が見つかり、一度は安心した民たちだったが力が他種族へ流出したという出来事を聞いて、皆驚きを隠せないようだった。
だがそれよりも驚いていたのは巫女だ。
自身が火を持っていて、それゆえ閉じ込められていた。
あんな「世界を見たい」だなんて思わなければこんな皆を不安がらせることはなかった。
そして何日が経った頃だろうか。
力を他種族に渡した罰で巫女は父によって牢に閉じ込められた。
そこは集落の外れで、洞窟に木の柵を打ち込み作ったらしい。
民は憐れんだが巫女にとっては前よりもずっと良かった。
だがそれから段々とおかしくなり始めた。
まず。巫女の力が弱り始めたのだ。
巫女自身には分からないが、他者に力を分け与えられるときに大きな力を譲渡できなくなったのだ。
それだけではない。
他種族が力をつけたのだ。
人間はいつ攻め込まれるかと冷や冷やとしていた。
だがそんな中巫女の父が言ったのだ。「いい作戦がある」と。
そう言って用意したのは大きな壺だった。一五〇センチほどあるのではないだろうか。
「そんな壺をどうするんだ」と民は言った。
冗談を言っている場合でもないのだぞ。と言いたかったのだ。
だが「この壺はただの壺ではない」そう巫女の父親は言い張った。
「この壺には呪いととある石が入っている」
「呪い…?と石?」
「あぁ。呪いは他種族全員にかかる」
巫女の父によればこの壺を他種族に渡し、開くことで人間が生き残れるらしい。
民はそれを信じ、早速他種族に渡しに行くことにした。
もう一つ巫女の父が言ったのは渡すときに「開けてはいけないよ」というのがいいそうだ。
ーーーそして民は壺を他種族に渡した。案の定次の日には壺を開けたそうだ。
民は壺を開ければ呪いが他種族に降り注ぐ。としか聞いていなかった。
確かに他種族に呪いがそれぞれかかったみたいだった。
これで集落に平穏が訪れる。そう思っていた。だが他種族全員が呪いにかかった頃。
ーー巫女が殺された。
--犯人は集落に住む人間だった。
--同種族を殺したのだ。
ただでさえ一つ破られ対処したのに、二つ目が破られるとなるとどうなるだろう。
答えは簡単世界に災いが降り注ぐ。
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「んー色々気になりすぎるけど…ねぇなんで姫様はまた神殿に閉じ込められることなく、牢に入ったんだろう。逃げ出す確率牢の方が高そうだけど…」
「それは父親が父親だったからじゃない?」
「というと?」
私は聞き返す。
父親にも娘を想う気持ちがあったということだろか。
「娘を巫女としての役割を縛り付けていたんでしょ?でずっと神殿という中に閉じ込めていた。多分防犯の面もあったんだろうど、毎日ずっと同じ場所で火を見守る娘を見るのが辛かったんじゃないの?だって同じ仕事を淡々とこなすだけ。つまんないじゃない。どうせ世界が災いに包まれるなら、最後くらい外の景色を見させてもいい。と思ったんじゃないのかしら。あくまでも憶測だけど」
「そうだね…結局殺されちゃったのはあれだけど…」
だがこの話の続きはどうなのだろうか。
気になりそわそわとする私だった。




