6話 兄貴と俺
今回やや長めです。
次回投稿は3月3日です(三章誤字がかなりあり、今確認中です。まだ全て確認出来ておらず修正にはもう少し時間がかかりそうです。)
ーー俺は一人だった。
両親も死んで、もう自分には何もない。
あの場所から逃げてからもう二週間が経つ。
碌に飲まず食わずで過ごしていたが、もう限界だ。
俺は人通りの少ない通りへ入り、地面へと座り込む。
大通りから人の笑い声が聞こえた。
大通りには光が照っているが、ここにはない。暗く生ごみなどが落ちていて異臭がする。
まるで向こうが社会の光でここが闇の様だ。
(俺はやっぱり…光には当たれねぇのかな)
盗みも考えた。だがろくでなしの両親から生まれた時点で、もう俺は汚れた天種だ。
明るい光の世界にはいくことができないのだ。
だからこれ以上自分を汚くしたくなかった。暗い闇に引きずり込まれたくなかった。
誰からも良い奴だと思われなくても、俺は自分を良い奴と思いたかった。
これだけが小さい俺にあった、ただ一つの小さなプライドだった。
(…最後くらい…腹いっぱい飯を食べたかった)
だがそんな願いが叶っていたらこんなところで腹の虫をならせて倒れてなんかいない。
(逃げなきゃよかったのか…?…だけど…っ…もう少しだけ自由な世界で行きたかった…ただそれだけ…)
そう思った時、視界の端に黒髪が映る。
気のせいかと思ったが気のせいではなかった。
瞬きをし、目を開ければ赤色の瞳と目が合った。
(…こいつ…天使?…いや悪魔か…。俺を食べに来たのか?)
人は死んだら天に行く。
いい子なら天国へ。悪い子なら地獄へ。
そしてその二つの世界の門番がどちらかの世界へ死んだ人を連れて行くのだそう。
そしてその門番は死んだ天種と言われている。
きっと俺は悪い子だから悪魔が迎えに来たのだろう。
だからーー
「おい、生きてんのか?」
ーー?
「生きてんのかって聞いてんだけど…いや。生きてんのか…。お前…一人か?」
悪魔は一人で何かを話し始めたかと思えば、ペチペチと俺の頬を触ってきた。
…そして急に話を止め目を見開く。
(もしかして天国へ行けるようになったとか?)
とぼんやりとした思考で考えるが、これ以上は俺の意識が保てなくて目を閉じる。
ーーあぁ。俺の人生は短かったなと思いながら
* * * *
「…ん?」
次に目を開けたとき、そこは天国でも地獄でもなくーーどこかの家の天井だった。
「あ。起きたか…?大丈夫か?一週間くらい寝てたが…」
(ここは…?俺。生きてたのか?)
目をゆっくりと開け、俺は声の主を探す。
そうすれば左側に、二〇代中盤の黒髪赤目の音尾を見つけた。
確か俺が悪魔だと思っていた男だ。
「…ここはお前が倒れてた街の診療所だ。お前かなりの栄養失調だったからな。あ。左右…点滴が打ってある外すなよ?」
そう言われ俺は右腕を見る。
何やらチューブなようなものがある。これで針を刺し栄養を体内に送っていたのだろうか。
そのおかげが前よりは、元気…なような気がする。
「…ま。大丈夫そうだな。今、ここの医者が出払ってていないんだ。…んー。あ。それよりも俺の名前だよな。…俺はクレマチス。天種だ。お前もだよな?」
「…あぁ…。俺は…アザーだ」
「ん。そうか…。なぁ…お前…行く当てあんのか?あんなところで倒れてたが」
行く当て。
きっとそれはないだろう。
ただ自由になりたくて。縛られたくなくて。死にたくなくて。俺はあの場所から逃げたんだ。
だからどこへ行くという終着点があるわけではない。
俺は寝たままゆっくりと首を横に振る。
「…ま。そうだよな…。ーーなぁ。ならさ‥俺と一緒に暮らさねぇか?」
「え」
「あ。いや変な意味じゃなくてさ。その…俺も行く当てがないんだ。ただ気ままに世界を歩き回ってるだけ。目的も何もない。だからさ…どうだ?お前が嫌になったら金だけ持って逃げればいい。ーーだから…どうだ?」
そう提案され、俺は戸惑う。
人と一緒に生活するという経験があまりないのだ。
実の両親ともあまり一緒に暮らしたことはない。一人の方が多かった。
赤子の時を除けば、多分まったく会っていない気がする。
そんな俺が他人と一緒に暮らせるのだろうか。
「…金はある。食事には困んねぇぜ?」
「…」
正直言って食事に困って生活したくはない。
もうあの経験はこりごりだ。
(ーーまぁ悪い奴じゃなさそうだし…もし悪い奴でも戦えば…)
「なぁどうだ?」
「…俺とお前が一緒に暮らすなら、俺はお前を「父」と呼ばなきゃいけねぇのか?」
そう問えば、クレマチスは呆気にとられたような顔をした後、笑い出した。
「…っははっ…それはねぇよ…そーだな…兄はどうだ?」
「兄…」
兄弟という存在はいなかったので少し新鮮だ。
「…そ。俺が兄でお前が弟。…一緒に兄弟やるか?」
そう言ってクレマチスは手を差し伸べてきた。
だが俺にはその手の意味が分からず、取り合えず拳をクレマチスの手のひらにのせたら、また笑われた。
ーーこれが俺と兄ーークレマチスとの最初の出会いだ。
「あ…兄貴!今日の朝飯なんだ!?」
「うわっ…急に後ろから抱き着いてくんな!火を使ってんだ危ねぇだろ!ーーったく。今日はベーコンと卵焼きだよ」
最初こそ長続きするとは思わなかった兄弟の生活は、思ったよりも長続きしていた。
それにかなり快適である。
兄貴の作る飯は美味いし、掃除もできる。頭もよくて、勉強も教えてくれる。
それにいつも兄貴は一緒にいてくれた。
それがとても嬉しかった。
「なぁ兄貴…兄貴はガバーってやつやんねぇのか!?」
時には戦い方も教えてくれた。
天種の力の教え方。
呪い。生きていくための処世術も。
「…俺はやんねぇよ」
ただ兄貴は一度も俺に天種のちからを見せてくれたことはなかった。
まぁ全力を出さずとも、俺は兄貴に手合わせで一度も勝てたことはなかったのだが。
ーー毎日が楽しい生活。
そんな生活に終わりはないと思っていた。
だが始まったからには終わりがある。
それは逃れられない理だ。
俺が一人で家にいた時のことだった。
兄貴は買い物へと街へ出かけていた。
俺もついて行こうとしたが、「子供にはまだ早い…やつを買う予定なんだ」と言って出て行ってしまった。
今思えば俺の誕生日プレゼントを買いに行っていたんだろうが。
そんなことは知らずに俺は庭で鍛錬をしていた。
戦い方は多い方がいいと言って、この前兄貴が剣の使い方を教えてくれたのだ。
(兄貴が返ってくるまでに強くなってやる!今日こそは兄貴に勝つんだ!)
そう意気込み。素振りをしていた時だった。
ドガーン!!
「えーーー!?」
急に自身の家が崩壊した。
否。よく見れば切り刻まれていた。家とはこんな簡単に壊れるモノだっただろうか。
恐怖のあまり俺は持っていた剣を地面に落とし地面へとへたり込んだ。
(きゅ、急に何なんだ……ここは街から離れてる…街を狙った攻撃じゃないなら…なんで…)
すると、前方から足音が聞こえた。前を向けば剣を持った警官が複数名歩いてきていた。
「天種。悪魔のアザーだな。こいつを殺されたくなければ、そこを動くな」
「ーー兄貴!!」
警官が右手に持っていたのは血だらけの兄貴だった。
大声で叫ぶが反応が無い。気を失っているのだろうか。
兄貴の首元には剣が触れている。俺が一歩でも動いたら兄貴の首を刺すつもりなのだろう。
「…っ」
俺は唇をかみしめ両手を上にあげる。
「よし。そのまま動くなよ…」
警官はそう言って兄貴を地面へと投げ捨てた後、一歩。また一歩と俺に近づいてくる。
その警官の背後には銃を持った警官が二人。俺に銃口を向けている。
(…っ。ゴメン…兄貴。…俺のせいで…)
「…っ!!?」
「え」
だがその時、地面へ投げ捨てられ意識が無いはずのはずの兄貴が、俺に近づく警官の足を掴んでいた。
「ーーっ!アザー!!逃げろ!!」
「ーーっでも!兄貴が…」
兄貴はそう叫ぶが、俺は兄貴を見捨てて逃げることなんてできなかった。
だって育ててもらって、なんの恩も返せていないのだ。
それなのに、このまま一人逃げることなんて…できない。
「ーっ!俺は!いいんだ!だから早く!!ーーっ!?」
そう兄貴が言ったと同時に、後ろの警官二人から銃弾が発射された。
その銃弾一発は兄貴に。もう一発は俺の頬をかすめた。
その銃声が止み兄貴を見れば、兄貴は目を見開いて話すのを止めていた。
ーーどうしたんだもしかしてどこか痛むのか…そう聞こうとしたが、それよりも前にこの場に白い煙が広がった。
そして視界が悪くなる。
もう何が何だが俺には分からない。
だがこの煙幕で兄貴を助けられないかと思い、俺は兄貴を手探りで探す。
すると近くで声が聞こえた。
「あ。いました…彼です。神器の持ち主の保護対象」
「え」
「--俺らは夜鳩。君を保護しに来たんだ。ほら今のうちに逃げるよ」
そう言われ俺は誰かにお姫様抱っこされる。
だがこのまま逃げるわけにはいかない。
「待って…待ってくれ!兄貴がまだ…待って」
だが俺の言葉が彼らに届かなかったのか、止まってくれることはなかった。
ーーそして夜鳩に保護され、一か月が経った頃。
あのあとどうなったのかを聞かされた。
あの場に夜鳩が介入し俺を保護した後、竜が現れあの場にいる全員食べられてしまったらしい。
だから俺の兄貴も生きていないだろう…とのことだった。
だから兄貴をレルフィットの街で見た時、「兄貴が生きていたんだ」と思った。
だが兄貴は俺を覚えてはいなかった。
(ーーなんでだよ。俺は兄貴をずっと…ずっと覚えてたのに…なんで…)
* * * *
ーー竜種は記憶を一年間分しか保てない。
これは定められた運命。
ーーそれゆえ記憶が失われて、何か心にぽっかり穴が開いてしまったような気持ちになることが多々ある。
何か大事なものが消えてしまったかのような。
いつもは苦しい記憶がどんなのだったか探ろうともしない。
どうせ探っても分からないことが多いし、苦しい記憶なんて知っても意味ないから。
(…だが)
ーー俺は三〇〇から二〇〇年前まで竜化が使えなくなった。
だが何故か二○○年前から使えるようになった。
日記には理由が書かれていなかったが。
(もしかしたら…あの時会ったあいつが…)
* * * *
近くでカシアの声がして、私は上を向く。
そうしたら結界がボロボロと崩れていた。
(ラピスラズリが張った結界が!!)
まだ体中が痛い。頭痛もする。
だけど私にはまだ知りたいことがある。
「ーーっ!ラピスラズリ!ーーリング!」
アザーを囲うように小さな結界を張った後
小さなリング状の形の風を作り結界内部にいるアザーへぶつける。
回転もかけてある。致命傷にはなるはずだ。
だが使用と同時に鼻から血が出た。
リングの個数を増やせば…
「…っガハッ!!」
今度は口から血を吐く。
これ以上はさすがに無理と
ラピスラズリが判断したのか
もう一度リングをアザーにぶつけることは叶わず
私は地面へ倒れた。
だが私の精霊術で勢いが作れたのか
カシアは地面を思いっきり蹴り薙刀で、アザーを突く
ツァイトはカシアがアザーと戦っているからか
主に戦うことはせず住民を逃がしながら流れ弾を
斬るという感じになっていた。
このまま押し込めるか。そう思ったが…
「ふ」
アザーが笑ったと思ったら
次の瞬間。サーベルを手に持ち私のいる方向へ投げてきた。
「え」
まさか攻撃が来るとは思っていなく私は逃げようと足に力を籠める。
だが
(…っ精霊術の使い過ぎかな…足に力が入らない)
もう一回と思い力を入れるが結果は同じだった。
もうサーベルは目の前まで来ている。避けられない。
「ーーっ!ピス!」
カシアが叫び、私の方へ近づいてくる。
しかし、アザーに隙を見せたことが仇と
なりカシアは背中を思いっきりアザーに爪で引っかかれた。
私も攻撃をよけることはできず
アザーのサーベルがお腹へ貫通した。
「っ…ゲホッ…ッ」
私は口元を押さえる。
そこから血がボタボタと出てくる。
剣が刺さったところからジワジワと血も出てきている。
「ピ、ピス…!大丈夫か」
そこへアザーの攻撃をくらい
ズタボロのカシアが近づいてきた。
「もう…ここは安全じゃない。逃げろピス」
「でも、もう動けない。私のことはいいから…カシ…」
カシア戦ってきて。
そう言おうと思ったが言えなかった。
カシアの体はもう限界に見えたのだ。
右手は動いていないし。足も引きずっている。
全身から血が出て傷だらけだった。
(これじゃぁ戦っても…)
負けて死ぬ。そうとしか思えなかった。
私は同声を掛けるべきなのだろうか。
街の人が死んでしまうから、アザーと戦って。
そう言うのは簡単だ。だがもう死にそうな人を
これ以上戦わせていいのだろうか。
そう迷った時、声が聞こえた。
「カシア!もうピスを連れて逃なさい!」
「だ、だが!まだ俺は戦える!」
カシアはそう反論する。
「馬鹿者。もうおぬしは戦えぬ。戦いの邪魔じゃ!」
そうツァイトは言った。
カシアは、悔しそうに下を俯いたが
すぐに首を振り私の腕を自身の肩にまわし歩き始めた。
逃げることにしたようだ。
「…アザー…」
私は少し離れたところで暴れるアザーと戦うツァイトを見る。
(…アザー。早く。早く戻って…このままじゃ…みんな死んじゃう)
そう思った時。近くにあった建物が崩壊し
瓦礫が私たちの方へと落ちてくる。
「ーぐっ」
逃げようとカシアを引っ張るが
カシアは足が痛みその場でうずくまる。
どうにかカシアを動かそうとするが
思いの外重く動きそうもなかった。
私もお腹に剣が刺さっているせいで思うように力が入らない。
さすがにもう無理。そう思った時
真上から降ってきた瓦礫は粉々になり砕け散った。
「え…」
そして目を開いたところにいたのは。
「よう。なんだか暴れてんな。金髪君」
そう言って笑う一人の黒髪の男だった。




