3話 創造神の話
特に大きなトラブルがないまま、俺達は遺跡の中をどんどんと進んでいった。
かれこれ二時間近くは計描いていると思う。
「なぁカシア。ここって世界最古の遺跡なんだよな!」
その間。暇なのか、アザーは俺に絶え間なく話しかけていた。
俺は沈黙が続いても特に気にしないのだが、アザーはそれが嫌なようだった。
「あぁ。神々の逸話がいくつもある。有名なのは創造神のやつだな」
だが話を断る理由も無いので俺は話をする。
ーー創造神。暗闇だった世界に火を灯し、世界を明るくし生命を誕生させたとされる。
国によって姿が違うが、城がある街なら必ずと言っていいほど像があり崇められている。
「あーな!有名だよなー!…あ。じゃあこれは知っているか?童謡なんだが…」
童謡と聞き、すぐに思い当たる。おそらく世界の始まりに関して歌った歌だろう。
タイトルが無いので、よく「創造神の歌」と言われているのを耳にしたことがある。
『創造神がまっくらの世界に火を灯しました すると世界は明るくなり生命が誕生しました 人も魔法使いも天種も精霊種も竜種もみんなみんな火から生まれたのです さぁ歌いましょう さぁ踊りましょう
この世界に生まれたことに感謝しましょう』
というやつだ。
「あぁ知っている。子供たち…主に人間の子供たちが歌うのを見る」
そう言えばアザーはつまらなさそうに口を「へ」の字に曲げる。
どうやら俺が知らないと思ったらしい。
だが残念。一〇〇年以上も生きていれば耳にする機会はいつでもある。
「知ってたのかよ…。まぁそうだな人間が作った歌って言われてるしなー」
ーーそうこういう神に関係する歌は人間が作詞・作曲しているモノがほとんどだ。
古代について書かれている歴史書には、人間は大きな力を持ち世界を支配していた。
と書いていることが多い。そのためか人間は「神」と称されることが多い。
嘘か真かは知らないが。
「まぁいいじゃないか。…天種にだって歌があるじゃないか。あの元気な……っぐ!?」
「カシア!?」
話している途中。突然右腕が痛み出した。
左手で痛む部分を押さえ見て見れば、血が流れていた。どうやら斬られたらしい。
傷口は深くすぐに止まりそうにはなかったが腕がくっついているだけましである。
俺は急ぎ薙刀を取り出し、周囲を警戒する。
アザーも臨戦態勢に入りいつでも戦える。
コッ コッ コッ
すると靴音が遺跡内に響く。
そのすぐ後。前方の暗闇からフードを被った二人組が現れた。
「お前ら何者だ?陽虎…ではないよな」
アザーが問いかけるが返事はない。
返事かというように相手が、剣を取り出した。
その一瞬の動きの中。服の隙間から何かキラリと輝いた。
(あれは…フィディスか…?)
独特の輝きはフィディスしかあり得ないが、一瞬だったため見間違いの可能性もある。
だが見間違いではなかった場合、何故この人達がフィディスを持っているかである。
(ピスと訪れた最初の依頼地…ピネルがフードを被った人たちからフィディスを貰ったと言っていたが…)
まさかと思い俺は薙刀を相手に向ける。
このまま戦闘か…そう思っていた時、二人組のうち一人が口を開く。
「見つけた」
そうアザーを見て言った。
* * * *
「あぁ…これも違う…これは…さっき見たやつ…」
私はケルディットの皆とあの後すぐに分かれ、夜鳩の管理棟の中にある資料室へと来ていた。
目的はただ一つ。私の誘拐に関する情報を集めるためだ。
各職員の調べたことはここに全て保管されているらしい。
事件内容など、ここへ来れば夜鳩の情報をだいたい知ることができるらしい。
そのためか、普通はいるには許可を取り、鍵を入手する必要があるのだがその手続きは三時間ほどかかることもあるらしく、待っていられないと思い資料室へこっそりお邪魔したのだ。
侵入方法はあら簡単。手癖の悪い同僚ことアザーから教わった。
だが入ったのは良いがカシア担当や関連の資料は他の職員よりも数が多く、私の誘拐の資料をなかなか見つけることができなかった。
他の職員も私の誘拐事件のことを一緒に調べていれば、そっちを見ればだいたいのことが分かるのだが、カシア一人で担当していたらしくカシアの資料尾見ない限り私の誘拐事件の情報は手に入らないようだった。
だが見つけられないのは、量だけが原因ではない。
(他の職員の資料はタイトルがファイルに書いてあるのに…カシアにはそれがない!何で全部数字なわけ!??)
おかげで一つ一つ見なければいけない。
番号が大きければ最近の課と思ったのが、そういうわけでもなく…
今やっと半分のチェックが終わったところだ。
(でもそろそろアタリ引いても良くない?…早くしなくちゃ無断侵入がバレちゃうよ…)
私は焦りを覚えつつ、ページをパラパラとめくっていく。
「‥‥んー…ん?これ…」
№五二のファイルを見ていれば。「ピス」という言葉の付箋が貼ってあった。
ページをめくれば、私のこと。私が誘拐事件の前日何していたか。夜鳩へ来る前までの情報。など色々書いてあった。
つまり
「これが私の誘拐事件の資料!やっと見つけた!」
嬉しすぎて大声で叫び飛び跳ねたい気分である。
だがさっさと退散しなければいけないので、それは控える。
持ち去るのはバレるリスクが大きいので、急ぎ中をチェックする。
「えっと…私が誘拐されていたのは…世界最古の遺跡…?…んで誘拐された理由…は分かってないのか…。あれ…夜鳩に来る前も分かってない?」
「夜鳩に来た経緯」…夜鳩のエリアで倒れていた。と書かれている。
何か恨みを買って逃げてきたか?とカシアの書いた付箋には書いてある。
(まぁ…ここらへんはいっか…でも私の誘拐されてた場所が分かった…ここへ行けば何か分かるかもしれない)
私は読んでいたファイルを棚に戻し、資料室を出る。
世界最古の遺跡の場所はメモした。後は行くだけである。
(今日は依頼もない。だからこっそり出て行っても多分大丈…)
「ピスや」
「へっ!??はいっ!」
私は驚きその場で飛び跳ねる。
後ろにはツァイトがいた。気配が全然しなかった。怖い。
もしかして資料室に入ったのもばれているのだろうか。だとしたら…かなり…気まずい。
「ね…ねぇツァイト…もしかして何か見た?」
「いいや?ピスが資料室から出てくるところ何て見てないぞ?」
「見てんじゃん!」
バッチリと目撃されていた。
資料室を鍵で閉めていない所も見られているのだろう。
今から出発しようとしていたが、それは叶わず叱られるのだろうか。
せめて口止めできないか…そう考えているとツァイトが話し始める。
「のうピス…どこか出かけるんじゃよな?わしも連れて行ってはくれんかのぉ」
「え?」
「そうしてくれれば先程のことは誰にも言わん。ただお前さんが一人でどこかに行くのは心配なんじゃよ」
そう言ってツァイトはニッコリと笑う。
正直一人で行きたいが、もしかしたら私の誘拐事件のことツァイトも知っているかもしれない。なら連れて行った方がいいだろう。
それで口止めもすむのだ。
「‥‥分かった。じゃあツァイト行こう。もう目的地は決まってるから」
そう言って私は転移陣の方へ歩いていった。
* * * *
街中に笑い声が響く。
楽しそうに遊ぶ兄弟の笑い声。
「兄ちゃん待ってよ!」
「嫌だよー!追い付いてみなー!」
「もう!兄ちゃんってばー!」
(…なんだろ…なんか懐かしい…)
家族はとうの昔に死んでいる。
死んだ瞬間は知らないが、両親が死に、兄弟二人だけになったとき俺は弟を養うために家事を頑張っていたらしい。
弟は元気でいつも楽しそうに生きていた。だが医者でも治せないという病気にかかりあっさり死んでしまった…と日記には書いてあった。
だが…その時の懐かしさではない。もっと最近に感じていたような…そんな感じの光景。
「マチスー?マチスってば」
「…ん?悪い。なんだ?」
クレープを食べ終わったラチアが俺の服の裾を引っ張っていた。
「…もしかして羨ましいの?あの光景?」
ラチアは俺が先程まで見ていた兄弟を指さした。
だが「寂しい」と聞かれてうんとは答えられない。
だって遊んだ時の感情を覚えてはいないから。
寂しいというのはその時の思い出。感情を覚えているから思えるモノ。
覚えていない俺には…あまりない感情だ。
「そう言うわけじゃないよ…ただ…あ」
「ん…?あ。リンさん!」
「ただいまラチア…マチス」
いつものようにニコリともしない表情でダージリンはそう言った。
ラチアは喜びリンに抱き着く。
それをさも当然かというようにダージリンは受け入れる。
(…この光景は…姉妹というようよりは…親子なんだよな…)
と先程の名残かそう思った。
兄弟。レルフィットの街で出会った金髪の青年。
もしかしたら…本当にそうなのかもしれない。
(…もう一回だけ…会おうかな…)
少しだけ興味がわいた。兄弟というモノに。
興味本位でしかないかもしれないが…少しぽっかりと空いた心を埋めてくれる存在かもしれないあの男。
「…」
俺は空を見上げてそう思った。




