1話 濃い職員たち
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「ピス…!…っ…逃げるぞ!」
「でもアザーが!あのままじゃっ!!」
私は必死にカシアに対して叫ぶ。だが私の腕を引っ張る力は弱まらない。
抵抗を試みようとするが、精霊術を使いすぎたせいで抵抗する力もなかった。
もう私も限界なのだ。頭もガンガンと痛む、体も思うように動かない。
(もうアザーを助けることはできないの?)
誰かアザーのことを助けられる人はいないのかと思い周囲を見るが、瓦礫の山が広がるだけだった。
少しだけ離れたところでツァイトとアザーが戦っている。
普段ならツァイトの方がアザーよりも強いとカシアが言っていたが、ツァイトは逃げ遅れた人を守りながら戦っている。
そのためかアザーに押されていた。
(カシアも左腕が動かなくて、右太ももを負傷。全身ボロボロで戦える状態じゃない…。…っいつものアザーに早く戻ってよ!)
そう思い悪魔と化したアザーを見る。
もうアザーを救うことはできないのだろうか。
(…っお願いします…誰か…アザーを助けて…)
私は一粒の涙を流してそう祈った。
ーーーなぜこんなことになったのか。それはこの日の昼頃から遡って説明しよう。
ーー前回の戦いから二か月半が経った頃
私はツァイト共に研究施設へと来ていた。
「うっわぁー!フィディスがたくさんある!」
私は目を輝かせながら目の前の光景に心を躍らせる。
依頼の時に二回フィディスを見たが、百個近くのフィディスを一度には見たことが無かった。
フィディスはそれぞれ球体のポットに一つずつ入れてある。
ポットの中には何かの液体が入っているのか、プカプカとポットの中でフィディスは揺れていた。
「そうじゃろ…。わしらが回収したフィディスをここで保管し研究しているんじゃから」
おっとりとした口調でツァイトは説明してくれた。
そしてツァイトはポットに張り付いている貼り紙を見る。
そこには五一〇〇年六月三日。第五パーティー回収と書かれていた。もしかしたらこのフィディスはツァイトが回収したものなのだろうか。
「綺麗だね」と言えば「そうじゃのぉ」と返された。
(ーー本当はこの前の面子で来る予定だったんだけどみんな依頼だし…)
ーーそう。私は精霊術がまだ使えないということで置いて行かれているのだ。
「もう行ける!いざというときは靴で戦える!」と抗議したが、「危険だ」とカシアに言われで今に至る。
(いつまでもラピスラズリがダメーって言うからこうなってるのにぃ…。まぁいいけど。明後日の依頼には参加しても問題ないってラピスラズリも言ってたし)
なのでそれまでの辛抱である。
「ほれ。次は呪いの研究をしているところへ向かうぞ」
「あ!はーい!」
私は返事をして、ツァイトについて行く。
なんでもツァイトは夜鳩の中で一番の呪いについて詳しいらしい。
なのでこうして私の研究施設見学にもついてきてくれた。
(でも、なんで呪いの無い人間のツァイトが呪いに詳しいんだろう…)
人間以外の種族なら呪いがあるから、解呪するために詳しくなるのは分かる。
だが人間が他種族の呪いのために詳しくなるものなのだろうか。
「ねぇツァイト。質問いい?」
気になったので聞いてみることにした。
今ここで聞かなかったら、多分聞く機会を逃す気がしたからだ。
気になるなら今聞いてしまった方がいい。
「なんじゃ。なんでも聞いてくれ」
「じゃあ遠慮なく…。なんでツァイトって呪いに詳しいって言われてるの?人間って呪い無いでしょ?」
私が疑問を投げかけると、ツァイトは立ち留まり「うーむ」と声を唸らせ考え始めた。
もしかしたら聞いてはいけないことだったのだろうか。
「その無理にってわけじゃないの!だからえっと…」
「いや。そう言うわけじゃない…。どう説明しようかと迷ってただけじゃ。…そうじゃのぉ。わしが子供の頃…他種族の親友が四人おっての…。竜種、精霊種、天種、魔法使い…その親友らが全員呪いに苦しまれ死んだから…かのぉ」
「…」
思ったよりも重い話だった。
「そ、ソーナンダー」
やや片言になったが許してほしい。
他に言うべき言葉が思いつかなかったのだ。
幸運にもツァイトは気を悪くした様子はなく「そうなんじゃ」とだけ返してきた。
だがこの重い話の後、ふる話題すら思いつかない。
どうしようか…そう考えていると…
「…む?そこにいるのは…セレストか?」
「…?あ…ツァイトさん…ども。こんにちは」
(白衣来てる…研究施設の職員かな?)
前方には茶髪でくせっ毛の白衣を着た青年がツァイトに向かって頭を下げていた。
なんというかやる気が無いというか…元気がない青年である。
青年は顔を上げると、ツァイトの隣を歩く私へ視線を向けてきた。この人と前の私はあったことがあるのだろうか…?
「あーピス…さんですよね…。前一回だけ会ったことがあった気がします。…まぁよろしくお願いします。セレスト・スラッド。天種の天使で…えっと…今年で四二一歳です」
指で数えながら、セレストと名乗る青年は自己紹介をしてくれた。
「精霊種のピスです。よろしくお願いします!」
「うわっ」
私はそう言ってセレストに対して名乗る。だが名乗り終わった瞬間にどこからか声が聞こえた。
「うわっ」とは引いた時に出る声なような気がしたのだが。
(え?私今なんで引かれたの??)
訳が分からず私は硬直する。
すると、セレストの背後からニョキっと女性が生えてきた。否。生えてきたように見えたのだ。
「ねぇ。こ、この人…ピスだよね?」
女性は声を震わせてツァイトに質問する。
赤毛で、丸眼鏡を掛けている。
首から下がる名札には「フェナ・ジェリア」と書かれていた。
「そうじゃ。ピス。こやつは呪いの研究をしている一人でフェナ。人間じゃ。研究施設の中ではピスと一番仲が良かった」
ほうほう。前の私の友人だったとは。だがその割には距離があるように感じる。
なぜだ?と思ったが、その理由はすぐに解明された。
「なんでこんな明るくなってるの!??私の…唯一の陰キャ友達だったのに…」
そう言ってフェナは床をバンバンと叩いた。
相当嫌だったのだろう。
「えっと…その記憶はないけど…また仲良くしてくれると嬉し…」
「黙れ陽キャ女!」
私の言葉を遮り、フェナはそう言った。その言葉は私の心へクリティカルヒットする。
(陽キャ女…なんかこんな拒絶されたの初めてかも…)
第五パーティーの皆は温かく私を受け入れてくれたため拒絶されることはなかった。
無言でツァイトが私の背中をさする。
「あ…おいカルメ!ツァイトがいるぞ!」
「…」
そこへ新たな人影が現れた。
顔を見上げれば、くすんだ金髪の少年とフードを被った長身男が近づいてきていた。
親子かな?と思うほどに二人の身長差はある。
「お。そいつが噂の記憶喪失のピスか?精霊種って言う。よろしくな。俺は呪いの研究をしているカルセド。人間だがいつかお前を倒す男だ!…でこっちがカルメ・ロイン。同じ職員で魔法使いだ。仲良くしてやってくれ」
そう言ってカルセドは握手を求めてきた。
もう色々なことが気になりすぎて叫びまくりたいが、ここは一つだけにしておこう。
(呪いの研究する人たち…みんな濃い!!)
* * * *
「…ここか…」
俺は遺跡を見てそう呟く。
今回はフィディス関係の依頼ではなく、ピスを攫った者達を特定するためにここまで来ていた。
なので俺とアザーの二人しかいない。
メルロとラチャはフィディス関連の依頼地へと行っているだろう。
(この前一人で来た時には手がかりを得られなかったからな…アザーがいれば何か気づくことがあるかもしれない)
まだピスを誘拐した者達の足取りはつかめていない。
「なぁ。カシア。夜鳩か研究施設のどちらかに裏切者がいる可能性があるって…本当か?」
遺跡を見ながらアザーがそう尋ねてきた。
「…本当だ。ピスは夜鳩の管理棟から研究施設へ向かう途中の通路で連れ去られたんだ。簡単に通路から外に出られると言っても、夜鳩とケルディットの周りには大規模な結界が張られている」
「それが破られてた…だからどちらかの組織に裏切者がいるって?考えすぎじゃないのか?竜種とかならすぐに結界くらい壊せるだろう」
それもそうだ。現に陽虎は毎度のこと結界を壊し侵入している。
だが俺が裏切者の可能性について考えたのはそれだけが理由ではない。
もう一つ疑問に思ったのはピスの個人情報についてだ。
夜鳩内の職員の情報は外部には漏れないようになっている。組織内で働く者には、表舞台には出られない事情がある者もいるからだ。
「…夜鳩と研究施設の誰かが外部に情報を渡さない限り、ピスが夜鳩で働いていることは分からないはずなんだ。それに、ピスが何者かということすらも…。ピスに関しての情報は俺も知らない。それに捕まる危険すらあるのに何故事務職員であるピスを狙ったんだ?夜鳩内部や研究施設内部の情報なら、もっと上の者を狙った方がいいはずだ…なのに…」
「確かに…。まー調べてみるか。この遺跡の奥なんだろ?ピスが誘拐されてた場所は」
「あぁ。…だが入る前に一旦情報を集めつつ食料を確保しといたほうがいい。遺跡の奥にたどり着くには六時間くらいかかるからな」
俺はそう言って遺跡に背を向け、市場の方へと向かう。
ここで焦ってもしょうがない。
(絶対に…ピスを危険な目になど二度とあわせない)
ケルディットの愉快な仲間たちpart1
セレスト・スラッド_天種(天使)_四二一歳
茶髪でくせっ毛。金色の瞳。いつもぼーっとしていて気だるげな青年。
セレスト曰く戦うのは嫌いだそう。だが頭を使うのが好きというわけでもない。
文章力が皆無でいつも研究報告書を書いているのは、フェナだったりする。
フェナ・ジェリア_人間_二五歳
赤毛で青色の瞳。内向的な性格で、外交的人間を毛嫌いしている。
数学が大好きで、研究熱心。
マイペースなセレストにいつもイライラとしている。




