間話 悲劇の日
二章六話の続き…という感じです。
『メルロ。…隣町へ買い物に行かないか?』
そう言えばメルロは不思議そうな顔で首を傾げる。
片手でお金を作り、もう片方の手でナイナイと表現したことから「お金ない」と言いたいのだろう。
『問題ねぇって。ちょっと遊びに行くようなもんだから…え?もう帰らないといけない?…いいじゃんか。一日くらい』
僕はそう言う。
もうメルロはここにいてはいけない。ここに居たらきっと死んでしまう。
(贄の話も聞いた。このままこの街に居たらメルロは贄になって死んじまう)
それだけは防がなければ。
だがメルロは首を縦には振ってくれなかった。
『…少しだけでもダメか?馬車でちょちょっと行って帰ってくるだけだって』
嘘をついた。本当は馬車なんてない。
だけどこうでも言わなきゃメルロは首を縦に振らない。それに一日近く歩けは隣国へ行くことができるし、ここから各国へ馬車が出ている。
僕の目的はここまでメルロを連れてきて、他国へ渡る計画だ。
金は僕が持っている。メルロがこの街を一度出てしまえば、帰る手立ては無いはずだ。
(だから頼む…首を縦に振ってくれ…)
そう願っていると…
コクン
メルロが首を縦に振った。
『まじか!?じゃ行こう!…すぐに馬車には乗らないが…ほら行こうぜ』
僕はそう言ってポテポテと歩き出す。
その横をメルロも歩く。やや不安そうな表情をしているが大丈夫だろう。
そう思っていた。
* * * *
長らく歩いた。
もう一日近くは経っているのではないだろうか。
(お母さん。…みんなに黙ってきちゃってるけど本当に大丈夫?)
私はそのようなことを考えながらトボトボと歩く。
もう足が痛い。だけど不安の方が勝る。
「…っ」
やはり途中で不安になり、私はレルフィットの街へと走って戻る。
メルロが後ろで何か言っているが、それよりも私は「いい子」じゃなくなり愛されなくなる方が怖かった。
(やっぱり言いつけは守らないとだめ。いい子じゃなければ…いい子じゃなくちゃ…)
愛されなくなってしまう。そう思って。
:
:
そうして走ってレルフィットの街へ着いた時なんだか騒がしかった。
(な、何かあったの?…私足遅いからここへ来るまで丸一日くらいかかっちゃったけど…その間に何か?)
なんだか嫌な予感がして私は家のある方へ急ぎ向かう。
(私がいつまでたっても帰らないから?でも何だろう。そんな感じじゃない気がする…家族に何かあったら…どうしよう…)
愛を与えてくれる人が消えたら…どうしたら。
「…っ…はぁっ…っ…」
そんなことを考えているうちに家へと辿り着く。
だが様子がおかしい。
ドアの玄関は開きっぱなしで、中の様子が見える。
いつもはこんなことないのに。
私は恐る恐る玄関から顔を覗かせれば、家の中に姉がいるのが見えた。
あちらも私に気が付いたようで、こちらへ向かって来る。
(えっと…まず謝るのが先だよね…そうすればきっと…)
バチン
「…っ」
姉は顔を真っ赤にし私の頬をはたいた。
私は訳が分からず目を丸くして姉を見る。
「あんたが…っあんたが急にいなくなるから!!母さんが連れていかれて死んだのよ!!」
「…」
お母さんが死んだ?
「なんで急にいなくなるのよ!あんたが死ねばよかったのに!あんたがっ…もう出てって!!いい子じゃないあんたなんていらないの!顔も見たくない!」
姉はそう言って玄関のドアを閉めた。
だが私はまだ事実が読み込めずその場に立っていた。
(…私が…?いなくなったからお母さんが死んだ?…どういうこと…私…?)
そこへ雨が降ってきた。
まるで悲しみの涙のように。
(それに…いい子じゃないかr…あ…いい子じゃなくなったから私はいらなくて?…っ分からない。分からないよ…でも私がきっと悪いんだ…私が…私のせいで…)
「っ…っ…」
涙がこぼれる。
地面へと涙が落ちるが雨か涙か分からない。
(ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさい…。いい子じゃなくてごめんなさい…)
そう心の中で謝る。声に出すことができない
でも何度も謝っているうちに誰に対して何を謝っているのか分からなくなっていた。
私の代わりに死んだ母?それとも母に先立たれた姉?妻に先立たれた父?
いい子じゃなかったことについて謝っているの?それとも…?
(…もう…分からない。何もしたくないや…)
私はその場でへたり込む。
もう分からなくなったのだ。母が死んだら次は誰から愛を与えてもらえるのだろう。
私は…私はなんのために生きているのだろうか。
でもそれすらも考えたくない…だってもう全部どうだっていいから…
* * * *
『メルロ…』
声を掛けてもメルロは動かない。
雨が降っているのに、ずっと地面に座り込んだまま。
(これじゃあの時と同じじゃないか…!このままじゃ…メルロは壊れちまう。…なら…)
魔法で記憶を封印するしかない。
いつかメルロがこの記憶を受け入れられる時が来るまで。
(それまで…この記憶は封じさせてもらう)
『記憶』
メルロの周囲に光が集い、メルロを包んでいく。
そして鍵がメルロの記憶を閉じ「カチャ」という音を鳴らす。
(これで…これでいいんだ…次成功すればいい…次がきっとあるはずだ…)
こうして僕はメルロを連れてレルフィットの街を出た。
そしてまた彷徨うこと数か月…僕は「夜鳩」という組織を見つけた。
ここは働く人の情報を外部に絶対漏れさせない組織らしい。力があるナシ関係なく訳ありなら即座に保護してもらえるらしかった。
最初はそんな良い話あるかと思ったが、「保護するからその分働け」主義らしく、なんだが納得がいった。
ーーだから僕はここへメルロを入れた。今回はメルロだけではなく僕も。
(メルロだけだと不安だしな…それにここなら…メルロはまた笑顔になれるかもしれない…)
僕はそう希望を抱きながら。夜鳩の職員となった。
(もうメルロを不幸になんてさせない…)
裏話になりますが、黒薔薇は監視の役割も担っていて街を出入りするものは常にチェックされています。
ですがラチャが幻惑の魔法をかけたので、黒薔薇には気づかれずにレルフィットの街を出ることが出来ました。




