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淡きレテの果て〜世界を駆け巡る忘却少女の冒険譚〜  作者: 雪道 蒼細
2章 レルフィットの街

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24/29

10話 奪う人奪われる人

次の更新は明後日の18時前後です。次回で2章終了です。


 「ラピスラズリ!!…ジャンプ!!」


 私は呪文を詠唱し、アザーをターゲットにして精霊術を発動させた。

 発動後、アザーの体は天井まで上がっていき、一気に落下した。


 「…!」


 かなりの速度で落としたため、ドーーン!!という大きな音が地下に響く。

 息を切らしつつ、メルロたちのいる最下層へ降り、アザーの様子を確認しに行くが意識が無く完全に伸びているようだった。


 (ーふー…一先ずこれで大丈夫なのかな…っう…っ)


 黒薔薇の蕾を持って最下層へ来てみれば、神は血だらけで倒れているし、アザーがメルロに怪我をさせていたのだ。

 これはいかんと思い、状況も分からないまま精霊術で攻撃させてもらった。


 だが無理やり精霊術を使ったせいか吐き気と、右手に激痛が走る。

 私は右手に持っていた靴を落とし、顔をしかめる。

 

 (気持ち悪い…なんか視界がグルグルするし…)


 吐き気と激痛のコンビネーションとは最悪だ。

 ゆっくりと呼吸をし、落ちついてきたと思ったら、辺りを見回す。

 呼吸をしてきたら少しだが吐き気の方はマシになった。だが右手の激痛はそのままなので、靴を持つのは諦めることにした。

 

 「…メルロ大丈夫!?」

 

 私は近くで倒れていたメルロに声を掛ける。

 肩から血が出ている。

 アザーの鋭い爪がメルロの肩に食い込んだのだろう。

 

 地面を見ていたメルロはゆっくりと顔を上げ私を捉えた。

 そして微笑んで、手を動かし始める。

 

 『大丈夫です…ピスさんのおかげです…助けてくれてありがとうございました…でもちょっと眠いので…ん…』

 「いいって…間に合ってよかった…ってそうだ。私しなくちゃいけないことがあるんだった」


 左手に持つ黒薔薇の蕾を見つめ、私は神へと視線を移す。

 一言も喋らないので、もしかして死んでいる?と思い近寄るがまだ息をしていた。


 目もちゃんと開いているので意識はあるのだろう。

 

 私はそう思い本題を持ち出す。

 

 「ねぇ神。あんた…本物の神じゃないでしょ」

 「…」


 そう言った瞬間、表情は変わらなかったが杖を持つ力がわずかだが緩んだ。

 精霊種は感情を表情にこそ出せないが、動揺などは身体に現る。

 

 (…やっぱり…そうなんだろうな…この蕾が教えてくれた記憶の通り…)


 私が先程流れてきた記憶の内容を思い出す。


 .。o○.。o○.。o○.。o○


 「私が贄に…?」


 そう姉は目の前にいる男_神に尋ねた。

 俺と同じく精霊種の姉は表情は読めないが、手が微かに震えている。動揺しているようだった。

 それもそうだ。

 だって神に対して寄付金を払っている富裕層は贄には選ばれないはずだったからだ。


 「姉さん?」


 俺は不安になり、震えている姉の手を握る。

 

 「そうだ。我と一緒に来てもらう。もう贄が足りないんだ。寄付金関係なしに贄に選ばれるようになった。お前たち捕えよ」


 そう言って神は神の傍に立っていた警官二人に姉を捕らえるように命じた。


 「!やめてください…少しだけ待ってください!お願いします!」


 無表情ながらも姉はそう言って抵抗した。

 だが抵抗した瞬間、俺の額に銃口が突き付けられた。


 「!」

 「お前が反抗するならこいつを代わりに連れて行く。どうする?」


 そう神は言った。


 俺はその時力を出して、反抗しようとした。

 だが俺の考えが分かったのんか姉はゆっくりと首を横に振って制止した。

 俺達一家は人間のふりをしてこの街に住んでいる。


 この街は人間と魔法使いしか住んではいけないのだ。

 なら他の街に移り住み精霊種として生きればいいと思う。だがどうせどの街に行っても精霊種と言うだけで畏怖される傾向にある。

 なら正体を隠して生きていた方が楽だと俺の祖先は考えたようだった。


 だからここで精霊術を使えば、両親にまで迷惑が掛かる。

 だから姉は止めたのだろう。


 「…私を連れて行ってください。もう…反抗しません」

 

 姉はそう言って神と警官に連れていかれた。

 もう姉と一緒にいることはできないのか。

 このままで本当にいいのか…。


 (いや…このままでは嫌だ)


 俺はそう思い、姉を連れ戻す作戦を自分の中にいる精霊と立てた。

 決行するのは早く、姉が連れていかれた日の晩に姉を奪還することに決めた。


 ーーそしてまた、姉と一緒に暮らせる。そう…思っていたのに


 「お前…昼間の小僧だな。…贄の姉を連れてどこに行く気だ?」

 「!」


 姉を連れ出す際に、神に見つかってしまったのだ。


 (どうしよう…見つかった…。でももう見つかったならしょうがない。戦うしか…生き残るすべはない

!)


 そう思い俺は神と戦った。


 戦ったが…


 「ロードナイト…。カッツゥーラ!」

 「ッチ!…っ…ふ」

 「え!?」


 後もう少しで勝てる。そう思った時、神が姉を傍へと引き寄せ俺の攻撃の盾にしたのだ。

 そして神自身は攻撃を食らわず、姉だけが血だらけになった。


 「…!」


 姉は血だらけでぐったりと倒れていた。

 だが微かに呼吸音が聞こえる。まだ生きていると思ったが、神が姉にとどめを刺したのだ。


 姉の胸をぐさりと剣で刺した。


 ーーそこからのことはよく覚えていない。


 気づいた時には神は死んでいた。手足が捥げた状態で。


 勝ったのに全然嬉しくなかった。

 姉は精霊と相性が悪いのか精霊術を使えなかった。だから姉を守るために精霊術を磨いていたのに。

 その力で姉を傷つけた。死なせた。


 「…なんのための…精霊術だ…」


 俺は涙も流せずに、姉の亡骸を抱きしめた。

 

 (…呪いって…嫌だな…)


 泣きたい。思いっきり泣き叫びたい。だけど呪いがそれを許さない。

 こういう時他種族は羨ましい。

 誰かが死んだとき感情に出せるのだから。

 悲しいのに表情に出せない。姉は俺が悲しんでいると分かってくれるだろうか。


 (…でもなんで姉さんがこんな目に…贄に選ばれずのうのうと生きている奴らが憎い。ずるい…なんでなんでなんだ…)


 姉を抱きしめる力が自然と強まる。


 (みんな…不幸になればいい…この街にいる全員が…絶望を味わえばいいんだ。身内が死んだ俺の気持ちや贄に選ばれて死んだ…姉さんの気持ちを…身をもって知るべきだ)


 俺はその考えから、神になった。

 街の住民は神が死んだことなど知らない。俺が精霊術で完璧に容姿を真似たから。


 (…復讐の始まりさ…)


 .。o○.。o○.。o○.。o○


 ーーこれが黒薔薇の蕾の教えてくれた、神の想い。記憶。


 「…あんたの想い全てこの蕾が教えてくれた…。人殺しのあんたに同情する気はないけど…あんたそれであの世に行ってお姉さんんに顔向けできるわけ!?」

 「しなくていいさ…もう俺もどうだっていい……それに…あの世何てないんだ。この世で死んだらもうそれで終わりさ…」

 「そうかもしれないけど…。…周りの人を巻き込むのは違うよ…。周りの人を苦しめておいて自分は楽に死ぬ気?」


 私は神に尋ねる。

 このまま罪を償わせずに死なす気は諸々ない。

 だけど、ただ牢獄に放りこんでもこの人は改心しない気がする。もっと根本的な何かを変えなければ。


 「…もういいだろ。俺に希望も何もないんだ。…お前には分かるか?身内を失った気持ちを…。姉が死んだあと、両親もショックでかポックリ死んだんだ。もう俺には何もないんだ…だからフィディスも取り込んだんだ。周りを巻き込んで死ぬために…」

 「…」


 私には分からない。

 身近な人を失ったことなんてないから。

 

 (…でも前の依頼と似てるかも…。友人を失った…ピネルの復讐と…)


 奪う人と奪われる人。世界には二通りしかない。

 奪われたくなければ奪うのみ。


 そこに正解や不正解もない。

 

 だが自らを傷つける道は奪う道だ。


 その人を救う方法は分からない。だって周りはその人が捕まったら石を投げるだけだから。

 

 『…なぁ』


 私と神が話していると、ラチャが話しかけてきた。

 メルロは壁にもたれかかり寝ている。


 「どうしたの?ラチャ?」

 『…いやちょっと。…なぁ神。僕は前まで奪う魔物だった。…自分より弱い者に狙いを定め奪っていく。ずっとそんな生活をしてきた。そのやり方を批判されたこともあるが、僕は悪いとも思わなかった。だがある日出会った人に言われたんだ。「奪われる生活を非難するわけではありませんが、奪い合いは火種しか生みませんよ?一度奪うことを止めてみてはどうですか?食べ物に困っているなら、広場に炊き出しがありますよ」って』

 

 やや懐かしむようにラチャは言う。

 

 『…まぁ確かに奪うことで、報復は受けた。だからそいつの言う通り奪うことを止めてみたんだ。そしたら攻撃もされねぇ。思ったよりも平和な日々だった。…そしてその期間に誰かに優しくしたら全員じゃねぇが、優しさを返してくれた。…そこからだ奪うのを止めたのは。奪わなくなってから奪われることもあったが、奪われるたびに僕が言われたのと同じことを言うようになった。そしたら自分が前よりも良いやつに思えてきたんだ』

 「…だが別に俺は良いやつになりたいわけでも平和も望んでいるわけでもない」

 『そうだな。ただ僕が君に言いたいことは、君を想っているのは家族だけじゃないってこと。…自分がなんとも思ってない人でも自分を考えてくれる人はいる。絶望も憎しみも…誰かに話せばよかったんだ』


 …それは少しだけ私も思った。

 誰かに話すだけで、心がほんの少しだけ軽くなる。


 だから人は絶望の淵に立ってもやり直せるんだ。

 どんなところからでも這い上がれる。

 

 『ま。前メルロが言ってたことを真似しただけだが…そう言うことだ。…精霊種なら心に精霊がいるだろう?そいつは何も言わなかったのか?』

 「…あ」


 もしかしたら出口付近で私たちを止めたのも、神の精霊だったのではないだろうか、

 

 (…だったのなら…神を想ってる人いるじゃん…)


 ラピスラズリだって私の体をあんじてくれている。

 なら神の精霊もそうかもしれない。


 「…そうだな…いた。…ロードナイトはいつも…俺の味方だった…」

 『…そうかよ。んじゃフィディスを回収させてもらうのと身柄を拘束させてもらうぜ。ピス』

 「分かった!」


 私は返事をして、例の正方形の紙を取り出し、神のお腹へ貼り付ける。

 

 「‥‥ゲホッ…ッ」


 その数秒後、神はフィディスを吐き出し、手足を拘束ぐで固定させてもらった。

 瞳は宝石眼ではなくなり、爪もとの薄桃色へと戻っている。


 (これで依頼達成かな)


 人を何十人も殺した罪は重い、法の下で神は裁かれるだろう。

 ラチャによれば、夜鳩の管理棟へ一旦持ち帰り記憶をなくさせてから、国の法廷へと送られるそうだ。


 (……それにしても…こうフィディスを飲み込む人って…悲しい過去を持った人が多いのかな)


 二件しか依頼をこなしていないが、どちらも大切な人を奪われ、奪われる側に回った人だった。

 こうなる前に、人の気持ちに寄り添えればいいのだが…そう上手くはいかないだろう。


 (「夜鳩」にできることは、希望の道を作ること…だけなのかな…)


 他にできること。そう思い私は手を握りしめた。

 

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