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淡きレテの果て〜世界を駆け巡る忘却少女の冒険譚〜  作者: 雪道 蒼細
2章 レルフィットの街

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22/24

8話 私は負けない

メルロが頑張る回です。

次回の投稿は明後日の18時前後です

 「…ん…!」


 私は力強く杖を振り下ろし、白い球体を神と私たち周りに置いていく。

 今いる地下は戦闘するにはやや狭い。全力で神と戦闘したらこの空間を破壊しかねない。

 そうすれば戦闘どころではなくなりぺちゃんこだ。

 そのため攻撃が白い球体より外へ行かないように覆う。結界のようなものを作っていると言った方が分かりやすいかもしれない。

 

 (ま、警察を鎮圧してくれているカシアさんとの間に壁を作りたかったってのもあるけど…警官が応援に来たら少しだけ面倒くさいし)


 そう思いつつ黙々と白い球体を作っていく。

 

 その間にも神からの攻撃が来るが、それについてはアザーが何とかしてくれている。

 

 「ーーくらっ!」


 アザーは持ち前の瞬発力を生かし、神の近くへと高速移動した…と思ったら神へ蹴りを入れる。

 だが神はアザーの蹴りを腕で受け止め、アザーの腹を拳で殴ろうとした。

 だが、それよりも先にアザーが神の手を掴み身体を翻す。

 そして回転した勢いを使って神の顔面へと蹴りを入れる。


 「…っ!」


 身体強化している悪魔の姿のアザーの力は怪物だ。

 本人が言うには「子供の頃は身体強化使ってもかなりひ弱だったんだぜー」とよく言っているが、さすがに嘘では?と今のアザーを見ると思ってしまう。


 まぁそう言うわけで、怪物級の力を持つアザーの蹴りを直に受けた神は後方へと後ずさる。

 このまま倒れるかと思ったが、神と名乗るだけあり倒れず負けじと詠唱をしてアザーへ攻撃を仕掛ける。

 花弁が突然宙を舞ったかと思えば、いきなり地面へと降ってきた。

 ただの花弁かと思ったが落ちてくる途中で棘のような形になった。遠目で確かではないが、針先になにかが塗られている。


 (…もしかしなくても…毒!?)


 まだ球体を覆っている最中で自身を守る時間なんてない。

 このままでは毒にやられる。私はせめてラチャだけでもと思い、ラチャに覆いかぶさる。


 『おいメルロ!?』


 慌てるラチャの声が聞こえたが、もう時間が無い。

 せめて痛くないようにと願う。


 「…」


 だが一向に針は刺さらない。恐る恐る目を開ければ、アザーが羽を大きくし、針から私たちを守っていた。

 

 「!」

 『おい!大丈夫なのか!?』


 焦ってラチャが声を上げる。

 私もアザーの身が心配になり杖を握る力を強くする。


 「ほらよっと…!」


 だが予想に反しアザーは元気そうな声を上げ、羽を神の方へと羽ばたかせる。

 するとアザーの羽に刺さっていた針は全て神の方へと飛んでいく。神は舌打ちをし、急ぎ杖を構え薔薇で結界を張った。


 針は薔薇の花弁でできた結界へ全て飲み込まれ、やがて花弁は散った。

 

 『ふー。助かりました!アザー!』

 

 ラチャに代弁してもらい私はほっと一息をつく。

 だが助かったことに油断していたのか、次に目を開けば神が目の前まで来ていた。


 (えっ…え…)


 何が起こったか分からず私は冷汗を流す。

 攻撃されると思い私は急ぎ、魔法を発動させようとするが。


 「…?」


 神は私の胸元へ手を伸ばして何かを奪い取っただけで、後方へ下がっていった。

 攻撃しなかったことを不思議に思い私は杖を構えて、神を警戒する。 


 「やはりか…声が聞き覚えあると思ったが」


 神を睨んでいると、神は淡々とそう言った。

 急に訳が分からないことを言われ私はポカンと口を開ける。

 宙にいるアザーも訳が分からなそうにしていた。


 『ーーー?…あ!メルロバッジがねぇ!!』


 ラチャがそう叫ぶため、私はバッジをつけていた胸元を触る。

 確かにいつもの感触が無かった。


 (…でも…なんでバッジ?…あれは認識を阻害するのと、一つの物を収集できる…だけ…)


 そんな疑問をラチャに伝えようとジェスチャーにするまでもなく答えは帰ってきた。

 

 「お前は…二年前逃げた贄だな」

 「…!」

 『それ以上…言うな!アザー!』


 私が戸惑い杖を落とす。

 どういうことだ?私が贄だった?


 聞かれたくなかったことなのかラチャが大声を出しアザーの名を呼ぶ。

 アザーは頷き、サーベルを取り出した。

 そしてサーベルを神へと振り下ろす。

 だがアザーと応戦している間にも神は話を続ける。


 「…覚えていないのか…なら…教えてやろう」

 『メルロ聞くな!メルロ!』


 そう言ってラチャが私の耳を塞ごうとするが小さな手では防ぎきれず、男の声が耳に聞こえてくる。

 男が口にするまでの時間はとても短かったはずなのに私にとっては数分…と長く感じた。

 

 「…お前は贄としての役目を負うはずだったが、儀式の数日前に逃げ出し母親が代わりに贄となったんだ。まぁ元々実子の身代わりだったが、魔法使いの贄は魔力があって極上だからな。交換を許可したんだ…」

 

 (ど…どういうこと…?私がこの街で育ったのは夢のおかげて思い出せてた。けど贄だったってのは知らない…。……わ、私が逃げたからお母さんは死んだ…?だから夢の中でも…)


 陽虎と出くわした日に見た夢。あの時の夢で母は私に対して「お前のせいで死んだ」と言っていた。

 

 (…でも私なんで逃げたの?逃げなきゃ…逃げなきゃこんな苦しまずにすんだんじゃ…?)


 贄の人達がどうなったかはアザーとピスに聞いた。

 あのまま…死んでいれば今こうやって、当時の記憶に苦しまされることはなかったのではないだろうか。

 きっとその時私が死のうが心配してくれる人は…


 (あ‥お母さんとお父さんは心配したのかな?ラチャも…でもどこにいるかも分からない…そう言えばなんで知らないの?分かんないんだろう…もういないから?)


 記憶にはまだ生きているように感じる記憶の中の父と母。でもラチャも一切私の本当の両親については話さない。

 

 (…分からない…分かない…)


 私は自分の何を知っているのだろう。記憶を思い出せなくて…まるで私が壊れないように動かされている人形のようだ。


 (私は。私は…)


 私は段々と苦しくなる胸を手でおさえる。

 胸が痛むにつれ呼吸もままならない。

 浅い呼吸を繰り替えす。

 

 「メルロ!ーーーっ!ぐはっ!」


 私を叫ぶ声が聞こえるが、衝撃音にかき消される。

 アザーは口から血を吐き、右足を押さえていた。

 

 助けに行こうと駆け寄りたかったが、足が動かない。

 段々意識も朦朧としてくる。

 このまま倒れてしまいたい。

 倒れて楽にーー


 『メルロ!!』

 「!」


 私はハッとし目を見開く。

 目の前にはラチャが私に対して必死に呼びかけている。

 その様子を見て私は歯を食いしばった。

 

 (そうだ。負けるな!)


 もう言わなくても分かっている。

 実の母と父はもうすでに他界している。

 義理の両親も姉も私のことを愛してなんかいなかった。

 そして贄から逃げたのもきっと死ぬのが怖かったからだ。


 (全部全部。私が弱いから、見ないようにしていただけ。前の私は事実を知ったらきっと立ち直れないほど弱かったから)


 今も弱い。今だって諦めたい。

 全てを放り出しで逃げたい!

 苦しいのは辛い。痛いのも嫌。


 {でもでも。それじゃ私は強くなれない。強くなりたいのに!なれないんだ)


 強くなるには事実を受け止めるしかない!


 (辛い過去でも。私は逃げない。これが私の生きてきた証だから。無かったら私の人生のストーリーは完成しないんだ!)


 今の私には仲間がいる。一人じゃない!

 楽しい思い出も沢山できた。

 それらが私の心を支えるんだ!!


 私は呼吸を整え、震える手で地面に落ちている杖を拾う。

 どんなに決意をしたって怖さは消えない。


 ーー別に私は何にでも恐怖心を抱かないようにしたいわけではない。


 そんな強さはいらない。


 みんなで怖さを乗り越えられる力が欲しい。


 それだけだ。


 そしてラチャと目を合わせ、合図を出す。

 ラチャはすぐに分かってくれて頷いてくれた。


 私たちの間に言葉はいらない。いつだって言葉を交わすことはなかった。


 {じゃあ。いくよ)


 『食べる魔法(セイヴァー)!!!!』


 * * * *


 「とりゃっー!」

 「ーっぐ!」


 私たちは今現在地下一◯階から地下二階まで上がってきていた。


 その中で警官と出会したのは計八回。

 ほとんどの警官はカシアが気絶させたらしく、上がるのはそこまで大変じゃ無かった。


 戦う度に、敵が派手にずっこけるのだ。

 一回目はたまたまかと思ったが、五回も続けば流石におかしいと気づく。


 贄の子もそう思ったのか「芝居してるの?」と聞かれた。

 

 (んー。ラピスラズリかなって思ったけど体に痛みはないし。考えられるのは)


 「カシア。近くにあるんじゃない?」

 「え?」

 「ーー!!」


 近くで物音がした。ビンゴだろう。

 物音のした方をずっと見つめれば、カシアがゆっくりと出てきた。


 「もう。私一人で心細かったんだから!なんですぐ出てこないのよ!」

 

 私は腰に手を当てて、頬を膨らませる。

 贄の子も物凄い勢いで首を縦に振っている。

 ーーそんなに頼りなかったのだろうか?


 「すまない。少し面白くなってしまって」


 カシアは照れながらそう言った。

 手に石を持っているあたり、警官の足に狙いを定めて転ばせていたのだろう。

 石を投げるなんて。今までに出会った警官全員骨折していなければいいが。


 「ーーま、いいや。先を急ごう。ーーそういえば」

 「ん?」

 「カシアは忘れた記憶とかあるの?」


 ふと疑問に思った。メルロが今回記憶を取り戻そうとしていた。

 カシアにもそういう記憶はあるのだろうか。

 少し思案した後…カシアは口を開いた。


 「俺は忘れっぽいからな。あるよ。忘れた記憶。思い出したい記憶山ほどある」


 そう言って遠くを見つめるカシアの瞳が悲しそうに見えた。


 

 

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