6話 ラチャを贄に…などさせない!
明日の19時後投稿予定です
ーーメルロと僕はずっと一緒だった
楽しい時も悲しい時も…ずっとメルロと一緒にいた
でもそれはメルロの両親に頼まれたからだ
(ラチャ。俺たちに何かあったらメルロを守ってな)
頼まれてから二週間が経った頃…メルロの両親は流行り病で死んだ。
メルロはまだ九歳だった。人間の九歳だとそこそこ大きいかもしれないが、魔法使いの九歳は人間の年齢に例えるなら赤子同然だった。
そこからだ。メルロと二人で暮らすようになったのは。
元々メルロが住んでいた街は、魔法使いを毛嫌いしていたため、僕は魔法使いでも受け入れてくれる街へ引っ越そうとした。
ーーメルロは両親が死んでから食べ物も食べなければ、寝ようともしない。風呂にも入らなければ、着替えもしない。
一日中、親の遺骨を眺めるだけ。
そんなメルロを変えたかったというのもある。
(守るって…言ったしな)
メルロを無理やり引っ張って僕は新天地を探した。
メルロは相変わらず、廃人の様だった。だがもしかしたら…新しい家族が見つかれば元の元気になるかもしれない。
愛情を注がれれば、いつか両親を失った悲しみから逃れられるかもしれない。そう思ったのだ。
そして新天地を探し求めること一か月。北の地にメルロを養子に迎えてくれるという家があった。
話を聞けば、その家には一人もう娘がいてその子の妹が欲しいと思っていたとのことだった。
僕はこれでメルロが幸せな生活を送れると思って、喜んでその家族にメルロを引き渡した。
魔物は魔法使い以外の種族にはあまりいい顔をされないので、僕は一旦メルロから離れた方がいいと思ったのだ。
そして陰からメルロを見守ればいい。幸せになっていくメルロを見ていればいい。そう思っていたのだ。
ーーーだがそれは大きな間違いだった。
『メルロ!…その顔の痣どうしたんだよ!それに服も…寒くないのか!?今雪降ってんだぞ!』
メルロの顔には青あざが多くできていた。顔だけではない。手や足にもあった。
それに寒い外へ薄着で出歩いていたのだ。
半袖だし、真冬の外を出歩く格好ではない。
「…ん…」
だがメルロはよく分かっていないような顔をして首をかしげた。
『なにが大丈夫なんだよ!本当にあの家族お前を愛してんだよな!大事にしてんだよな!?』
僕は心配になりメルロを問い詰めた。だがメルロからの返事はいつもと一緒だ。「大丈夫。愛されているし、大事にされているよ」
そう言って笑うメルロの顔を見てしまえば、無理に引きはがすのを躊躇してしまう。だってこの世の終わりとでも言うような顔をしていたメルロが今では笑っているのだ。
引きはがしたら、また絶望に満ちた顔をするだろう。
そして死なれでもしたら…。
(僕は頼まれたから困っているの…?それとも…自分が死んでほしくないと思ってこう思ってるの…?)
そう迷ってしまった。
今なら迷わない。本来ならばあの時点でメルロを無理やりあの家から連れ出すべきだったのだ。
そこから少しした後だ。贄の話を聞いたのは。
メルロを養子にした家は、五年後娘が贄になる予定だったそうだ。
それを逃れるために代わりの者を探していたらしい。この話を聞いた時、次こそはメルロを連れ出そうと思った。
あんな家に居たら、メルロは死ぬ。だから…連れ出したのに
(なんで…あんなことになったんだろう)
まさかあの後、メルロを養子にした母親が急遽贄に選ばれ死ぬことになり、それを知ったメルロが…またあの時と同じような廃人状態になり記憶を封印することになるとは…
誰が思うだろうか。
.。o○.。o○.。o○
「…ん?暗い…?」
目を開けても視界は真っ暗だった。
まだ覚醒していないのかと思いもう一度目を開ける動作をするが結果は変わらない。
(えっと…確か調査にピス達と出ていたら建物が急に揺れて…落っこちて…捕まったのか?)
どうも落下後の記憶が無いため分からない。だが今の状況を考えれば捕まったと考えるのが妥当だろう。
(ここは敵の陣地?むー!縄で体が縛られてるし、目隠しされてるせいで状況がさっぱりわからなーい!)
拘束から逃れられないかと思い体をうねらせるが、無理だった。
ぱっと見、僕の体は柔らかそうだが(実際に柔らかいが…)球体を細長くすることは不可能だ。
揉まれたりして、ややへこむがそれ以上はならない。
(はぁー脱出は出来なさそうだし、敵陣の会話を盗み聞きでもするかー)
先程から微かに聞こえてくる会話に耳を澄ませる。
するとゴニョゴニョと話す会話が段々と聞こえてきた。
「次の贄はあの水色の魔物で決まりだな。そう言えば捕えている贄はあと何人いる?」
「五名です。また贄の収集をします?]
「そうだな。もう少し黒薔薇にも力を注ぎたいし…鼠も入り込んでいるようだしな」
鼠と聞いて僕は少し驚く。
まさか気づかれていたのだろうか。
「…鼠とは先ほどお話した、旅の者のことでしょうか」
「あぁ。…お前そいつらの顔と服装を思い出せないと言っていたな…ならそいつらは素性を明かせないやつらなんだろ…もしかしたら国が手配した連中かもしれんが…まぁ力を蓄えた黒薔薇とフィディスがある今そこまで心配する必要はないがな」
(ーーー!!やっぱりフィディス持ってたか!このエセ神め!何フィディスを使って神様気取ってるんだ!)
僕は心の中で神と名乗る男を罵倒した。
さっさとフィディスを持って言うとでも公表していれば、僕が敵陣の手に落ちることもなかったというのに。
『…あー。せめてメルロがいればな…ピスでもアザーでも誰でもいいけどさ』
僕一人では太刀打ちできない。本当にどうしたものかそう思っていると…
「ねぇ」
『…え?』
「あ!やっぱり!私以外にもこの牢屋に入っている人がいたのね!」
明るい少女の声が左から聞こえた。ずっと一人かと思っていたがどうやら先客がいたらしい。
「ねぇあなた。ここから出たくない?」
『なんだ急に…そりゃ出たいけど…』
初対面でいきなり脱獄の話をされるとは思わなかった。
なんとなく少しだけ距離を置く。
『というか出られるのか?僕も君も目隠しをされている。それに武器などはないだろう?』
贄は基本的に連行される時、手荷物を没収され衣類も指定のものに着替えさせられる。
そのため脱出できるための道具をこの少女が持ってるとは思えなかったのだ。
「ふっふーん。まあね。こっちは三日もここにいるからなんとなくどうしたら逃げられるかを知っていのよ…じゃあんたも共犯ってことでいいのね?」
『まぁ…?』
信用は出来ないが、このまま黙って贄にされたくない。
次は僕の番と言っていたので近いうちに先程の女のようになってしまうのだろう。
(それはヤダ。メルロに会ってちゃんと話をしたいしな…んで?この少女はどう…)
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
『!??』
どうするのだろう。そう思った瞬間に少女は叫んだ。
耳…はないが耳が壊れるかと思った。
『おまっ!何…って…血の匂い?おい!どういうつもりだ!』
訳が分からず僕は少女に向かって叫ぶ。
「誰か!このものに襲われるわ!助けて!!」
「!お前たち何をしている!っ…!おい何故女の手から血が流れている!おいそこの球体答えろ”」
『えつ!?ぼ、僕はやって無い!』
警官が騒ぎに気付き、僕達の方へ来た。
警官に問い詰められたため必死に答えるが焦っているせいか言い訳のように聞こえてしまう。
「もういい!球体!お前は今日贄に捧げられることが決まっている!いっそ今から贄にする!」
『え!ちょっ!待って!まだ…まだ死ぬわけにわ!』
僕は焦り警官に向かって叫ぶ。だが警官は聞く耳持たずという感じで僕を抱えてどこかへ行こうとしていた。
さすがにこのままではまずい!そう思った時ーー
「ちょっと待ったぁ!!!」
『え?』
聞き覚えのある声が、空間に響いた。
まさかと思い僕は顔を上げる。
その拍子に目隠しも取れ、目の前の光景が見えた。
「その球体に手を出さないで!私たちの仲間なの!…もし傷つけるのなら…ラチャの親友である私達第五パーティーが許さないわよ!」
「だぜ!」
「…ん-!」
元気よくピスがそう言った。決めポーズも決めている辺り手が込んでいる。
メルロとアザーもピスの両脇でポーズを決めている。ピスは手をYの字にしている。アザーとメルロは地面に膝立ちし両手を腰に当てている。
「…」
そんな三人から距離を置いてカシアは佇んでいた。
すごく無表情で。
まるで「こいつらと一緒にしないでくれ」と言っているかのように。
ラチャと話していた少女は、ラチャが注目を浴びている隙に逃げられるかもと思っていました。
逃げられたかどうかは次回のお楽しみと言うことで…




