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淡きレテの果て〜世界を駆け巡る忘却少女の冒険譚〜  作者: 雪道 蒼細
2章 レルフィットの街

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19/21

5話 私の心は大雨である

少し早い投稿ですみません。次の投稿は明後日の19時前後です

 「ここ…か?」


 アザーがそう言って辺りを見渡す。

 ーー私たちは街の住民の情報を聞き、警官を尾行してきたのだ。

 神に会う前に騒ぎを起こせば、神が警戒して会えなくなる可能性も考え一応バレないように…だ。

 変装までしたのでバレていないと胸を張って言える(変装準備をしたのはアザーだが…)


 そして尾行した先で警官たちがこの建物へと入ったのだ。

 この建物を例えるなら円形闘技場のような感じだ。地上から入れば地下への空間に繋がる。一番下の階が上の階からでも見れるような吹き抜けになっている。

 このまま下へと直接降りたいが、なにやら一番下の階で人が集まっているためそれはできない。


 (にしてもあの人たち何してるんだろう…)


 私は物陰から下の階を覗く。

 十人の警官が一人の女の周りに立っている。そのうちの一人は女を手錠で繋ぎ押さえつけている。

 女は意識が無いのか抵抗もしない。


 (あの人が贄?なら早く助けた方が‥‥あ)


 精霊を呼び起こそうとした時、新たな男が現れた。身長は二メートル近くあるマントを着た大男で、手には黒い杖を持っている。

 そして女へ近づいていた。

 何をするのだろう。そう思い私は見ていたが…


 「ーーーっ!ね…あれっ」


 私は口元を手で押さえ、アザーの服の裾を引っ張る。

 口で説明すれば良かったのだが、衝撃が強すぎて言葉を発する自信が無かったのだ。


 「…!」


 アザーは私と同じ方向を見て目を見開く。

 私たちの目の前では一人の男が、黒い杖を振り下ろした瞬間に女の肉体が溶け骨だけになったのだ。

 女は意識を失っていたからか悲鳴も上げずただ静かに骨と化していた。


 (あれが贄の末路…!?…でもあれをどうするんだろう…)


 そのまま動かずに私たちは男を見る。

 男は膝を地面につき女の骨に触れた。

  

 「…ぁ…ぇ…っ…」

 「?」


 そして何かを唱えた瞬間女の骨はその場から消えた。

 何が起こったのか分からず、私は身を乗り出して男の手元を凝視した。

 だが可笑しな点はない。魔法かと思ったが言葉を離せる。なら精霊種だろうか。

 どちらにせよ戦わなくてはいけないが。


 (んーでもあの人がフィディスを取り込んだっていう証拠が無きゃ戦えない。手元が見えれば…)


 私は目を細め男の手先を見る。だが遠すぎて爪の色が変色しているかまでは分からない。


 (でもあと少し…あと少しで見れるのに…!)


 私は先程よりも身を乗り出した。


 「んー…え!?うわっ!!」


 その時ぐらりりと足場が揺れる。

 私は落っこちそうになり急いで近くにいたアザーへと手を伸ばす。


 「っ!ピス…あっ…ラチャ!!」

 「きゃっ…!…!ラチャラチャ!!」


 アザーへと手が届いたが、揺れのせいで私は大勢を崩し、頭に乗っていたラチャを落としてしまった。

 急いで拾い上げようと手を伸ばすが、かすめただけで届かず、ラチャは男がいる下の階へと落下してしまった。


 「ラチャ!ラチャ!…!!」

 「まずいピス!建物が形を変えてやがる!一旦離れるぞ!このままじゃ俺らも巻き込まれる!」

 「でもっ…分かったっ…」


 私はアザーに手を引かれるまま走った。


 * * * *

  

 「ねぇメルロ。あなたはいい子だから食事が無くてもいいわよね。今月の生活苦しいの…だから分かってちょうだい?」

 「…ん」


 私は母に微笑み、手で丸を作る。

 そうすれば母は笑った。「お利巧さんね。ありがとう」と言って頭を撫でてくれた。

 嬉しいはずの「ありがとう」がなんだか冷たく聞こえた。

 だけどそれは母もお腹がすいているからだと思った。

 

 (本当はお腹すいてる…でもお母さんもお腹すいてるんだよね。なら私だって我慢できる。もうお姉さんだもの)


 そう言って外へ出て空から舞い降りた雪を口に入れた。

 ラチャは食べない方がいいって言ってたけど、お腹すいてるの。だからこうするしかないの。


 :

 :

 

 「あ!メルロその服私のだって!勝手に着ないでちょうだい」


 姉はそう言って私が手に持っていた服を奪い取った。

 今日はいつもよりも寒い。姉が捨てると言っていた温かい服なら寒さをしのげると思い、ゴミ箱から取り出したのだが、ダメだったらしい。

 

 (言葉を話したくても…話せない。…欲しいって言ってもどう伝えればいいか分かんない…ラチャは分かってくれるけど…)


 「なんなの?邪魔だからどいてちょうだい!」


 姉はそう言って私を押しのけてどこかへ行ってしまった。

 日中は家へいてはいけないルールなので、私は外へ出た。寒さで足と手が震えたがしょうがない。

 その日はラチャを抱いて過ごした。寒かったけど心は温かかった。


 :

 :


 「……あーもう!おめぇがいるせいでイラつくんだよっ!」

 「ん…あっ…」 


 父はそう言って私の頬を平手打ちした後、お腹を足で蹴り飛ばした。

 私は壁へ背中を打ち、お腹を押さえ丸くなる。


 「喋んねぇし、字は読めねぇし…気味が悪いぜ…」


 (でもしょうがないんだよ…呪いのせいだって…ラチャが言ってたもん……)


 だがこの父には分かってもらえない。でもここで逆らったら愛されなくなってしまう。

 「いい子」じゃなきゃみんなから必要とされなくなってしまう。

 そしたらもう愛をくれる人がいなくなってしまう。


 (それは…嫌だ…)


 だから私は「いい子」を続けなきゃ…いけないのに…いけなかったのに…


 

 なんであの時「いい子」じゃない行動しちゃったんだろう


 .。o○.。o○.。o○


 「…ん…あ…」


 ぼんやりと誰かの顔が視界に映る。

 誰だろうか、


 「あ…メルロ。目が覚めたんだな…良かった。体調は大丈夫か?」

 「…ん」


 私は頷き上半身を起こす。

 目をこすると段々視界がはっきりしてきた。

 左斜め前を見れば心配そうにこちらを覗き込むカシアの姿があった。

 

 (…そっか私倒れて…)


 迷惑をかけてしまった。何故かは分からないが倒れる前までは何かに急かされるようにやる気に満ち溢れていたのだ。まるで私ではないかのように。

 

 「アザー、ピス、ラチャは今依頼の調査へ向かっている。俺達も向かう予定だが…メルロ。今回の依頼やめとくか?」

 「…」

 「事情は分からないが、この街に来てからメルロの体調が良くない気がするんだ…無理する必要はない。それにラチャも止めていたしな」


 私はどう返事をするべきか迷い視線をストーブへと落とした。

 正直言って分からない。さっき見た夢…確実にこの街で過ごした記憶のものだろう。

 だが夢を見るたびに、知りたくなかったことまで知れてしまう。それがとても苦しい。


 (…この街での記憶…怖かった。さっきの私も「いい子」の私だったのかな…でも…愛されると思ってて…生きていたのに…きっと本当は…)


 そこまで考え首を横に振る。

 思い出したくなかった。これ以上…前の私の気持ちを知るのが怖かった。けれど…


 (…前の私がどうして愛をそこまで求めてたのかが気になる…どうして愛されたかったんだろう)

 

 「…」

 「なぁ…メルロ…。苦しいのなら俺に話してくれないか?すべてを共有することは難しいだろうが…話してくれたら相談に乗れる。荷物を一緒に背負うことができるんだ…」


 (話す…。べきなの…?)

 

 きっとカシアは私に選択肢を委ねてくれる。私が話したくないと言ったら無理に聞き出そうとする人じゃない。

 だけど背負わせていいのだろうか。こんなこと。


 「…遠慮しないでくれ。俺たちは仲間だろう?一緒に背負えばどうにかなるかもしれない。象だって百人でなら運べるんじゃないか?」

 「…ふ…」


 なぜそこで例えが象なのだろうか。

 思わず私は笑みをこぼす。だがカシアの言う通りだ。一人でなら踏みつぶされる象も百人いればどうにかなるかもしれない。


 私はそう思い手でジェスチャーを始める。彼ならきっと真剣に悩んで荷物を一緒に運んでくれると思ったから。


 * * * *


 「…そうか…前のメルロが…」

 

 私は頷く。

 

 「じゃあメルロは前の自分を知りたいんだな…。こういう時ピスなら似たような状況だから的確な助言ができるんだろうが…。だがメルロ。話してくれてありがとう」

 

 (ありがとう…か…)


 夢の中でも母が「ありがとう」と言っていた。同じありがとうのはずなのに感じ方が違う。母のありがとうは心が苦しくなった。だけどこちらの「ありがとう」は心の重荷がすっと軽くなった。


 「そうだな…俺は同じ状況ではないが、愛されたいという気持ちに陥ったことはある。……俺の母は優しくて、おおらかな人だった…。……だが母は事故を境に記憶が混濁してしまい前の母ではなくなったんだ…。優しい母は消えいつも怒っている母になった…」

 「…」

 「それが悲しくて俺は母に愛されるように努力した…お手伝いをしたり、勉強を頑張ったり…いい子で過ごしてたんだ。…だがそれは無意味だった。結局母が俺を愛することはなかったよ。……ただ一度本物の愛を与えられてるからこそ…それが無性に恋しくなってしまうんだろうな……前のメルロもそうだったんじゃないか?恐らくだが…」


 恋しくなる。その言葉を聞いて私は胸にぐさりと何かが刺さる感覚がした。

 

 (確かにそうかもしれない…でも…私はあの母親に愛を与えられてたってことなのかな…)


 それだけが腑に落ちない。恋しいという思いはあったかもしれないが…母の愛情を貰っていたからこその想いなのだろうか。


 (やっぱり分かんないや…)


 「…メルロ…。なにか気がかりなことがあるなら街を探索するか?ピス達が調査から戻ってくる前までなら時間が……」


 そうカシアが言いかけた時、スマートフォンがピロリリンと鳴った。

 私のかなと思いポケットを探すが私ではなかったようだ。どうやらカシアのらしい。

 カシアはスマートフォンを取り出せば、目を見開いた。

 

 (何かあったのかな…?)


 「…ラチャ…ラチャが…敵に捕らわれたかもしれないって…」


 カシアがスマートフォンを握りしめながらそう言った。


 「えっ…」

 


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