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淡きレテの果て〜世界を駆け巡る忘却少女の冒険譚〜  作者: 雪道 蒼細
2章 レルフィットの街

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18/22

4話 さぁ殴り込みに行こう!いや待って?

次の投稿は明後日の19時過ぎになります。(変更するかもしれません)

 青年の後を追い、俺たち(俺とメルロ)は休憩所へと来ていた。

 休憩所には暖炉と長椅子があったため、メルロを長椅子へと横たわらせ俺も近くの椅子へと腰を下ろした。


  「…。取り合えずメルロを休ませることができて良かった…。ありがとうございました」


 俺は休憩所へ案内してくれた青年に対して頭を下げる。

 お金はアザーに預けているため渡せる対価もない。なのでせめて誠心誠意の感謝をと思ったのだ。


 「あ、頭を上げたください!たまたま見かけただけだったので…」


 青年は焦り、そう言った。

 だが「たまたま見かけただけ」で助けてくれるのは良い人ということだろう。現に街の住民は助けてはくれなかった。

 このまま休憩所の場所を知らずに彷徨っていたら、メルロは風邪をひいていたかもしれない。


 「いや。それでも助かったのは事実です。外は寒いですから…」


 俺はそう言って、休憩所の外を見る。雪は降っていないが、息を吐くと白くなるし指先も頬も熟れた果実のように赤らんでいた。

 そんな中でメルロを休ませることなどできない。なので休憩所に案内してもらえて本当に助かったのだ。


 「…そうっすね…。そう言えばさっきの金髪の青年は置いてきて良かったんすか?」

 「はい。他にも仲間がいるので」

 「そうでしたか…」

 「……あの」

 

 俺は言葉をそのまま発しようとしたが、口を噤む。

 聞いていいことか分からなかったのだ。


 (だが…やはり少し気になる…)


 先程アザーが助けてくれた青年に対して「覚えていますか」と言ったことについて。

 以前からアザーは生き別れた兄がいると言っていた。義理とは言ってたが、両親も亡くなっているため家族と呼べる人はその兄だけだったらしい。

 なのでアザーが「覚えていますか」と聞くということはその兄かもしれない、ということになるのだが…。


 「なんだよお兄さん急に黙っちゃって…聞きたいことがあるならどうぞ?もう会うこともないだろうから今しかチャンス無いと思いますけど」


 あっけらかんとした態度で青年は言った。

 初対面の相手に対してここまで込み入った話をするのは気が引けるが、チャンスを逃すわけにはいけない。

 俺は深呼吸した後、青年の目を見て口を開いた。


 「…では…。先程アザーがあなたに対して「覚えていますか」と問うていましたが…何か関係があるのでしょうか?」

 「…」


 青年は少し驚いたように目を丸くした後、決まづそうな顔をして俺から視線を逸らした。

 だが、その態度は図星と言うより何と言おうか迷っている態度に見えた。

 

 「あーその話…ね…。うーん。ちょっと分からないんだよね。珍しいと思われるかもしれないけど俺竜種でさ、昔の記憶を保持できないから…だからあの子が言ってること本当か嘘かも…あ。敬語はずれてましたね。すみません」


 (…竜種…)


 俺はその”竜種”という言葉にやや驚いたと同時に落胆した。

 この人はアザーの兄ではないのだろう。兄は同じ天種なのだとアザーは言っていた。

 竜種という時点で同一人物である可能性は低い。


 「いえ。…その前に本当に珍しいですね。竜種って…」

 「あぁ。そうですね。俺も自分以外の竜種とはあまり会ったことが無くて…」

 

 竜種は珍しい。個体数も少なく目撃件数何て近年は滅多にない。

 だが竜種は国一つ滅ぼせる力がある故に敬遠や畏怖されることが多いため竜種という種族を隠して生きることも多くないと言われる。


 (ーーあ。そうだ。隠すことだって多い。…アザーと兄も隠していたら…)


 「あのーー」


 俺は青年に声を掛けるが…


 「あ。じゃあもう行きますね。そろそろ帰らなくては」

 

 青年はそう言って、休憩所の椅子から立ち上がった。手には果実や肉などが入った袋を抱えている。

 本当はもう少し話を聞きたがったが、これ以上引き留めるのも申し訳ない。

 俺は再度礼を言い、青年と別れた。


 (…アザーの兄だったかもしれない人…また…どこかで会えたらな…)


 * * * *


 「まさかツァイトが別任務になるとは…それにメルロも倒れちゃうし…」


 私は盛大なため息をついてラチャを抱きしめる。

 モチモチとした感触が地味に気持ちよく心を落ち着かせる。


 「…ちょっと休めば大丈夫だっで。俺たちは情報収集しようぜ」

 『…ん』

 

 なにやら元気の無さそうな声でそう言った。


 (ラチャは分かるけど、なんでアザーも元気ないんだろう‥なんかあったのかな?)


 尋ねてもいいが、何やら触れてほしくなさそうな雰囲気だったのであえて私はスルーして依頼について考える。

 依頼通りなら、人を贄に…(略)ということだが、ただの情報集めでは依頼解決にはならないだろう。

 

 「んー。まず神って奴に接触しなくちゃいけないんだよねー。どうする殴り込みにでも行く?」

 「いやっ。さすがにそれは…。あー…ん?別にそれもいいのか…」

 「お!そうだよねー!フィディスを取り込んでるかもしれないんだから殴り込みに行ってもいいよね!」

 

 私は意外と乗り気なアザーにそう言った。

 フィディスを取り込んでいるならどうせ戦闘になるのだ。ならいっそ神を探して戦いに行った方がいいに決まっている。いや戦いに行くべきだろう!


 (それにメルロもいつもと違うし…色々と思い出す前に解決しちゃった方がいいよね…)


 私は視線をラチャに向ける。

 相変わらずどこか浮かない表情をしていた。

 メルロが心配でたまらないのだろう。本当はメルロの傍へラチャを置いて行くつもりだったが、また言い争うになりそうだったのでメルロとラチャを離したのだ。

 

 依頼中の仲間割れは良いことない。戦闘中にまで影響したら命に関わるかもしれない。

 ーーーとアザーが言っていた。


 「ふー。じゃっさっそく神を探しにいっくぞー!」


 変に考えるより、元凶を潰す!そう思い私は声を上げる。


 「あの!」


 気合を入れるため拳を真上に突き上げた時、誰かから話しかけられた。

 周りを見れば、一人の黒髪の男性がこちらへと走ってやってきた。


 「ん?なんですか?」

 「あのっ。旅のお方ですよね…娘を!娘を助けてください!!」


 男はそう言って私の腕を強く掴んできた。


 「痛っ」

 

 痛さのあまり私は顔をしかめる。ラチャとアザーが男に対し「止めろ」と呼びかけるが届いてないようだった。


 (なんだかカシア達を追いかけたメルロに似てる…)


 「お願いします。娘が…娘が贄に…。五年前に妻が贄になり…次は娘が…。これ以上失ったら俺は生きていけません。頼みます。娘を助けてくださいっ!!」

 「分かりましたから…!一旦離してもらえませんか!?」

 「あ。…すみません…」


 私が大声で叫べば、男は我に返り手を離してくれた。

 髪もボサボサで、髭は剃られていない。目元に隈があり、顔色も青白い。とても健康とは言い難かった。

 男の瞳には生気が宿ってるのかすら怪しかった。

 

 「…娘さんですね。特徴を教えていただけませんか?」

 

 特徴を知れば、神の所へ殴り込みに行った際に見つけられるかもしれない。

 懐からメモ用紙とペンを取り出し、情報を書く準備をした。そして男が口を開くーーが


 『特徴は茶髪で、赤いリボンで髪を二つに結っている。瞳は黒で、顔はこの男に似ている」

 「え?」


 男の声を遮るようにラチャは声を発した。

 何故ラチャが知っているのだろうか。

 男も口を開け、驚いた表情でラチャを見ている。


 「…えっと…今その生物が話した特徴の通りです。娘を…どうか…どう…か…」

 「あ。…はい…」


 腑に落ちないような顔をしていたが、娘が助かる目途が立ち安心したのか男は覚束ない足取りで、どこかへ去っていった。

 その際もずっと「どうか。どうか」と独り言のように呟いていた。

 

 :

 :


 「えっと…あのさラチャ。なんであの男の娘の情報知ってたの?」

 

 気になるので一応聞く。前にも面識があったのだろうか。

 

 「…。…あの男の…」

 「んだよ…。ちゃんとハッキリ言えって」


 ラチャは消えそうな声でそう言った。だが、後半部分が小さな声で聞こえなかった。アザーも同じだったのか、腕を組みラチャに尋ねる。


 「…あの男の下でメルロが育ったからだよ…。あいつがメルロの親だ…」

 「は!?」

 「えっ?で、でも魔法使いじゃ…あ」


 そうだ。夢の内容では知らない女の人から冷たく突き放されたとのことだった。

 記憶上の親とは違うと言っていたから、義理の親なのだろう。


 『…メルロは人間に拾われて五年間育てられたんだ。暴力を振るわれてな…』

 「…」


 その事実に私は何と声を掛ければいいか分からなかった。

 私は唾をゆっくりと飲み込む。

 そしてラチャの手をぎゅっと強く握った。声はかけられなかったがせめて手を握るくらいはしたかったのだ。

 手を握ってもらえば、落ち着くから…。


 『魔法使いだから元々良く思われてなかったんだよ…。食事抜きなんて当たり前で…だけどメルロはそれでもあんな人間のことずっと慕ってて…実の娘の贄の代わりなんて知らずに育てられてたくせに…』


 ラチャはそう言った後黙ってしまった。

 だが小さな手で拳を握っている。後悔しているのだろうか。その時のことを。

 メルロを第一に考えるラチャならそんな状況を見捨てないと思うのだ。なのに助けられなかったということはそれほどの事情があったのか。

 それともメルロから何か言われていたのか。


 (…でもそっか…だからメルロ手があんな細かったのかな…服が薄くても居られるのかな)


 カシアから聞いた話だが、習慣というモノは怖いらしい。

 正しくないモノだったとしても、習慣化してしまえば止められない。そしていつか自分の一部になってしまうと言っていた。


 (メルロ…。そりゃラチャも思い出させたくないよね。この街の生活のこと…)


 私は零れてきそうな涙を我慢した。

 ここで泣いたら、ずっと泣いてしまう気がした。だから我慢しなくちゃいけないのに…いけないのに…。


 「「「‥‥」」」


 誰も何も話さず、ゆっくりと時間が流れていく。

 風に運ばれてくる土の匂い。肌を刺す冷たい風の音。小さく鳴く鳥の声。いつもは気にしない音が大きく聞こえた。

 そんな中沈黙を破ったのはアザーだった。


 「……どうするんだ。……今の娘助けるのやめるか?」

 『……いや…助けなかったら……あいつ…泣く……』

 「ん…そっか…」


 メルロは優しい。きっとどんな人でも慈悲をかけるのだろう。

 いや。もしかしたらそうではないのかもしれない。

 

 どうしたら愛されるのか分からないから…優しくするのかもしれない。


 (…どうしたら…いいんだろう…)


 この話を聞いて私にできることはないのだろうか。

 このまま胸を痛ませるだけなのだろうか。…巡る思考は答えにたどり着かない。


 (分からない…分からないけど…メルロと一緒にラチャも傷ついてる気がする…)


 メルロを想うばかりに傷つくラチャをどうにかして救いたい。

 心の重荷を一緒に…背負いたいのだ。

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