3話 黒薔薇のような街
明日は19時少し後の投稿予定です
この前と同じく転移陣で転移し私たちは依頼の地へとやって来た。
転移した先にあったのは辺り一面に広がる黒薔薇の花畑だった。
どの花弁も漆黒の闇のような色をしており、今にも奈落へと引きずり込まれそうだ。朝露で花弁が濡れ輝いているが、それすらも魔王の流した涙の様に見えた。
そのせいか冷たく肌に刺さるただの風も不穏に感じる。前の街では暖かな優しい風だったが、今回はその真逆だ___拒絶を含んだ様な…冷たく鋭い風。
「ここが依頼の街…なんか…怖そう」
「そうだな。だが行くしかない。依頼の街はあの先だ。進もう」
カシアが応じ、歩き出そうとしたとき鋭い制止の声が響いた。
『待って!…待ってくれ!!』
声を上げたのはメルロの頭の上にいるラチャだった。
『依頼の街ってここなんだよな…なら…メルロはこの依頼のメンバーから抜いてくれ。理由は言えないが頼む!…頼む…』
ラチャは真剣な表情は我がままや冗談などでは済ませられなかった。その様子にメルロ以外の三人は息をのむ。
だがメルロはラチャを頭から降ろし、首を横に振った。
ラチャは目を丸くしながらも、必死に主張を続ける。
いつもはラチャの言葉を真摯に受け止めるメルロだったが今日は違った。何か…決意をしたような目でラチャを見ていた。
『私はどうしてもこの街へ行きたい?…っダメだ!この街だけは…ダメなんだ』
メルロは行きたいと主張するが、ラチャは悲痛の声でそう言う。
本当にこの街へメルロを行かせることができないそう思っているような声だ。
(…この街とメルロ…やっぱり何か関係してるんだ…だけど…ラチャがこんだけ止めるってことはメルロが壊れてしまうほどの何かがこの街にはあるってこと…?)
メルロは真実を知りたがっていた。だがそれをラチャは止めたがっている。真実を知りたがるメルロ。だが自分をも壊す思いをしてまで思い出したいことなのだろうか。
フィディスと似ている。願いは叶うけど結局身を滅ぼす。メルロも思い出したがってるけど自分の壊すかもしれない。
(…なら私は…ラチャの意見に賛成だ。今のメルロを壊したくない‥‥!いつも笑ってるメルロのままがいいっ!)
私もメルロを説得しよう。そう思った時だった。
「嫌あぁぁぁ!!っ!放して!お願いっ!お願い!!」
「「「‥‥!」」」
街の中から悲鳴じみた女の人の声が聞こえた。
「助けて助けて」と何度も言っている。
(魔物!?…だけど一人の声しか聞こえない…どういう状況…あ)
考え事をしていると、すでにアザーとカシアは悲鳴の聞こえた方へ走り出していた。
そこへゆっくりながらもメルロが追いかける。
『待てよ!メルロ!!』
ラチャが大声で叫ぶがメルロは振り返らない。
その様子に私は疑問を感じた。
(…メルロ…ラチャの声がまるで届いていないみたい…)
まるで何かにとりつかれているようである。なんとなくメルロなら、ラチャのことを気にしながら走っていく気がしたのだ。例え意見が割れていたとしても。…メルロは友人をとても大切にしているように見えたのだ。
「…」
私はラチャを抱えてゆっくりと歩き出す。
(なんだか嫌な予感がする…この街へ入りたくない…だけど入るしかない…)
私は胸のざわめきが抑えられなかった。
私の背後では黒い薔薇から朝露が一滴零れ落ちた。
* * * *
(…なんだろ…街に来てから思考がぼんやりしてる気がする。…何か私じゃない私になっているような…ううん。これが元の私なのかも!思い出してきてるってことだよね、きっと…)
私は胸に拳を当て力強く握る。
その拳は少しだけ震えていた。きっと体が覚えているのだ。私が知らない何かを。
(なら…それを突き止めなきゃ…あ。…さっきの悲鳴が近づいてきた…あれかな)
前を見れば、言い争っている人の姿が見えた。
警官のような人が、若い女性の腕を握っている。
その横で若い男が警官に向かって何か吠えていた。
「止めてくださいっ!妻は今日が誕生日なんです…だからせめて後一日待ってください。それか俺を代わりに捧げてください!!」
男は地面に額をこすりつけ、警官に向かって叫ぶ。
「そんなことは関係ない。贄の変更はあったが、神に使われる命だ。光栄に思うべきだろう。ほら行くぞ」
男は冷たい声で言い放ち、女を引っ張った。
女は泣きじゃくって抵抗するが、力叶わず引きずられていく。
周りの人もその光景を見ているが、日常ごとなのか一瞬目を向けたと思ったら数秒後には目を背けていた。
まるで「自分じゃなくて良かった」とでも言うように。
「やめろっ!女性に手荒な真似をするな!」
そこへアザーが割り込み警官の腕を力強く握りしめた。
警官は怪訝そうな顔をしながらカシアを見た。その目は無知なものを嘲笑うような目をしていた。
「ーーお前は?」
「旅の者だ」
アザーが女性を落ち着かせているため、代わりにカシアが答えた。
「なら関係ないだろう。これは命令なんだ。旅の者、知らないなら教えておこう。ここでは神の言うことが絶対だ。背こうものなら罰は避けられない」
(あ…れ…?)
『神の言うことが絶対』その言葉を聞いた瞬間。鼓動が急に早くなる。
だんだんと呼吸することもつらくなり、視界がぐにゃりと歪む。
「はあつ…はっ…はあ…っ…」
私は地面へとうずくまる。
胸がざわざわとしていて気持ち悪い。
「…ロ!?…ルロ!!」
誰かが名前を呼んでいる。あれは…
「…お…か…あ‥‥さん?」
私はそこで意識は黒薔薇と同じ深い闇へと放り込まれた。
* * * *
「はぁー結局出ることになるとは思わなかった…」
俺はため息をつきながら、人ごみの中を歩いていく。
ずっとアジトで過ごそうと決めていたのだが、食料が無かったのだ。リン達だっていつ帰るか分からない。
さすがに今日中には帰るだろうが、そこまで何も食べないのはさすがにキツイ。
そのため俺は比較的アジトから近いレルフィットの街へと足を運び食料調達をしていたのだ。
(この街、かなり排他的で習わしが怖いから近づいてはいなかったけど…意外と普通の街なのか?こうやって食料も買えたし…)
所詮噂は噂だなと思いながら、呑気に空を見上げていたその時だった。
「嫌あぁぁぁ!!っ!放して!お願いっ!お願い!!」
「!?」
女性の叫び声が聞こえた。
この場所からさほど離れていない。
走れば間に合うと思い俺は人ごみをかき分けて走る。
(…だが悲鳴を聞いてもこの街の人はなんでこんな平然としているんだ…?やっぱり習わしだからか…?)
全言撤廃。やはりこの街の住民は根っからヤバいしいかれてやがる。
人の悲鳴を生活音と同じように扱ってる時点で尋常じゃない。
普通の街へ買い物しに行けば良かったと心の中で後悔した。
;
:
「……あ。あそこか」
人ごみをかき分ければ、言い争いをしている現場を見つけた。
だがもうそこには他の人が止めに入っていた。
(なんだ…俺の助けはいら‥ん?)
帰るかと思ったが、仲介に入っているのは夜鳩の人ではないだろうか。
「やばっ‥依頼か?なんで行き先被るんだよ…」
やはり今日はついていない。
見捨てようか‥その言葉が頭によぎるが俺は首を横に振り消し去る。
「あ…あの嬢ちゃん大丈夫か?倒れて‥っ!?あーもうっ!!」
人を見捨てていい理由にはならない。子供なら尚更だ。どうにでもなれ。どうせ今日は仮面をしていないしなと思い、俺は夜鳩の人たちに駆け寄った。
「あの大丈夫っすか?休憩所がこっちにあります。ついてきてください」
「え?あなたは…え」
呼びかければ、金髪の青年が俺を見て動きを止めた。
まさか陽虎だってバレたかと思いたじろぐが、青年の瞳に宿っていたのは敵対心ではなく、驚き‥困惑のような感情だった。
「あの…俺のこと…覚えて…いますか?」
今にも消えそうな声で青年は俺に問うた。だが俺は彼を知らない。
仮面を外した俺のことならば、「夜鳩」と「陽虎」以外のことだろが。なんだろうか。
記憶を遡ろうとしたがすぐに止めた。無意味な行動だと思ったからだ。竜種は一年間の記憶しか保持できない。すぐに出てこない時点で忘れている記憶なのだ。
一年前の記憶はすでに陽虎に所属していたころだ。日記にもそれ以前のことは書いていなかった。
(それとも俺自身が忘れたかったことなのか…?…いや。その前にこの嬢ちゃんだよな)
「こっちっす」
俺はぶっきらぼうに言って指をさし歩き出す。先程の青年の疑問を頭の片隅に押し込めながら。




