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淡きレテの果て〜世界を駆け巡る忘却少女の冒険譚〜  作者: 雪道 蒼細
間話

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13/20

間話 メルロの過去は人見知り?

明日の投稿は昼の12時半前後予定です。間話もう一話挟んで二章になります。(二章に入る前に11話の改稿入ります)

 ーーこれはピスが記憶喪失になる前の話である



 (…ひゃっ…うぅ…)


 私は服の裾を掴み、俯きながら「夜鳩」の管理棟を歩いていた。

 視線を上げれば、すれ違うのは自分よりも背丈が高い大人ばかり。大人と目が合うと何故か恐怖心から体が動かなくなるので、私はずっと視線を下にしていた。


 『メルロー。そんな怖がらなくても大丈夫だって』

 「…」


 腕に抱いているラチャがそう言うが怖いモノは怖い。

 私はラチャを抱きしめる力を強くし、歩く速度を速めた。


 (そもそも。なんでこんな大柄な男ばっかりの職場なの!??女性だっているにはいたけどみんな背丈高いし怖そうだったし…。そもそもなんでこんな会社に…)


 ーー私が何故「夜鳩」で働くことになったのかはよく覚えていない。

 入社前の五年間の記憶が全くないのだ。ただ何かがなくなった喪失感だけがあった。

 そして気づいたらラチャがここなら私にとって安全だと言ったので入社することになった気がする。

 

 (入社前の二年間のことラチャに聞いても答えてくれなかったんだよね…。ラチャは記憶の魔物。記憶を読むくらい簡単なはずなのに…)


 「…」


 まあどんなに聞いてもラチャは答えてくれないと思うので、私は聞くのを止めたのだが。


 『お!着いたなメルロ。ピスっていう職員探してこの報告書渡すんだろ?』

 「…ん」


 考え事をしているうちに。

 目的の場所へ着いた。札を見れば「A室」と書いてある。

 ここは主に事務作業を行う職員たちが集まる場所だ。「夜鳩」の依頼を片付けた現場班は必ず報告書を作成しこのA室へ届けなければいけない。

 期限は依頼完了日から三日以内なので、まぁまぁ急いで書かなければいけないのだ。

 

 (私の所属してる第五パーティー…私以外みんな男だしなんとなく壁感じるし…だけど報告書誰書きます?なんて絶対に声かけられないしぃ…)


 そう言うわけなので報告書を作成するのは基本自分なのだ。帰ってきたその日に書いてその日に提出する。最近では習慣になってしまった。


 (…今までカシアさんが書いてたみたいだけど、カシアさん忙しそうだし…。この前「俺が書くからメルロは休んでろ」って言ってたけど何か要求されそうで怖くて断っちゃったんだよね…)


 一回も笑っている姿を見ないのでもう怖いのだ。何考えているかが分からない。

 

 (…はぁー。第五パーティー担当のピスさんとカシアさんは同期らしいけど二人ともなんか怖いんだよねぇ…あ。ピスさん呼ばなきゃ。ずっとここにいちゃ迷惑だよね)


 これから人に会うという事実が憂鬱すぎて本来の目的を忘れていた。

 私は深呼吸をし、ラチャを頭にのせる。


 (大丈夫。大丈夫。いつもみたいに渡して全力ダッシュで帰るのみ!)


 そう意気込み私はA室のドアをノックした。

 

 『…あ。そうか僕が呼ぶのか。…えー。第五パーティー担当のピスさーん。報告書のお届けだ!』

 「あ。はい」


 ラチャが大声で呼べば銀髪を一つ結びにし、黒色の眼鏡を掛けた女性がやってくる。ピスだ。

 私の目の前まで来るとピスはじっと私に視線を送ってきた。

 その視線が怖くて私は固まってしまった。

 

 『ほらピス渡せよ』


 そんな私に見かねたのかラチャがそう言った。


 (わ、分かってる。渡さなきゃいけないって分かってる…。だけど…)


 手足が震えて渡すことができない。

 いつもはこんなことないのに、今日に限って何故怖くなったのだろう。


 (…あ。きっと昔を思い出そうとしたせいだ。…そうだ。いつも昔を思い出そうとするとその後手足が震えて恐怖心に襲われる)


 私のバカ。なんですぐ後に人と会うときに昔のことを考えるんだと自分を叱咤し、震える手足を止めようと深呼吸を繰り返す。


 (大丈夫。…これを…渡すだけ)


 私はやっと動いた手で報告書をピスに押し付けた。

 そして走り去ってこの場から逃げようと足を動かすが‥

 

 「…ん…っ!!」


 どてーんと言う音が似合いそうな勢いで私はド派手に転んだ。


 『メルロ!?』

 「メルロさん!?」


 ラチャとピスが同時に叫ぶ。


 (…っどうしよう。痛い…えっと…えっと…)


 頭がパニックになり、次の行動ができない。

 呼吸が段々と早くなる。

 まず立つべきなのか、呼吸を整えるべきか分からず私はその場で固まる。

 ラチャが何かを言っているが耳に入ってこない。

 どうしよう…そう思った時だった。


 「…ん…?…あ‥‥」


 ピスが私を抱きしめた。

 冷たくて誰とも関わりたがらない不気味な女性と称されていたピスが私を抱きしめているのだ。

 私は驚いて目を丸くする。

 

 (…あったたかい…そうだ。お母さんがこんな感じだった。顔も思い出せないけど、私が怖いって言ったらいつも抱きしめてくれてた……温かいなぁ)


 いつのまにか震えも収まり私はピスを抱きしめ返していた。


 「あ…う…う」


 言葉には出来ないがもう大丈夫と言うことをアピールするためにピスと距離を取った。

 なんとかしてお礼を言いたくてラチャにジェスチャーをした。


 『ん?あぁ。ピスさん!もう大丈夫です!ありがとうございました。胸がポカポカーって温かくなりました』

 「…そう?…良かったわ。…その…疲れてたりしてるのなら私の部屋を訪ねてきなさい。飴ちゃんと紅茶を用意してあげる」

 

 そう言っていつもは笑わないピスが微笑んだ。


 (…あ。ピスさんってこんな風に笑うんだ…。…なんだか…思ってたのと違う…)


 『えっと。はい!じゃ、そのまた!』

 「えぇ。また。今度は転ばないでね」


 そう言って手を振ってくれた。

 

 

 ーーーこの日からだ。

 ピスさんとの関係が深まったのは。任務が終わった後などは必ずと言っていいほど夜ピスの部屋へ訪ねるようになっていた。「夜鳩」職員は基本的に管理棟内にある寮で生活しているので、行き来するのは遠くなかった。

  現地班のみ帰宅が深夜になる可能性があるので管理棟付近にある戸建ての家でルームシェアなのだが、それを含めてもピスの部屋へ行くのは徒歩五分圏内だったので問題は無かった。


 ピスと交流するようになってからは、ピスの同期のカシアとも少し話すようになったし、それを機に第五パーティーの仲間である他二人とも話すようになった。


 大人が怖いのは変わらなかったが、前を向いて廊下を歩けるようにもなった。目線を合わせることもできるようになった。


 ピスのおかげでできることが増えたのだ。

 

 だからピスが困っていたら全力でサポートする。そう思っていたそんな矢先。


 ピスが記憶喪失になった。


 (…え。ピスさん…が…記憶…喪失…今までの記憶が‥全部無くなって…?)


 私はその話を聞いた時床へへたり込んだ。

 だって記憶が無いということは今までの思い出がすべて消えてしまったということなのではないだろうか。

  

 (…それは…ピスさん…なの?記憶が…いや。ピスさんはピスさん。それに…ピスさんじゃなくなったとしても今度は私がピスさんを…助ける番)


 そうだ。例え私の知るピスさんじゃなくなったとしたって。ピスはピスなのだ。

 だから今までピスさんから貰った想いも全て…今度は私がピスさんに届ける番なんだ。


 (よしっ。じゃあまずはピスさんとお話ししなくちゃ!一緒にお茶して飴なめて…楽しいことをたくさんする!)


 これからやることがたくさんある。

 もしかしたらピスさんの記憶が一生戻らないかもしれない。だけどそれでも…私はピスさんの傍にいるから。

 ずっといる。私が独りぼっちにならないようにピスさんがずっと傍にいてくれたように…。

 

 (だから‥‥恩返しをさせて。ピスさん‥‥)


 


 

 メルロが「私もラチャに頼ってばっかじゃいられない!』とラチャに言ったので資料を渡すときなどは一切手伝いませんでした。ラチャも過保護だけどメルロの成長を見守ろうともしています。

 

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