11話 スポットライトは当たらない
明日の投稿は二十時前後です。
メルロは涙を拭い、ピネルを見て必死にジェスチャーを始めた。
ラチャがメルロの言葉を伝えようとしたが、メルロが首を横に振る。どうやら自分で伝えたいらしい。魔犬_サザの言葉を。
「…?サザが私に話した…言った?私が…泣く?涙?あ。悲しむの…やめて…ほしいって…?」
途切れ途切れだがメルロのジェスチャーをピネルは言葉にする。魔法使いの友人だからこそ伝わると思ったのだろう自分のジェスチャーが。
「でも…でも。私サザが死んだときなんにもできなかったよ。サザが死んだあと。サザは悪くないって言っても誰も…人間の大人は信じてくれなくて…私。私…」
ピネルは嗚咽を繰り返しながら言葉を紡ぐ。
大粒の涙を流してサザの手を握りしめていた。
「ごめんねサザ。サザの手を汚させてごめん。ごめ…ごめんっごめん…なさいっ!!…サザっ」
「グルッ…」
返事かは分からないがサザは鳴いた。
その様子を私達は静かに見守る。
そんな中メルロはゆっくりとピネルに近づきまたジェスチャーを始めた。今度はラチャが代弁をして。
『ピネルさん。この世界は…公平じゃないです。不公平なことばっかです。でもそれは大人の都合で、子供はそれに振り回される。けどあなたの行動で世界は少しだけ変わるかもしれない。それでも変わらないと思ったら他人を頼ってください。あなたは決して一人ではないはずです』
「え」
そう言ってメルロが指を指した所には杖を持った魔法使いたちがいた。
「あ…魔法使いの…」
ポツリとピネルが呟く。
そう。魔法使いの人達はずっとピネルのことを想っていたのだ。同じ痛みを抱えながら。
(魔犬が暴れた時に人間たちの避難誘導や救助活動したのは魔法使いたちだったみたいだし…)
『みなさんピネルさんが心配だったんですよ。ピネルさんが魔法使いを想う分、彼らだってピネルさんを想ってたんですよ?だからもっと頼ってください。種族の壁を越えて信頼してください。あなたが…この街の人間と魔法使いの架け橋になってくれることを信じています』
「あっ…。っ…みんなも迷惑かけてごめんなさい。勝手なことしてごめんなさい」
止まったはずの涙がピネルの目からまたこぼれ落ちていく。
それを必死にピネルは拭う。
『あ…あとピネルさん。サザさんの言葉…まだ一つ伝え忘れていました。…ピネル。笑って?…だそうです』
その言葉を聞いてピネルは目を見開いた。
「‥‥っ…。…分かったよ。サザ。私笑う。笑うから…でも今だけは。今日だけは許してよ。泣かせてサザ」
そう言ってピネルはサザを抱きしめワンワン泣いた。
ピネルの涙が枯れ果てるまで。
* * * *
それから約三〇分が経過した頃。「もう大丈夫」と言ったピネルの顔は覚悟を決めた顔だった。
「別れはもういいのか?もう二度と会えないぞ?」とカシアが問うも「もういいの。これ以上一緒にいると笑えなくなるから」と言っていた。
その答えにカシアは頷き、フィディスを吐き出させるための正方形の紙を魔犬サザのお腹に貼り付けた。
「すまない」
そうカシアが呟く。
その直後、正方形の紙が輝いた。眩い光に包まれ魔犬サザの肉体が段々と薄れていった。
その場に残ったのはボロボロの骨と淡い緑色に輝く宝石だった。
(あの緑色の宝石がフィディス…なんだよね。綺麗だな…危険とは思えない)
そう思うほどにフィディスは綺麗だった。
「バイバイ。サザ」
そうピネルは言って笑った。
今度はもう泣かなかった。
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その後ピネルからフィディスの入手経路についてカシアが聞いていたが…
「フードを被った人に貰った。これを使えばお前の願いは何でも叶うって。その時に「夜鳩」についてとか色々聞いた」
と言っていた。カシアはもっと詳しく情報を聞きたかったらしいが、ピネル自身もあまりよく覚えていないらしかった。
「三人組だったか?」と問うも「思い出せない」とのことだった。
もしかしたら陽狼は三人組なのかもしれない。
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私たちは街の復興作業人員を送る契約だけして、その日のうちに帰路につくこととなった。
カシアが持つ青い笛を吹けば、「夜鳩」の事務員が迎えに来てくれるらしい。
正直言って有り難かった。私は自力で歩くことは不可能だし、メルロだって自力で歩くことはできるが長距離は歩けない。
カシアも見た目元気そうだが意外とボロボロらしかった。
「…じゃあ。ラチャ。いつもの頼む」
馬車を待っている間カシアがラチャにそう言った。
ラチャは「おーよ!」と元気のいい返事をし、カシアの頭によじ登る。だが重かったのかカシアの頭から降ろされ腕の中に収まっていた。
ラチャは不満そうだったが「終わったら乗せてやる」と言われ、上機嫌になっていた。
(…ラチャって頭のてっぺんが好きなのかな…?)
よく分からない好みである。
『んじゃ行くぜー記憶ーー』
そう言ってラチャが詠唱をする。なんのために魔法を使うのだろうと考えていると、街全体に雪が降った。
そんな雪が降るのを見て街の子供たちは笑い声を出して喜んでいた。
だが何故急にと思いラチャに問う。
『あー。こうやってフィディスを回収したら俺達のことを一般人の記憶から消すんだよ』
「えっ!?なん。なんで?」
「…俺たちはあくまでも夜に…陰で動く組織だ。表舞台でスポットライトを浴びるわけにはいかないんだ」
カシアはそう言って雪が降る街を見た。その横顔は少しだけ寂しそうに見えた。
カシアの視線の先には雪にはしゃぐ子供達がいた。
ーーもう彼らの記憶には私たちがいないのだ。
いつもこうやって関わった人たちの記憶から自分たちを消していたのだろうか。
(せっかく人のために活動してるのに…あ。でも。…知らない方がいいのかな。知らなくていいことは知らなくていい。知らないまま生きていく方が幸せになれる。だからなのかな…)
そうやって「夜鳩」の人達は活動しているのだ。
世界の陰で誰にも知られずに世界の平和を守る。
(私も…夜鳩の一員なんだから…ちゃんと覚悟を決めなきゃ…)
私は季節外れの雪が降る街を見つめていた。
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ガタゴト
音を立てて馬車はゆっくりと進む。
揺れる馬車に身を任せて私はぼーっと座っていた。
目の前に座っているメルロとラチャは疲れたのかぐっすりと眠っている。
私の右隣に座るカシアは馬車から見える外の景色を見ていた。
そんなカシアに私は声をかける。
「…ねぇカシア。あのさ…」
「ん?」
「えっと…」
特に話す言葉を決めていなかったので言葉に詰まる。
何か話題が無いかと記憶を漁ったとき、ふと疑問に思っていたことを思い出す。
「ねぇ。そー言えばさ。あんた戦闘中でも天使の姿にならなかったけど全力じゃなかったの?」
「…いや。全力だったさ」
「…?そう」
「…」
また馬車に沈黙が流れる。
夜鳩の本部に着くまでこのままかなと思っていたが、沈黙を破ったのはカシアだった。
「ピス…」
「何?」
「俺。もっとピスのことが知りたい。…怪我が治ったらピスの好きなものを探しに行こう。…ピスの嫌いなものや、面白いと思ったこと‥‥ちゃんと知りたいんだ」
カシアがそう言った。
その言葉は過去の記憶が無い私にとてもとても…嬉しいことだった。
「うんっ!いいよっ!もしかしたら一日中付き合ってもらうかも!」
「…何時間でも何日でも…付き合うよ」
そうカシアは微笑んで言った。
私たちの旅はまだ始まったばかりなのだ。
* * * *
北の地_ビアン_上空にて
「…もう追って来ていないようです」
黒髪の男が告げる。
「そう。…じゃあアジトに帰りましょうか」
菫色の髪をした女がそう言った。
「…あ。ねぇリンさん。私ここの城下町のチーズケーキ食べたい」
茶髪の少女が目を輝かせながら、足元にある城下町を指さした。
「いや。疲れてるからまたこんーー」
「いいわよ。じゃあマチスは先にアジトに帰っててもいいけど」
「いえっ!俺も行きます」
「…そうこなくちゃ」
ダージリンはそう言ってクレマチスの左手を引っ張った。
ラチアもそれに合わせるようにぎゅっとダージリンの右手を握りしめる。
夜空に浮かんでいたはずの三人組は瞬く間に夜空から消えたのだった。
あとに残るのは星が輝く夜空だけ。
「ホッホッホ」と鳴く梟の声が静かな夜空に響いた。
To be continued
一章完結です。間話を挟んで二章になります。
二章は陽虎の三人組が登場します。お楽しみに!
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