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番外編:二度目の同じ朝

おはようございます、こんにちは、こんばんは


今回の番外編は、バルザックが逆行して目覚めた日の話になります。

よろしくお願いいたします。

 これはアイリスが目覚める少し前の話である。


 バルザックが眠りから目を覚ました。何故こんなに温かい布団で寝ているのか分からなかった。手のひらを眺めてみても、一向に答えにはたどり着かない。しかし大事なことを忘れている喪失感のようなものを感じる。けれどどことなく懐かしさもある。


(僕は一体どこの誰?)


 そんなバルザックに声をかける者があった。


「バルザック様。お目覚めのところ申し訳ないのですが、こちらのブローチはバルザック様のもので間違いございませんか」


 聞かれてもよく分からない。


「ちょっと見せて」


 差し出されたブローチを手に取った瞬間、頭を鈍器で殴られたような衝撃を感じた。あまりの痛みにとっさに手を離す。するとブローチが、手のひらから転げ落ちていく。その様は、スローモーションに見える。がら空きになった両方の手で頭を抱える。


「ゔ……」


 思わず鈍い声が出た。


「バルザック様!? 大丈夫でございますか」


 心配する声に応えている余裕などない。頭の中にものすごい速さの映像と音声が流れ込んでくる。一瞬気をやりそうになったが何とか持ちこたえる。


 しばらくしてすべての情報を吸収し終えた。するとバルザックの両目から雫がこぼれ落ちた。それは一筋となり、後を追うようにとめどなく落ちていく。そうしてようやく理解した。


「ふふっあはっあははははー……なぁーんだ」


 バルザックは狂ったように笑う。その様子を見て、近くにいる使用人が硬直しているのが目に入った。


「ごめんごめん。あはっ驚かせたよね? このブローチは僕のだよ。愛するイリィからもらったものなんだ」


(一度目のあの日、ブローチは僕のじゃないと答えたっけ。でもあとから僕のだったと戻って来たんだよねぇ)


 片手で口元を押さえているバルザックの顔は、ニヤけるのを止められない。はたから見ると、薄気味悪い笑顔だろう。


「さっ左様でございますか」


 声が裏返りながらも平静を装う使用人に、悪いことをしたと思う。


「君さぁ最近入った使用人だよね?」


 バルザックを担当しているいつもの使用人は、たまたま私用でいなかった。普段を知らない彼にとっては、何とも不運なことだろう。


「はっはい」

「お願いがあるんだけどさ……。みんなには僕が記憶喪失ということにしておいてくれないかな」


 使用人は状況が掴めず、固唾をのむ。


「どっどういうことでしょうか」


 その場にひんやりした空気が漂う。


「そのままの意味だよ。記憶喪失の方がちょっと都合が良さそうなんだ。もし約束を破ったら、この屋敷にはいられないと思っておいてね」


 理由は単純だ。アイリスとの距離を徐々に縮めて、懐に入り込むため。そして外堀を埋め、逃がさないつもりなのだ。


「かっかしこまりました! 金輪際誰にも言いません」


 使用人は緊張のあまり直立不動になる。敬礼でもしそうな勢いだ。何故か深々とお辞儀をした。


 かなり動揺していることが伝わってくる。おまけに言葉も乱れている。しかし今それを指摘するのは少し可哀想だ。ゆえに黙っておくことにした。

 同じ方の手足を同時に出しながら去っていく姿は何とも滑稽だった。


 バルザックは誰もいなくなった部屋で一人考える。


「あぁ血の通ったイリィに会えるのは何十年ぶりかなぁ。待っててね。僕の――僕だけのイリィ」


 薄気味悪い笑みを浮かべるバルザックは知る由もなかった。すんなりと手に入ると思っていたアイリスが、己から逃げる計画を立てることを。

最後までお読みいただきありがとうございました!


もし時戻りの宝石が実在するとしたらどうしますか?私はきっと手に入れるか迷います。どの時代に戻るのか分からない代物だったら怖いし、希望の時代に戻れるとしても何かの代償を要求されそうだし……。でも何も上手くいかない極限状態だったら、手を伸ばしてしまうかもしれません。

バルザックは強制移動しましたが、それはそれで良かったと思います。


ではでは、またお会い出来れば嬉しです!

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