番外編:壊れていく心
こんばんは、おはようございます、こんにちは!
逆行前の世界で、父親がバルザックへ宛てた手紙を公開したいと思い筆を執りました。内容的には8辺りの補足のような感じになっていると思います。
よろしくお願いいたします。
いつもと変わらない日常が始まるはずだった。けれど耳を疑うような知らせにバルザックの心は砕け散る。
「バルザック様――アイリスお嬢様が亡くなられました」
「はっ!? どういうこと?」
目の前に現れたのは、バルザック付きの使用人だった。やつれた姿のメイドを連れている。ただごとではない雰囲気に、頭が真っ白になる。
「君は――確かアイリス付きのメイドだよね」
「はい……」
何があったのか、聞くのが怖い。明らかにアイリスの死に関することだろうから。けれど、平静を装いながら尋ねる。
「僕に何か用かい?」
「もっ申し訳ございません……お嬢様が亡くなられたのはわたくしのせいなのです」
耳を塞ぎたくなった。どうしようもなくもなく、目の前のメイドを責めたくてたまらない。
「何それ……冗談だよね」
信じたくないから出た言葉だった。
「冗談ではございません。お嬢様は……悩んでおられました。お兄様であられるバルザック様がお好きだったのです。けれどご婚約の話を聞いて、バルザック様が幸せになる姿を見たくない、耐えられないとおっしゃいました。ここにいるのは辛いからと、屋敷を出ることにしたのです。それを手助けしたのはわたくしでございます。そして事故にあいました。本来ならばお止めするべきことでしたのに。ですからわたくしのせいなのです」
嗚咽混じりに話すその声がとても遠くに聞こえる。拒絶心から思考が真っ暗な世界へ入り込んだ。
「最悪……出てって! 言い訳なんて聞きたくない。二人とも早くここから出てってよ」
もう何も考えたくない。生きているのが辛い。そんなバルザックに追い打ちをかけるように衝撃の真実が語られた。アイリスと血のつながりがないことを知ったのだ。その足で執務室にいる父の元を訪ねた。ノックもせずに扉を開けると、ウサギのような目をした、やつれ顔の父と目が合う。最愛のアイリスを亡くした状況は同じだ。一瞬ひるむ。しかしどうしてもバルザックは許せなかった。もし真実を知っていたら、最悪の事態は防げたかもしれないから。
「父上! 僕とアイリスには血のつながりがないというのは本当ですか」
父はあからさまに目線をそらす。
「……あぁ本当だ」
その言葉に奥歯を噛みしめる。そして父との間を隔てる机を勢いよく叩く。
「何故です! どうして教えてくださらなかったのですか!? そうしたら僕は……僕はっミリアンと結婚なんて」
言葉を噛みしめながら少しずつ大きくなる声に、父は明らかに動揺する。
「まさかお前――すまない本当にすまない」
机に肘をつき目尻を押さえうつむく姿に、バルザックはこれ以上何も言えなくなった。平衡感覚を失いながら執務室を出る。足取りは鉛のように重い。自室になんとかたどり着くと、ベッドへなだれ込んだ。
怒りの矛先をどこに向けていいのか分からない。その晩は食事も取らずに夜を明かした。
バルザックとミリアンの結婚式が済み、しばらくすると両親は何もかも明け渡し、隠居生活を送るため屋敷を去った。母が目も当てられないほど憔悴しきっていたから。それを支える父の姿を見た時、バルザックの胸に鈍い痛みが走った。
(全部僕のせいだ……)
ぼんやりと虚空を見つめるその先に未来はあるのだろうか。
そして父が去り際に残した手紙を開く。
『バルザックへ
お前はアイリスのことが好きだったんだな。気づいてやれなくてすまなかった。二人が記憶を失う前、あまりいい関係ではなかった。今思えばその関係を作ったのは私たちなのだろう。確かにお前は養子だ。だけどアイリスが生まれたからと言って、跡継ぎを変えるつもりはなかった。それなのにそのことを気にしていることには気づいていた。だからお前が跡継ぎだとわからせるために、厳しくしていたのは事実だ。記憶のない今のお前に言ったところで、無意味な話だろうがな。結果お前たちの関係を崩すことになるなんてな。皮肉なものだよ。本当にすまなかった。もしも記憶が戻ることがあれば、この手紙のことを思い出してくれ。
それから二人が記憶喪失になった時は正直辛かった。今までようやく築いた親子の絆が失われたように思えたよ。でも何より二人の関係を修復できるチャンスだとも思ったんだ。これからは仲のいい兄妹に戻れるはずだと。血のつながりがあってもなくても兄妹であることに変わりはない。あえて知らせる必要もないと判断したんだ。忘れたままのほうが、お互いよりよい関係を築けると思ったのが一番の理由だよ。
伝えるべきか迷ったのだが、本音を言えばお前さえ良ければ、アイリスを妻として迎えることを視野に入れていた。そうすれば、この屋敷でアイリスともずっと暮らしていけるからな。その時点でお前の意向を聞くべきだったよな。今更ながら何も伝えなかったことを後悔している。
逃げることを赦してくれとは言わない。どうか息災で過ごしてくれ。 父より』
ところどころシミのついた手紙を読み終えると、片手で握りつぶした。バルザックの目尻から一筋の雫がこぼれ落ちる。もうどうでもいい。目の前には秘密裏に引き取ったアイリスの身体がいる。
そしてそっと口づける。
「あぁイリィ愛しているよ――」
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回投稿がまさかの番外編でした。作者もビックリ!? 何だか書きたくなってしまったんですよね。番外編はまた投稿する予定です!
余談ですが、本文に虚空という文言が出できたと思います。私は読み方を「きょくう」だと思ってました。まだまだ勘違いしている読み方や言葉の意味が、ありそうだなあと感じました。執筆はある意味勉強です(笑)
またお会い出来れば嬉しです。




