9、宝石を持って生まれた者の宿命
こんばんは、おはようございます、こんにちは
お越しいただきありがとうございます。
よろしくお願いいたします!
アイリスはバルザックの話に耳を傾けながらほっとした半面、いかに愚かな行動だったのか身をもって体感した。
「――というわけで、あの子供は僕の子じゃないんだよ。でもあの子には救われたんだ」
バルザックの話は、胸がよじれるほど痛い。アイリスは何のために今まで過ごしてきたのか。この世界は物語などではなく、歩んできた人生の記憶。現世よりひとつ前の記憶も確かにある。おそらくバルザックが死ぬタイミングで、アイリスの二度目の人生が終わりを迎えたのだ。そうして今三度目の人生を生きている。
「えっどういうこと?」
アイリスはバルザックの腕の中。上目遣いで顔を見やる。すると目を細め口角を上げたバルザックの顔が間近にあった。恥ずかしさを隠すよう慌てて胸に顔を埋める。
「このブローチがと言うより、ブローチに使われてる宝石だね。どうやらこの宝石は黒い感情を吸い込むと同時に、所持している間の出来事を記録するみたいなんだ」
「嘘……」
バルザックが主人公の物語だと思っていた話は、 ブローチが見せた記録だった。
「本当だよ。ブローチの記録によると、この宝石は生涯を共にする相手へ永遠の愛を誓うものなんだ。贈った相手は、贈られた相手と魂の契約を結び、必ず幸せになると言い伝えられている。たとえ政略的に結ばれた婚姻でもね」
次々と伝えられる事実に、頭を強く揺さぶられるような衝撃を受ける。バルザックと少し距離を取り、思わず両腕を掴む。
「ちょっと待って! そんな大事なこと、どうして教えてくれなかったのかしら。知っていたらこんな事態避けられたかもしれないのに」
自分の取った行動のせいで、自ら死を招きバルザックを苦しめたことを悟る。
「仕方なかったんだよ。父さんも母さんもそのことを知らなかった。本来ならばイリィが成人を迎えるときに教会から伝えられるはずだったんだ」
「成人?」
そこでアイリスは、成人を迎える前に事故で死んだことを思い出す。
「うんそうなんだ。どうもはるか昔にこの宝石が盗まれて、盗んだ者が本来の持ち主を殺害する事案が続いたそうだよ。だから教会側が窃盗の対策として、伝えるタイミングについての取り決めが行われたんだ。それからは、適当な理由をつけて人目につかないように保管されていてね。しかし意図せず、僕に渡ってしまった。だからおかしくなってしまったようだね。この宝石を持って生れた者は、必ず幸せになる。持ち主が万が一死ぬようなことがあれば、その幸せは来世に持ち越される。これが僕の死後あの子が調べてくれた結果だよ。もしかすると盗んだわけではないから、記憶喪失という形で均衡を保とうとしたのかもしれないね。僕とミリアンは特殊な夫婦関係だったから、あの子は母親をないがしろにする僕を許せなかったんだろうね。ミリアンは全て打ち明けたんだよ。この婚姻はミリアンと僕の恋心を隠すための計略だったんだとね」
「そっそんなことって」
お互いが素直になれなかった。ただこれに尽きる。
「ごめんね。イリィが僕を好きだなんて、考えもしなかったんだ保身の結果これじゃあ目も当てられないね。でもねせっかく時が巻き戻ったんだから、このチャンスを逃したくない。だから、この先イリィが嫌がっても二度と離すつもりはないよ」
そういいながらも眉を八の字にしながら、笑うバルザックを見つめながらアイリスは考える。遠回りではあるが、思いを伝え合えた。たくさん傷つけた。もうあらがうことはしない。アイリスがバルザックを幸せにしたいと。しかし解決しなければならない問題がある。
「でも、私たち義理でも兄妹でしょ。お父様は許してくれるのかな」
この世界の婚姻事情は把握していないのだ。
「そのことなら心配いらないよ。時間が戻る前の世界で、父さんたちが屋敷を去る時、手紙をもらったんだ。イリィが生まれた時に、もし僕が望むならイリィを妻に迎えても構わないって書いてあったんだよね。関係がこじれていたから、そんな話にならなかったんだよ」
「ほっ本当に? お父様は私たちのこと許してくれるってこと?」
「うんそうなるね。これで思う存分一緒にいられるね」
アイリスは心が温かくなるのを感じた。一度はあきらめた恋。それが手元に舞い戻ってきた。全てはバルザックの執着によるものだけれども。
目を細めて穏やかな表情を浮かべるバルザックに、アイリスは自ら囚われに行く。
「バルザックお兄さま大好きよ」
「あぁイリィようやく捕まえた。でももう僕はイリィの兄ではなくなるから、バクと呼んでほしいかな」
「うっ……でもずっとお兄様だったから……それよりももう離れてほしいのだけど」
アイリスは自ら胸に飛び込んだものの、段々と身体じゅうがほてってきた。確かに人のぬくもりは暖かい。しかし前世を含め男性とのアレコレは妄想でしか知らない。そろそろ細胞が悲鳴をあげそうだ。ただ知識があるだけではほとんど役に立たない。
「うーん。どうしようかなぁ。だって僕たちこれから夫婦になるんだよ。それなのにお兄様はおかしいと思わない? 妙な背徳感はあるけどね」
「えっ?」
後半はよく聞き取れなかった。
「じゃあ僕のことを名前で呼んでくれたら放してあげるよ。ほら呼んでごらん」
諦めてアイリスは名前よ呼んだ。これも細胞のためだと。
「バク……」
(お兄さま)
ところが予想に反して、バルザックは抱きしめる力を弱めるどころか強めた。
「あぁイリィやっとやっと僕のだ」
「おっお兄さま苦しいですよ。離してくれるといったではないですか」
「ごめんつい嬉しくて――でもイリィ、名前で呼んでくれるって約束したじゃないか」
(約束してなーい)
けれどアイリスはこれ以上抵抗するとややこしくなりそうなので、素直に従うことにする。
「わかったからそろそろ離してくれる? ほらそろそろパーティーもう終わるころだし」
「それもそうだね早く家に帰って、父上と母上にも報告しないといけないね」
こうして二人は挨拶もそこそこに屋敷を後にした。
最後までお読みいただきありがとうございます。
残すのはエピローグのみになります。
そういえばこの作品を執筆中にとある歌が降ってきました。皆さんの中で、どのくらいの方がご存じか分かりませんが、お笑い三人組のネプチューンさんが曲を出していて、その中に「イッショウケンメイ」という歌があるんです。友達に片思いしているけど、この関係を壊せないからそのままでいい。みたいな歌詞なんです。片思いのシーンを書いていたせいでしょうか、本当に突然でした。全部の歌詞を調べてみるとすごく切なかったんです。歌詞のような経験がある方は世の中に沢山いるんだろうなと。片思いは苦しいですよね。でも終わらせる勇気を持たないと、後々引きずります。言わずに後悔するより、言って後悔したほうがいいなと思います。私は答えを聞かずに逃げて後悔したので……。アイリスもちゃんと言いたいことは言えたので、これから幸せになるでしょう。
それでは明日お会い出来たら嬉しいです。




