プロローグ
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アイリスは籠の中の鳥だった。それも自らが蒔いた種によってもたらされた結果。知らないことが罪にもなることを、この時思い知った。
「あぁイリィ――愛しているよ。この瞬間をずっと待ってたんだ。もうどこにも逝かせないよ」
どうあがいても、バルザックとは鋼の糸でつながれていた。むしろそれが嬉しいと思うアイリスも、相当おかしいのかもしれない。
目を覚ますと、知らない部屋で寝ていた。どことなく恐ろしさを感じ、慌てて起き上がる。するとメイド服を着た女性が視界に入る。瞳いっぱいに雫をため、胸の前で手を組みながら右へ左へ忙しなく動いている。
「おっお嬢様! 意識が戻られたのですね」
「へっ?」
ふと女性と目が合う。慌てて近づいてくる様子に驚く。闇雲に手を握られたアイリスは、メイドの瞳に映る自分の姿を捉えた。紫色の髪の毛にルビー色の瞳をしている。瞬間、膨大な量の記憶が荒波のように流れ込んでくる。脳がざわざわと騒がしい。
(何が起こったの?)
「バルザック様と池に落ちた時は、心配で心配で気が気じゃありませんでしたよ」
「池に落ち……た?」
目の前のメイドの言葉が理解出来ず、どこか他人事のように感じた。
(どういうこと? 確か私、お風呂に入ったら急に眠くなって……もしかしたら)
「はいそうです。もしかして覚えてらっしゃらないのですか!? お嬢様はわたくしのことが分かりますか」
メイドの言葉を聞きながら、夢でも見ているかのように混乱する頭を必死に動かす。すると少しずつ思考がクリアになっていく。アイリスは、今置かれている現状を理解しようと、メイドの顔をジッと見つめる。そこで今流れ込んできたのは前世の記憶で、ここは物語の世界ではないかということ。
(はぁ私ってそのまま永眠したのか。あーあよりによってアイリスに転生するなんて。確か目の前にいるのは、専属のメイドだわ)
「――そうだったわね。覚えているわマーリー。ただ少し混乱していて」
「そうでございましたか。ホッといたしました。少し前にお目覚めになったバルザック様は、どうやら記憶を失っているようでしたので」
その言葉にハッとする。忘れもしない名前だったから。そして今のはいわゆる走馬灯だったのではと。しかしあり得ない。そんな疑問をもつのはおかしいと首を振りかき消す。何故よりによってこの物語なのだろう。眠っていた記憶をたぐり寄せながら、深いため息をつく。前世の名前は思い出せない。もっと平和な世界がよかったと、心が軋む音がした。最悪な結末を思い浮かべながら、どうしたものかと頭を抱えるのだった。
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