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紺碧のメサイア  作者: 蒼空駿
第1章
7/12

第1章7話 颯の翼

  ——————

  1

 

「今日俺は部活が入っている」


 早朝、颯が一のいるA組の教室まで来て、開口一番にそう言い放った。


「えーっと、今日放課後集まれないってことかな?」


 今日の放課後は親睦会のお菓子の買い出しをしようと昨日決めていた。しかし颯はうっかり部活があったのを忘れていたようだ。


「そーなんだよー。部活楽しいんだけどさ、メサイアとの両立大変何だよ」


「確かに放課後に現れたら部活どころじゃないもんね。バスケ部だったよね。昨日の体育でも大活躍だったし、部活でもすごいんだろうな」


「いやいやそんなこと……あるんだけどそれほどでもないってー」


 一からの称賛の言葉を受け、颯の鼻は天狗のごとく伸びきっていた。


「まぁそんな訳だからさ、狼樹も図書委員があるし、二人でよろしく頼む。てか、一って俺たちのグループチャットに入ってたっけ?」


「グループ……チャット?」


「あ、ごめん忘れてた。今入れるね」


 優がスマホを操作すると、一のポケットの中で端末が震えた。


「通知オフにしてなかった……えっと、このグループ?」


 青藍高メサイア隊と書かれたグループの承認ボタンを押し、チャットに合流した。


「めっちゃ使われてるって訳じゃないけど、これならいろいろ便利だろ。よろしくな」


「うん。ありがとう」


 そうして颯はA組を後にした。

 


 

  ——————

  2

 

 放課後の体育館。数人の生徒が退出する中、颯を含めた数人のバスケ部員たちは自主練をしていた。


「まさか急に自主練になるなんてな」


「仕方ないよ、先生の娘さんが急に体調崩したんだから。親としてはそれどころじゃないでしょ」


 本来なら普通に部活をしていた所、顧問の先生が早退したことで自由退出可の自主練となった。こんな時は副顧問か部長が仕切るのだが、規模の小さいこの部には顧問が一人しかおらず、上級生もエンジョイ勢が多いため、ほとんど自主練と言う名の休みだ。


「ほいっと」


 颯が軽くボールを投げると、スポッとゴールリングの中をくぐった。


「お、また入った」


「さすが百発百中の颯だな」


「これが動き回りながらでも出来たらいいんだけどな」


 止まっていれば絶対に外すことはないが、流石にドリブルしながらだとそうもいかないのが課題だ。


「でも一年でそれだけ出来たら三年の頃にはスーパーエースになってるだろ」


「スーパーエースか……悪くねぇな!」


 多少の雑談を交えつつ、特に仲の良い二人の部員と共に練習を重ねた。ランニングや筋トレは家でもできるため、ここではもっぱらドリブルやシュート練習をメインにしている。


「やっぱ将来はバスケの選手になるのか?」


 シュート練習の途中、一人がそう颯に投げかけた。


「あ、それ俺も気になってた。それだけ出来たら世界だって取れるだろ」


「将来……か。あんまり考えたこと無かったな。でもずっとバスケやってたし、やっぱりプロになってる……のか?」


(そもそも俺、なんでバスケやってんだっけ)


 考えてみても今いちわからない、というのが颯の正直な気持ちだった。いつからか始めたバスケは、やるのが当然のようになっている。何か目標があったのか、テレビで見た試合に胸が熱くなったのか、それすらわからないほどに。


「普通になれると思うけどな」


「まぁぶっちゃけ、未来とか将来とか何やってるかわかんねぇよな」


「まぁな」


 颯は再度ボールを投げ、ゴールに入れた。

 

 

 

  ——————

  3

 

 ほぼ同時刻、一と優は公園の方へ向かっていた。理由はフォートの気配を察知したからだである。急がないと、犠牲者が出てしまう。二人は全速力で町中を駆け抜けていった。


「いない?」


 公園へ駆けつけたが、そこに怪物の姿は無かった。


「でも……気配はある」


 辺りを見渡すが、それらしいものは見当たらない。どこにも異形の姿をしたフォートはいない。


「周りにいないということは……」


 何かを察したのか、優は上を見あげる。するとそこには、鳥のように大きく翼を広げたフォートがいた。


「あれだ!」


 くちばしに三本指の手足、両腕の脇から手首にかけて生えているグレーの翼。顔立ちはどことなく鳩に似ているように見える。

 二人はすぐに変身。フォートを引きずり下ろそうと、地面を強く蹴り上げ天高く飛ぶ。

 怪物に向け剣を振るうが、後少しのところでフォートはさらに高く舞う。そして翼からマシンガンのような速さで羽を射出する。無数の羽が、弾丸のように二人を襲う。剣を振るい羽を弾くが、全てさばくことができず数発食らってしまう。胸部、肩、膝と様々な部位に着弾、しかも物体と衝突すると小さく爆発するようにもなっていた。一の白い鎧には黒い焦げ跡がいくつも付けられる。

 それだけでなく怪物は空中から急降下し、羽を広げ二人に体当たりを仕掛ける。


「どうする? どうにか地面に引きづりだすくらいしか手は無さそうだけど」


 フォートのテリトリーが空中であることが厄介だ。一と優には空中戦を仕掛ける手段も、遠距離からの攻撃に適した武器もない。地面に引きずり下ろすかしなければ勝ち目はないだろう。


「こんな時、颯なら……」


「颯ならどうにか——うわっ!」


 策を練っている暇など、怪物は与えてくれない。二人が遠距離からの攻撃を苦手としていることに狙いをつけ、離れた位置から羽のマシンガンを放ってくる。


(どうすれば……)


 フォートの対処法を思案していると、どこからか飛んできたバスケットボールがフォートの顔面に命中。バランスを崩し地面に落下した。


(今のは、)


「悪い、遅くなった」


 一と優がボールが飛んできた方を見ると、走ってこちらに向かってきている颯がいた。


「颯! 今日部活じゃなかったの?」


「あーそれな。顧問が用事で今日は自由解散の自主練になったんだよ。だからこうして来られたんだ」


「助かる、あいつ飛べるから、俺たちじゃ厄介」


「任せな! 俺がきっちり片付けてやるぜ」


 颯はバックから青緑色のライドクイルを取り出す。パレットライバーの上部にペン先を漬け、地面に垂らすと、青緑のインクが竜巻のように溢れ、颯を包み込む。体中にインクがべったりとまとわりつくと、鎧のような形となり硬化する。渦が消えると、姿を変えた颯が立っていた。鷲のような仮面、獅子に似た鎧、ライドクイルは二本の双剣"デュアルウィンド"へと姿を変えていた。


「あれが、颯が変身した姿」


「とぅっ!」


 変身した颯は膝に力を込めて、勢いよくジャンプした。そしてフォートに攻撃を当てようと剣を振るうが、またしてもさらに高い場所へと逃げられてしまう。


「それはどうかな!」


 颯も更に高く飛翔。フォートに追いついて二本のデュアルウィンドで切り裂いた。


「すごい、飛んでる」


 そのまま空中戦へと入り、猛スピードで空を駆け回っている。その様子はまるで、飛行機雲があやとりのように複雑な形を描いているようにも見える。接戦の中、颯は隙を見て急上昇。そこからフォート目掛けて急降下し、その勢いを利用した膝蹴りを背中に繰り出す。それによりフォートは地上へと真っ逆様に落下して行った。


「二人とも!」


 颯の合図に二人は剣を構える。剣に力を込め、今まさに落下途中の怪物に狙いを定め飛んだ。


「せーのでやろう!」


 一の声に優は無言で頷く。二人は同時に剣を振る、怪物の両翼を切り裂いた。これでもう二度と飛ぶことも、マシンガンを放つこともできない。これでようやく対等なリングで戦えるというものだ。


「トドメは俺が貰うぜ」


 颯は双剣を鞘に収め、体を拗らせ竜巻のように回転する。落ち葉が一斉に舞い上がるほど凄まじい風が吹き込める。ジェット機のようにフォート目掛けて加速。自らを竜巻として相手を貫く技、"スパイラルストライク"でフォートの胴に風穴を空けた。フォートの体は塵となり風に吹かれるまま消え去っていった。


「ととっ、どんなもんだい!」


 少々ふらつきながらも自信満々に着地した。


「お疲れ様。颯が来てくれて助かったよ」


「俺たちだけじゃ……倒せなかったかも」


「いいってことよ。」


 仮面の中で清々しい笑顔を見せる颯。


「おーい皆」


「あ、宝田」


 公園の入口の方から、急いで走ってくる狼樹が見えた。


「ごめん間に合わなくて……って颯! 今日部活じゃなかったの?」


「説明二回目めんどくせー」


 先程戦いがあったとは思えないほど和やかな空気が流れている。


「てか、お前らどっか怪我してねぇか? なんか焦げ跡みたいなのついてるぞ」


 言葉の通り、一と優の鎧には、ところどころ黒い焦げ跡ができている。特に一の鎧は白いため、いっそうそれが目立つ。


「あぁこれ、大したことないよ。鎧が頑丈なおかげでそこまで痛くないから」


 一の言葉に優も頷く。


「本当? 無理はしないでね」


「そうだぜ、俺たちは仲間なんだからよ、遠慮なく頼れよな」


「仲間……」


 颯の曇りなき言葉に、一の頬が熱くなる。嬉しいような、照れくさいような、何とも不思議な気持ちになる。


「そんじゃ、親睦会の買い出しに行くぞー!」


「ちょ、その前に変身とかなきゃだよ」


 夏の涼しい風が通り過ぎる穏やかな時間。公園にも徐々に人が戻ってきている。

 しかし、それを打ち破るように、四人は何か禍々しい気配を感じた。


「何だ……今の感じは……」


 一瞬にして辺りが凍てつくような冷たいオーラ。しかもどんど近づいてきている。


「何かとても強いものが来る……上からだ!」


 狼樹の掛け声と同時に上を見ると、謎の物体が勢いよく降ってきた。落ちた衝撃で砂煙が舞う。それにより気配の正体を視認できない。狼樹も変身し、何が来ても対応できるように警戒する。だがそれもつかの間、突如しっぽのような物が四人の腹部を叩きつけた。一斉に後ろへと飛ばされてしまう。そしてそれによって砂煙は晴れ、中心にサソリのような怪物が立っていた。

 血の流れがわかるほど浮かび上がっている血管、筋肉質な肉体。そのくせ腰から下は節足動物がそのまま巨大化したような見た目となっており、さながらケンタウロスのサソリ版といったところだろう。顔にはサソリのハサミがツノのように生えており、まさに鬼のようなつらをしていた。

 極めつけはしっぽだ。バランスボールより一回り大き威玉がボールチェーンのように繋がっており、、校舎の三階までとどきそうな長さを持ったしっぽ。先端には人間の心臓を一発で貫いてしまえるほど太い針が生えている。


「どうやら降ってきたのはあいつみたいだね」


「一日に二戦とかアリかよ」


「今相手にするのはちょっとキツイかも」


 一と優はまだ戦いの疲れが残っており万全の状態とは言えない。


「ここは俺が向こうの出方を見るよ」


 今日初の戦闘である狼樹が様子見として、高速で相手に近づく。サソリのフォートは長く太いしっぽを振り回し攻撃する。大きさの割にかなり早く振り回すため、避けるので精一杯だった。


(もしこいつがサソリなら、先端の針には……)


 考察をしながら相手の攻撃を必死に避けるが、一向に近づくことが出来ない。そしてフォートはしっぽの先端の針を狼樹に向けて突き刺そうとした。それを何とか避けるが、その先には何と一人の男性がいた。怪物の針が男性の胸に直撃する。


「ガア……ァ……」


 針は心臓もろとも体を貫通。体の真ん中にはバスケットボールくらいの大穴が空き、真っ赤な血液が湧き水のように溢れだす。口からも赤黒い液体を吐き出し、穴からは臓物の残骸と思しきものがこぼれ落ちる。次第に肌は紫色に変色していき、塵となって消えていった。


「しまった!」


「そんな……」


 あまりの出来事に四人は言葉を失う。目の前で人が死んだ。何の抵抗もできず、胸を貫かれ、毒で痛みを与えられながら無意味に死んだ。

 四人の目に、激情の火が灯る。


「ちっくしょぉぉぉ!」


 颯が怒りの余りフォートに突進する。天高く飛翔し、怪物に向かって急降下する。しかしそれもしっぽに叩き飛ばされる。優はその隙に攻撃を仕掛けようとするが、体をしっぽで巻き付けられ、何度も地面に叩きつけられた。狼樹は先にしっぽを片付けようと鋭い鉤爪で攻撃を加えるが傷の一つもついていない。そしてそのまま、鋼のように頑丈なしっぽで吹き飛ばされてしまった。

 三人ほぼ同時に倒され、一はそのまま立ち尽くしてしまった。


(強い……これまでの敵とは全く訳が違う。こんな敵……どうやって)


 突如現れた強敵。仮面の下の顔が恐怖で歪む。サソリのフォートはまるでそれを嘲笑うかのようにその場に立っていた。


(あんなに強いの……勝てるの? いや、ここで俺が諦めたら……)


 剣を構え、フォオートへ走りだす。怪物は器用にしっぽを動かし、四方から攻撃してくる。それを何とか剣でいなすが、やはり近づくことができない。


(これじゃこっちが体力を消耗するだけだ……)


 この状況を脱する方法を考えねばと思うが、攻撃をいなしているだけで手一杯だ。こんな状態ではまともに思考することすらままならない。徐々に体力も奪われていく。

 そしてついにタイミングをずらしてしまい、腹部にしっぽの重い一撃が入る。そのまま勢いよく木に叩きつけられた。


「一!」


 地面に伏していた颯が一に呼びかける。その声すらも、こもっているように聞き取りづらい。腹から食道を通って、何かが体から出ようとしている。


「はぁ……はぁ……ぁ……ぉぇ。」


 仮面のマスクを外し、地面に吐瀉物を吐き出す。


(強い……強すぎる……)


 視界が掠れる中、ふらふらとした足取りで怪物へと歩みよる。


(倒さないと……でないと皆が……)


 焦りが冷静さをかき乱す。腹部の痛みが意識を蝕む。鳩のフォートからもらったダメージもまだ残っている。それでも歩みを止めない。ここで自分が敗れれば、どれほどの犠牲者を生むことになるのか。


「待って天乃君! 危険だ!」


 様子がおかしいことに気づいた狼樹が静止するよう叫ぶが、それでも止まる気配がない。

 格好の的となっている一に向けフォートは毒針を放つ。


「危ない! 避けろ一!」


「……え?」


 朦朧としている視界に、自分に向け一直線の毒針が目に入る。霧がかってる意識の中では、回避すらままならない。毒針が一の心臓を突き刺さる……寸前——

 

 

 

「天乃!」

 

 

 

 優が一を庇うように押し倒した。

 しかし、それにより……優の左肩に太い毒針が突き刺さってしまった。

 

 

 

 

 

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