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紺碧のメサイア  作者: 蒼空駿
第1章
4/12

第1章4話 隣のクラスの優等生

  ——————

  1

 

「今日、メサイアの一人に会いに行こう」


 朝、教室に入って来た優は、開口一番にそう言い放った。


「えっと……今日?」


 突然のことに、一は少し困惑の表情を浮かべる。


「うん、その、今まで何かしら予定があって学校に来れてなかったけど、今日は来てるらしいから」


 メサイアとなって一週間立たずの今日、今まで祝日などにより会うことはできなかったが、ようやく邂逅する日がやってきた。


「じ、じゃあ早速」


 この町にいるというもう二人の戦士。その内の一人にこれから会うのだ。どんな人物なのか、心臓の鼓動が速くなる。

 そうして優を先頭に廊下へと出ようとしたその瞬間、学校中に朝の予鈴が鳴り響いた。


「あ、えっと……昼休みに出直そう」


 邂逅を見送り、二人は各々の席についた。一の中にあった緊張はどこへやら、少し硬直していた体からは脱力感すら感じている。


(他のメサイアか、会うの楽しみだな)

 

 

 

  ——————

  2

 

 迎えた昼休み。四時間目に使った教科書をなおして、すぐに立ち上がり優の席へと向かった。


「……行こ」


「う、うん」


 話の切り出しが苦手な優の言葉は、少し間を置いてから放たれる。ほんの少しの付き合いながらもそれは読み取れる。

 ついにもう一人と会うということに、一は朝と同じような心臓の高鳴りを感じていた。生徒たちの喧騒で溢れる中、いざゆかんと教室を出ようとすると——


「天乃、ちょっといいか?」


 一は、担任の池田先生から呼び止められた。


「お前今日、日直だろ。ちょっと運んでほしいものがあるから職員室まで来てくれないか?」


「あ、はい。ごめんね優、すぐ戻るから」


「う、うん」


 こうしてまたしても先送りとなってしまった。

 

 

 

「あれ、ここに置いていたはずなんだが」


 職員室に着くと、池田が配布物を探しだした。ガサゴソと自分の机の上や引き出しの物を出したりしまったり、けれども見当たらなかった。

 休み時間となると大半の教師は職員室に在住している。そんな中、池田は通りかがりの安田先生に話しかけた。


「あ、安田先生。ここに置いてあったプリント知りませんか?」


「プリント? いえ、私は……あ! もしかしたら小早川先生が間違えて持っていってしまったのかも……」


「何! 参ったな、俺もこれからやることがあるというのに……スマンが天乃、小早川先生の所までプリントを取りに行ってくれないか。多分三年C組にいると思うのだが、いなかったら探しておいてくれ」


「は、はい。分かりました」


 一はすぐに職員室を出て、はや歩きで三年生のフロアまで急行した。

 速く見つけないと昼休みが終わってしまう。優との約束があるため急いで探しださなければならない。

 自分より背の高い生徒たちの波を抜け、C組までたどり着いた。しかし教室を覗いてみても、小早川はいない。

 そのまま学校中を探すことにした。L字形の本校舎の三階から一階まで。それだけでなく、運動場、体育館、二号館も巡った。

 しかし小早川は見つかることはなかった。このまま探していてもラチがあかないと、一度職員室に戻ることにした。

 

 

 

 職員室の戸を開けると、すぐに自分の目を疑った。そこにはなんと、探していた小早川先生が担任と笑い声を上げながら談笑していた。驚きながら棒のように突っ立っていると、担任が一の存在に気づいた。


「お、天乃。実は小早川先生はお前が出た後にすぐ戻ってきてな、入れ違いになった訳だな。いやーすまんな。じゃあこれを持って教室に戻っておいてくれ」


 そう言って、何でもないような顔をして一にプリントを差し出した。


「は、はぁ」


 まだ困惑の色が抜けない中、職員室を出ようと扉に体を向けると——


「待って」


 そう呼び止められた。声の方を向くと、灰色の目をした男子生徒が担任のことを睨むように見ていた。


「池田先生、彼にまだ言うことありますよね」


 凛としていて、臆することのないまっすぐな声で担任に言い放った。


「自分の生徒に人探しを依頼してやることが談笑ですか? そもそも探し人が見つかったのならすぐに呼び戻すのが筋でしょう」


「うっ、そっ、そうだが……」


 毅然とした態度で少年は言葉を綴る。


「なら、彼に言うことがありますよね」


「すまなかった、天乃。申し訳ない」


「俺も悪かった」


 池田と小早川は深々と、一に頭を下げた。


「えっと、全然気にしてないので、もう大丈夫ですよ」


 スーツ姿の大人二人から頭を下げられ、一は少し遠慮気味に謝罪を受け入れた。

 

 

 

 

「ごめんね、余計なお世話だったかな?」


 職員室を出ると、教師に怒っていた生徒に声をかけられた。


「いや、全然。むしろ、俺のために怒ってくれてありがとう」


「あ、なら良かった。君も少しは怒った方がいいよ」


 そう言い残して彼はその場を去っていった。大人に臆することなく接する態度が、どこかかっこよく見えた。自分にもあんな勇気があれば……と。


「あ、昼休み」


 気づけば昼休みも終わりに差し掛かっている。次の授業は体育。着替えのことも考えると会いに行っている時間はない。しかもお昼も食べ損なってしまった。


(仕方ないかな……)


 少し残念な面持ちで教室へと足を進めた。

 

 

 

  ——————

  3

 迎えた放課後。終礼を終えた教室は部活に行こうや寄り道しようなどの声で溢れている。

 かくいう一たちはというと——


「ごめん……今日委員会があるから……」


 運の悪いことに今日は図書委員の集まりがあった。


「い、いや、気にしなくていいよ。明日もあるから」


「本当にごめんね! また明日」


 一年A組と書かれたクリアファイルを手に、図書室へと向かった。


(それにしても本当にタイミングが合わないな。連絡すれば良いのに姉さんは……)


 そうして思い出すのは少しお調子者な面のある従姉弟の言葉だ。

 

 

 

「折角だからサプライズで直接行っちゃいなよ」

 

 

 

(おかしなサプライズ思いつくんだから……)


 若干呆れつつも、靴箱へと向かう生徒の波の中に優も入っていった。

 

 

 

「あれ、君は……」


 図書室の前に着くと、なんと昼休みに職員室で会った男子生徒がいた。


「あ、確か昼休みの」


「君も図書委員だったんだ。そういえば自己紹介がまだだったね。俺は宝田狼樹(たからだろうき)。よろしく」


「天乃一です。えっと……一年生だよね」


 上履きの色を確認しながらも、一応尋ねる。


「うん。C組だよ。天乃君は……A組か」


 一の持つ委員会ファイルをにはクラス名が書かれてある。それさえあればどこのクラスかすぐに見分けることができる。


「立ち話もなんだし教室に入ろうか」


「う、うん」


 そう言って狼樹は扉を開け、先に一を通してから教室に入った。


(なんか、すごくしっかりしてるな。同い年とは思えないよ)


 狼樹の落ち着いていて紳士的な態度、さらに昼休みの一件から、教師に対してはっきりと物事を主張できる度胸まである。とても同じ高校一年とは思えないほど大人びて見えた。

 

 

 

「天乃君、ちょっと良いかな?」


 委員会が終わって直後、狼樹は一の元を尋ねた。


「生徒会が資料の整理をするみたいなんだけど、さっき手伝いを頼まれてね。もう一人来て欲しいみたいで、お願いできるかな?」


「うん、いいよ。昼休みのお礼もしたいし」


 一度助けてもらったからには必ず返さなければならないと、一は心よく承諾した。


「ありがとう。ごめんね、急にこんなこと頼んで」


 二人は肩に制定カバンをかけ、一階の資料室へと向かった。

 

 

 

 資料室の中は背の高い棚がたくさん並んでおり、大量の段ボールの中にはプリントとファイルが年代順に並んでいる。これを今から整理するのだ。とはいえ生徒会役員もそれなりに人数がいるため、一人一人の仕事量はそこまで多くない。


「天乃君って部活とかやってないの?」


「いや、特にやってないよ」


 ただ整理するだけも退屈なため、雑談を交えながらテキパキと作業を進めていく。


「休日とかもほとんど家で過ごすくらいだよ。特にやりたいことも無いし」


「そっか」


「宝田君はどうなの?」


「俺? 俺は部活はやってないけど、絵は描いてるよ。父が有名な画家なんだ」


「え、そうなの!」


 驚きのあまり、プリントの束を床に落としてしまいそうになる。


「うん、宝田栄一郎(たからだえいいちろう)って知ってるかな?」


「えっと、ごめん。絵のことはあんまり……」


「まぁ、普通はそうだよね。気にしなくてもいいよ。父さんが画家だから、俺もなろうってね。昔から色々教わってるんだ」


「でも、何で部活に入ってないの? 美術部とか」


「入ろうと思ったけど、家の方が設備が揃ってるからって母さんから止められたんだ。うち、母さんの方が熱量すごくて」


「そうなんだ。じゃあお母さんも——」


 そう言葉を続けようとした直後、後ろから資料の山が頭からなだれ込んできた。


「あぁ! ごめん!」


 資料を積んで運んでいた生徒が少しバランスを崩した結果、一の頭の上に流れ落ちてしまったのだ。


「天乃君、大丈夫?」


「へ、平気だよ……」


 メサイアとなって以来、大抵の痛みならほとんど耐えられるほど頑丈になった。おかげで大したダメージは感じていない。


「本当にごめん!」


「一度に運んだら危ないよ。俺も半分持つよ。天乃君、こっちの作業はもう終わってるからもう帰ってもいいよ」


 そう言って狼樹は一に帰宅を促す。


「いや、俺も——」


「怪我人が何言ってるの。こっちは平気だから、家でゆっくりしておいで」


「わかった。今日はありがとう」


「うん、気をつけてね。それじゃあ」


 そうして一足先に、資料室をあとにした。

 

 

 

 狼樹は資料を運び終わり、元の持ち場に戻った。すると、先ほどまで無かった青白磁色の羽根ペンが落ちているのが目についた。


「これは……」


 狼樹はそれを拾うと、訝しげに見つめた。

 

 

 

  ——————

  4

 

 一はいつもの通学路を通って帰路についていた。まだまだ夏の面影の残る日差しがアスファルトの地面を照らしている。

 下校しながら考えているのは、今日知り合った狼樹についてだ。生徒会の人たちから手伝いを頼まれたり、運ぶのを手伝ったり、それでいて言いたいことははっきりと言うことができる。高校生にしてはかなり大人びた印象を受ける。

 そんなことを考えながらとぼとぼと歩いていると——


(今のは……)


 禍々しい気配——フォートの出現を感じ、すぐに地面を蹴って走り出した。

 

 

 

 現場に着くと、もう既に変身した優が戦っていた。辺りにはコンクリートの瓦礫や壊れた車が溢れ、地面にはいくつもクレーターができている。

 白いふわふわとした毛に覆われ、丸い体からは手足が突き出している。体毛の真ん中をよく見ると顔が出ている。ツノの形から羊のフォートと推測する。


(俺もやらないと!)


 一はライドクイルを出そうとポケットに手を入れる——が、どれだけあさっても手応えがない。


「あれ?」


 反対側のポケットや裏側を探ってもハンカチくらいしか出てこない。カバンを開けて中身を探っても、どこにも見当たらない。


(もしかして……落とした?)


 ポケットやカバンのどこにもない。ということはどこかで無くしてしまったとしか考えられない。目の前には凶暴な怪物と、剣を携え必死に戦う優の姿がある。自分も参戦すべき状況だが、変身できない今では足手纏いにしかならずただじっとしていることしかできなかった。

 そんな一の様子がおかしいことに優は気づいた。しかその隙をつかれ、怪物の頭に生えた鋭いツノを優の腹に勢いよくぶつけた。

 その衝撃により後ろへと吹き飛ばされてしまった。


「矢車!」


 腹部を押さえて倒れ込んでいる優に、一はいち早く駆け寄った。


「矢車、大丈夫?」


「う、うん。何とか……」


 一に支えられながらも、どうにか踏ん張って立ち上がる。


「あ、その、ライドクイル……無くした」


「え……」


 一の衝撃の一言に、優は一瞬だけ思考が止まった。メサイアに変身するための大事なアイテムが無くなった。つまり今の一では怪物と戦えない。それすなわちここにいては命が危ない。


「えっと、あっと、その、えっと……隠れてて!」


 必死に考え思いついた答えを告げるとすぐに怪物に向かって走りだした。

 一も優に言われた通りすぐに近くの物陰に移動し、優を見守る。

 アビステイルを何度も真っ白な体の表面を切り裂くが、羊毛に見えるそれは鉄のような硬い装甲になっており、全くダメージが入らない。ふわふわとした見た目に反してかなりの強度をほこっている。

 さらに地面を太くがっしりとした足で地団駄する。それにより地面が強くゆれ、アスファルトにメキメキとヒビが入る。足場が安定しない優に対し、再度頭突きを繰り出した。


「矢車!」


 一の青い瞳の中に、ボロボロな状態で宙を舞う優の体が映り込む。このままでは優の命が危ない。


(俺が無くしさえしなければ、俺のせいで……)


 もう二度と失いたくない。そんな想いが心臓から血管を通して全身に行き渡る。

 一はコンクリートの瓦礫から溢れた鉄パイプを手に取る。こんなものであの凶暴な怪物を倒せるはずがない。それでもピンチに陥っている仲間を放っておくことなどできやしない。

 覚悟を決め、立ち上がったその時——何かが自分に飛んできていることに気がついた。

 咄嗟にキャッチすると、それは一が無くしたライドクイルだった。


「これは……」


「やっぱり天乃君のだったんだ」


 声の方を振り返ると、そこには何と狼樹が立っていた。しかも目の前に怪物がいるという状況に対し、やけに冷静だった。


「資料室に落ちてたよ。それ、大事なものでしょ。すぐに取り出せるようにしたいのは分かるけど、ちゃんとカバンの中に入れておかないと今日みたいなことになるよ」


 一に対して優しく注意する。まるでそれが何のために使うのか、知っているかのような口ぶりだった。


「えっと……どうして宝田君が」


「説明は後、俺も手伝うよ」


 そう言うと、狼樹はカバンの中から青鈍色のライドクイルを取り出した。


「それって、もしかして!」


 狼樹は腰のパレッドライバーにライドクイルを漬ける。筆先に青鈍色の光が宿る。インクを地面に垂らすと、青鈍色の光が狼樹を包み込む。

 青みがかった灰色色の鎧、狼のような仮面、両腕の手首からは鋭いかぎ爪が生えており、日の光が反射している。

 それが、狼樹が変身した姿だった。

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