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紺碧のメサイア  作者: 蒼空駿
第1章
2/12

第1章2話 覚悟を決めて

 ——————

  1

 

「こ、これって……」


 青白い鎧に一角獣の仮面。右手には白く神々しい刃を持つ剣、ヒールホーンを携えている。まさしく聖騎士のような姿だった。そんな自分の姿に気を取られていると、二体の子蜘蛛が襲いかかってきた。

 一は瞬時に右手に持つ剣で、うち一体の首筋を先端で突く。そしてもう一体の腹を切り裂く。二体から血液が飛び散り、黒い返り血が白い鎧を染め上げる。


(す、すごい。これなら、)


 体中を高揚感が湧き上がる。あんなに恐ろしかった化け物を圧倒出来る程の力。一が求めていたもの。剣を二体に突き立てる。二体は狼狽えながらも、まだ一に対して攻撃の意志を見せている。そんな二体に一撃を加えようとしたその時、突然横から母蜘蛛から不意打ちを食らった。視界の外から鋭い爪で裂かれ、子蜘蛛と距離を取られてしまう。母蜘蛛は二体と合流し、屋根の鉄板を突き破って去ってしまった。

 今から追いかけて間に合うだろうか。そんな事を考えながら怪物が空けた穴をじっと見ていると、一を怪物から助けてくれた黒い龍の戦士が近づいてきた。


「あっ……」


 戦士は無言で一を見つめている。互いに少し気まずい空気が流れる。

 助けてもらったお礼、怪物とこの姿の事。山ほど疑問が浮かんできて、何から言えばいいのか。


(というかこれ、元に戻れるの?)


 突然心配事が浮かぶが、それを一蹴するように、鎧が白い粒子となって大気中へと消え去っていった。


「あっ、良かった……」


 安堵する一を見つめながら、龍の戦士も変身を解く。鎧から色が抜けていき、完全に真っ白になると、粒子となって消えていった。


「え!」


 鎧が消えて姿を現したのは、クラスメイトの矢車優だった。


「や、矢車君⁉︎」


 まさかの人物に脳がパニックを起こしている。怪物に襲われ、謎の戦士に助けられ、自分も変身して、そしてクラスメイトまでもが。立て続けにありえないような事が起こったせいで処理が追いつかない。

 そんな一を他所に優は変身解除後も変わらず見つめている。


「えっとその、助けてくれてありがとう。それでその……これって一体」


 何とか整理して、拙いながらも何とか言語化に成功した。


 その疑問を聞いて少し考えるように、優は俯いている。そして早足で一に近づき、小声で「ついてきて」と言い、右手を掴んで引っ張るように廃工場をあとにした。


(喋ってるとこ見るの初めてだな……)


 初めて聞いた優の声。繊細でどこか透明感のようなものがあり、尚且つしっかりと芯のある声だった。

 

 

 

  ——————

  2

 

 優に引っ張られてやって来たのは、姫華が営業している喫茶店だった。扉を開けると、カランカランと鈴の音が心地よく耳に入る。中ではカウンター席で暇そうに本を読んでいる姫華がいた。鈴の音で気がついたのか、すぐに一達に顔を向けた。

「あ、おかえり優。一君も来てくれたんだ。お姉さん嬉しいな」

 本に栞を挟み、すぐさまキッチンへと向かった。


「何か食べてく? サービスしちゃうよ」


「えっと……その」


「姉さん。天乃君も"メサイア"だった」


「……へ?」


 陽気に話していた姫華から、素っ頓狂な声が漏れる。目を見開き、わかりやすく驚いている。


(メサイア?)


 聞き慣れない単語に首を傾げる。状況的に、先程一と優が変身した戦士の事だろう。


「どちらかと言うと、なったばかりみたいで」


「てことは昨日のって……」


「そういう事だと思う」


 昨日というと、一が倒れた事だろう。どうやらあの原因不明の体調異常による失神が関係しているようだった。


「あ、あの、」


「ごめんちょっと適当に座ってて! 一旦飲み物準備するから」


「あ、お気遣いなく」


「遠慮しないの」


 姫華がそう言ったあと、優は近くの椅子を引き、座るように促す。一はその席に座ると、真正面の席に優は腰を下ろした。


「一君はコーヒーと紅茶どっちが好き?」


「えっと……コーヒーで」


「砂糖とミルクはいる?」


「お願いします」


「了解」


 姫華はキッチンでテキパキと三人分のドリンクを用意する。

 待っている間、二人の間に沈黙が流れていた。気をそらすために店内を見渡す。中はそれほど広いわけではないが、陽の光が床のフローリングや白い壁を照らして、全体的に温かい雰囲気を纏っている。外装はモダンなデザインだったが、内装はどちらかといえば森のコテージに近い雰囲気だった。あらかた見終わると、また気まずくなる。優はずっと俯いたままだった。


「あのさ、矢車君が変身した姿、かっこよかったね。ドラゴンみたいで」


 その言葉に優は一の方を向き、しばらく見つめていた。が、ボソッと何かを呟きながらそっぽを向いて、再び静寂に包まれた。


「あ、あの」


「ごめんね一君。優はかなりシャイでね、機嫌悪いとかじゃないんだ」


「そ、そうなんですか?」


 優の方を向くと、少し頬を赤らめている。どうやら事実のようだ。


(だからあんまり喋らないのかな? でも、気を悪くした訳じゃなくてよかった)

 

 

 

  ——————

  3

 

「さてと、それじゃあ色々と説明しなきゃだね」


 姫華がいれたカフェオレを飲んで一息ついたのち、本題に入った。


「まずは何から説明すればいいかな。やっぱり一番気になるのは君が変身したあの姿だよね」


「はい。確か、メサイアって言ってましたよね」


「そう。現代科学の域を超えた力を秘めた鎧と仮面を身にまとって戦う、それをメサイアって言うんだよ。変身する時、羽根ペンとベルトみたいなの出てきたでしょ」


「は、はい。これです」


 一はポケットからあの時の青白い羽根ペンを取り出した。

 姫華曰く、これは"ライドクイル"。ベルトは"パレッドライバー"というらしい。この二つが、人間をあの姿へと変えるらしい。

 そしてあの怪物の名は"フォート"。なぜ人を襲うのか、どこから現れるのか、何もかもが謎の生命体。わかっていることは、クモのような既存の生命体に似た力を持っていること、奴らに知性はないことだけだ。

 メサイア、ライドクイル、パレッドライバーと、普通に生きていれば聞く事のない単語を脳内で必死に咀嚼する。未だに現実感が無く、夢ではないかと疑ってしまうほどだ。試しに太ももをつねってみると、しっかりと痛覚を感じる。


「でも、どうして俺は突然そんなのになったんですか? 今まで普通に暮らしてきただけなのに」


「それは優も含め、みんな同じだった。普通に暮らしていたはずが、突然力に目覚めて戦うことになった。ただ共通点としては、なんの前触れも無く意識を失った。そのあとに力に目覚めたんだ。おそらく君が倒れたのもそういう事だろう」


「あの、それって理由が分かったりしますか?」


「いいや全く。どうして倒れたのかも、どのようにして力を得たのかも全くの謎なんだ。手がかりもないし調べようがない」


「そうですか」


 一度落ち着くためにアイスカフェオレに口をつける。コーヒーの苦味にミルクの甘さがアクセントになって、丁度良い味になっている。ガムシロップの甘さが疲れた脳にしみわたる。

 頭の中がほぐれてくると、先程の会話に気になる言葉を見つけた。

 "優も含め、みんな同じ"

 それはつまり、他にもまだいるということだと解釈出来る。


「あの、俺と矢車君以外にもいるんですか? メサイア」


「いるよ。この町にもあと二人。世界中探せばもっといるんじゃないかな」


「そ、そんなに? なんだか、すごいな……」


 だが、一つ不可解な点が浮かび上がる。世界中にいるのであれば、そこにもフォートがいるかもしれない。しかし、怪物とそれと戦う戦士がいるだなんて話、聞いた事がない。この町に関しても、三人もいればもうとっくに耳に入っていてもおかしくないどころか、メディアでも取り上げられているはずだ。


「あの、フォートが暴れてるなんてニュース、今まで見たことないんですけど。それはどうしてなんですか?」


「あーそれに関しても説明しないとだけど、もうそろそろ帰った方が良い時間じゃない?」


 そう言われて時計を見ると時刻はもうすぐ六時になろうとしていた。窓からはオレンジ色の光が店内に差し込んでいる。クリーム色の床にさらに温かみが追加され、見ているとどこかほっとする。


「明日またここに来て。土曜日だからじっくり話せるだろうし」


「分かりました。今日は色々とありがとうございました」


「じゃ、また明日ね」


 姫華に見送られ、一は店を後にした。扉を開けると、来た時と同じく鈴の音がする。九月の前半だからか、まだまだ太陽は元気にオレンジの光を放っている。昨日と同じ光の下帰路に就いた。

 

 

 

 一が帰ってすぐあとの喫茶店。姫華は閉店の準備を進める。一と二人きりの時とはまた違った静寂が店内に流れている。


「にしても、クラスメイトがメサイアになっちゃうなんてね」


 姫華に話しかけられるも、優は何も返事ができないでいる。


「仲良く出来そう?」


「わからない」


 どこか不安げな表情をしている優。優はただじっと、コップに残った氷を見つめていた。

 

 

 

 ——————

  4

 

 その日の夜、布団の中で今日起こった出来事について、ずっと頭で考えていた。

 一番に思うのは、今後あのような場面にでくわした時、戦わなければいけないのか、ということだった。

 フォートに襲われそうになった時、恐怖で足が動かなかった。火事場の馬鹿力のようなもので乗り越えはしたが、次遭った時に同じように戦える自信はない。

 帰り道、一人になってからあの時の恐怖が蘇ってきた。得体の知れない化け物に危うく殺されかけたのだ。鋭いキバ、六本もある腕、人間とは比べ物にならないほどの力を持った異形の怪物。正直、近づきたくなどない。

 そして襲ってきたという事はやはりたくさん人を傷つけるということだろうか。そうなってしまってはどれだけの人間が犠牲になるのだろうか。考えただけでゾッとする。

 戦うことは怖い。だが、力そのものは一にとってはとても魅了されるものだった。

 目を閉じると蘇る、あの日の記憶。どれだけ悔やんでも戻らない、大切な人と過ごした日々。

 青白い羽をそっと撫でると、変身した時の感覚を思い出す。

 どこまでも力がみなぎり、どんな相手でも勝てるような高揚感。おおよそ変身前とは比べ物にならないほど自信に溢れていた。


(あの力なら、きっと誰でも救えるのかな?)


 ずっと求めていた力。自分に出来る何かが、そこにはあるような気がしていた。

 

 

 

  ——————

  5

 

 昨日はあまり寝付けなかった。

 何度も何度も同じことをグルグルと考え込んでしまい、頭痛と関節痛により寝起きは最悪だった。

 どうにかして脳を起こし、喫茶店へ向かうため家を出た。時刻はお昼すぎ。暦ではもう秋だというのに、夏の暑さがまだまだ抜けない。干上がったアスファルトの上から熱が伝わってくる。これからまた大切な話をするというのに、脳のコンディションは最悪だった。

 そんな時、頭の中で声が響いた。怪物が唸っているような声。昨日と同じ声。取り逃した蜘蛛のフォートの声だ。


(行かないと!)


 声が聞こえたという事は誰かを襲っている可能性がある。絶対に誰も犠牲になどさせまいと、すぐさま方向を変え、声のする方へと走りだした。

 

 

 

  ——————

  6

 

 辿り着いた場所は古い商店街だった。ほとんどの店にシャッターが閉められており、人も全く見られなかった。

 そして天井には昨日と同じように巨大な蜘蛛の巣が貼られてあり、三体のフォートが這っていた。

 三体は一の存在に気がつくとすぐに地面に降り立った。


(大丈夫。昨日みたいにやればいいだけだ)


 一はすぐにライドクイルを構えるが、その手は恐怖で震えていた。

 変身すればいい。ただそれだけのことのはずが、その一歩すら踏み出す事の出来ない恐怖が、一の体を支配していた。

 躊躇っているうちに、一体が一に飛びかかり、鋭い爪で引き裂こうとした。

 寸前のところで回避したため、頬を掠めるだけにとどまった。左頬の切り傷から、じゅるりと血液が流れる。痛みがじんじんと脳をつたって全身へと流れ込んでくる。頬に触れると、指先が鉄臭い赤に染まる。目の前の異形の化け物によってつけられた傷。確かな殺意によって漏れ出る赤。自分が今立ち向かおうとしていたのは、人を簡単に殺せてしまう程の力と意思を持った怪物。その事実を嫌でも再認識させられてしまう。


(やっぱり……戦って勝てなかったら死んじゃうのかな? 怖い……死にたくない……)


 恐怖で足がすくんでしまう。死への恐れが全身の筋肉を強ばらせる。左頬の痛みが余計にそれを強調してくる。そんなもの知った事かと、フォートは一に対する殺意を消さない。もうダメだ。そう思ったと同時に声が聞こえた。

 

 

 

「助けて!」

 

 

 

 あどけなさのある少女の声。

 振り向くと、小さい女の子が一体の子蜘蛛に襲われそうになっていた。壁に寄りかかり、腰が抜けたのかずっと尻もちをついていた。体中震えており、顔は涙でぐちゃぐちゃになっている。


「誰か来て! 助けて! お母さん! お父さん! 助けて!」


 震えている声で必死に助けを呼んでいる。大声を出して無意識に恐怖を外に追いやろうとしている。このままでは年端のいかない少女が凄惨な死を遂げてしまう。どんなに声を出しても、誰にも届かない。今この場にいるのは、一だけだった。その事実が一にある感情を呼び覚ました。

 それは自分に対する"失望"だった。


(なんでまだ、怖いとか感じてるの? 死にたくないとか思ってるの? あれだけの事をしておいてまだ……)


 覚悟は決まった。元より決めているはずだった。分かっていたはずだった。自分がどれくらい死を怖がっているのか。その事が余計に自身への嫌悪感を強めた。

 一は立ち上がり、ライドクイルを手に取る。青白いインクに包まれその身に鎧を纏う。そうして一は変身した。全ての人々を守る騎士、一角獣の戦士に。

 

 

 

  ——————

  7

  

 変身するとすぐに、少女を襲っていた子蜘蛛に飛び蹴りをかける。的確に腹に命中し、少女から引き剥がした。


「大丈夫?」


 少女に駆け寄ると、涙でぐちゃぐちゃになっている顔に、少しの安心の色が出ていた。


「絶対に守るから。」


 そうして吹き飛ばしたフォートを睨む。邪魔をされた事への怒りか、鼓膜が破れそうなほど大きな声で吠えている。一の後ろにいる二体も加勢しようと、一に攻撃を仕掛けようと迫る。

 だが、壁をぶち破り現れた優が間に立ち塞がった。しかし母蜘蛛は臆すること無くすぐに飛びかかる。その隙にもう一体が一の元へ駆け出す。

 そうして向かってきた子蜘蛛の強襲を剣で受け流す。その間優は母蜘蛛に漆黒の刃、"アビステイル"を向ける。

 一は子蜘蛛二体と交戦する。子蜘蛛は口から糸を吐いて動きを封じようと一の体を拘束する。白いネバネバの糸が一の体にまとわりつく。しかし一角獣の剣の前では紙切れのように切り裂けてしまう。その鋭利な刃を何度も二体に浴びせた。正面から来れば腹を切り裂く。飛びかかってくれば鋭利な刃で突き刺す。その度に黒い血が流れ、地面にもドロドロとした液体が染み付いている。返り血がかかろうと構うことはない。

 一の怒涛の攻撃に二体は倒れ込むが、一体がすぐに起き上がり、苦し紛れの突進を仕掛けた。

 一は剣に力を込める。その刃に青白い光が宿る。神秘的な光を放つ刃で、邪悪を溶かす技、"セイントスラッシュ"で子蜘蛛の腹を裂いた。

 すると子蜘蛛は吐血し、切り裂かれた箇所から黒い塵となって消え去った。

 優は母蜘蛛の攻撃に対してものともせず攻撃を連続で掛けた。龍の鱗の如き鎧は、母蜘蛛の鋭い爪に対してもビクともしない。

 母蜘蛛は口から球体状の糸を吐く。優はそれを素早く避けるが、その先にはあの少女がいた。


(しまった!)


 糸の弾丸が少女に迫る。が、一が少女の前に立ち、球体を真っ二つに切り裂いた。そのおかげで少女は無傷ですんだ。


「隠れてて」


 少女を建物の影に隠れさせ、一は再び子蜘蛛と交戦する。


(よかった)


 安堵した優はすぐに母蜘蛛に向き直る。黒く輝く剣に力を込める。刃に紫の光が宿る。その様子に危機感を感じたのか、母蜘蛛はすぐさま逃げ出そうと後ろを振り返った。もう逃がすまいと走り出し、逃げられる前に腹部に斬撃を加えた。


 切った相手を幻へと返す技、"ファントムスラッシュ"。

 母蜘蛛の胴から上がずり落ち、黒い粒子となって消えた。

 残るは子蜘蛛ただ一体。二体とも倒され、もはや勝ち目など無いはずが、それでも戦う意志を見せている。なけなしの唸り声で威嚇をし、虚勢を貼るので精一杯だった。

 一はベルトの右側にある鞘に剣を納めた。そしてそのまま勢いよく飛んだ。子蜘蛛に向けて右足を突き出し、鞘に納めた刃と共に敵に光を打ち込む技、"ホーリースパイク"を繰り出す。子蜘蛛も両腕を突き出して耐えぬこうとするが、呆気なく打ち破り、その体を貫通した。針のように鋭い一撃が怪物の息の根を完全に止める。

 そうして子蜘蛛も、粒子となって消え去った。


「やった……倒せたんだ……」


 一は安堵しつつ、変身を解いた。そして真っ先に少女の元へと向かった。少女は不思議そうに辺りを見渡しており、その顔に恐怖の感情は無かった。


「もう大丈夫だよ。怪物はお兄さん達が倒したから」


 腰を下ろし、少女に目線を合わせて声をかけた。


「誰……怪物って?」


「……え?」


 少女はキョトンとした表情で一を見つめた。とても惚けているようには見えない。ショックで記憶が混乱したにしてはあまりにも不自然だ。


「覚えて……ない?」


 少女の様子に違和感を覚えていると、後ろから優に肩をポンと触れられた。


「その、店で、説明」


 優が少し緊張した声色で、たどたどしく話した。その言葉の意図を理解し、優と共に静かな商店街を後にした。

 

 

 

  ——————

  8

 

「フォートのことを忘れる?」


 戦いの後すぐに姫華の喫茶店で昨日の続きを話していた。店内に流れる音楽が戦いで疲れた体を癒してくれる。アコギのオシャレな音が心地よく耳に入ってくる。


「そうなんだ。どういう訳か怪物に襲われたり、目撃した人達はそのことを全く覚えていないんだ」


「じゃあ怪物に襲われて、その……死んでしまった人はどうなるんですか?」


 一の疑問に姫華は少し俯きながら答える。その様子から何とかなく察しがつく。


「原因不明の死、死体が見つからなかった場合は行方不明っていう扱いを受ける。ニュースでたまに人が失踪したって出るでしょ。全部とはいかないけど、フォートが関わってる可能性はあるよ」


 その事実を聞いてどうしようもない悔しさを感じた。体の底から吐き気がする。胃の中の物が食道から昇ってくるような不快さに襲われる。


(知らなかった)


 行方不明になったというニュースは新聞やテレビで見た事がある。まさかのそれらがあんな人智を超えた存在が引き起こしていたとは夢にも思わなかった。それだけではない。襲われた人達はもう戻らない。それはどこかで生きているのではないかと信じている遺族の人達の希望を打ち砕いてしまうという事も同然だ。もしもっと速くメサイアになれていたら、これまで犠牲になった人達やその家族友人が絶望の底に突き落とされることも無かったかもしれない。力があれば、何もかも違ったかもしれない。いくら悔やんでも悔やみきれない。


「でも、君がメサイアになってくれて良かったよ。おかげで戦力も増強出来たし、他の二人も喜ぶよ」


 その言葉にハッと気付かされる。いくら悔やんでも犠牲になった人達は戻る事はない。ならばこれからだ。もう二度と犠牲は出さない。誰も死なせたりなどするものか。そう内心で意気込んだ。


「ところで他の二人はどんな人達なんですか?」


 この街には後二人メサイアがいるという。自分や優と同じく怪物と戦う力を持つ人達。それがどんな人物なのだろうかと気になるところだ。


「あーまぁすぐ会えると思うよ。同じ学校の同級生だし」


「お、同じ学校⁉︎」


 驚きのあまりガタッと音を立てて椅子から立ち上がってしまった。机の上の三つのカップが振動する。一の勢いに優も思わずビクッと体を震わせた。


「まぁだから、しばらくお楽しみってことにしておきなよ。二人とも良い子達だからすぐ仲良くなれると思うよ」


 姫華の言葉に同調するように、優も小さく頷いた。


(どんな人達なんだろう。会ってみたいな)


 椅子に座り直すと、自分のアイスカフェオレを口にいれる。立ち上がった時に中身が少しでたのか、コップに少しクリーム色の雫が付着していた。


「まっ、何はともあれこれからよろしくね、一君。ほら優も挨拶して」


 そう姫華に急かされる。少し顔を俯かしているが、意を決して口を開いた。


「と、よろ……しく。天乃……君」


 緊張しているのか、たどたどしく言葉を口にしている。


「うん。よろしく。まだまだ頼りないけど、仲間として精一杯頑張るよ」


「仲間……」


 その言葉を聞いて、優の頭に過去の記憶がよぎる。

 

 

 

"俺たちはずっと友達だからな"

 仲の良かった四人の少年たち。いつからだろうか。全てが崩壊してしまったのは。

 

 

 

"はっきり言ってウザイんだよね、お前って"

 ずっと友達だと思っていた。けれども現実は違った。

 

 

 

(ちゃんと……信じられるかな……)

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