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「……分かった。アレンは……新しい皇太子が立ち次第廃嫡」
そのころ場に、アレン殿下が声を上げた。
「どうしてですか!他に誰がいるというのです!私は何も悪いことはしていない!はめられたんだ!父上も聞いていたでしょう!隣国に乗っ取られてもいいんですか!」
陛下が大きくため息をついた。
「嵌められるような愚か者では、遅かれ早かれ国はだめになるのでは?」
アレン殿下がグッと悔しそうな顔をする。
「至急会議を開く。新たな皇太子を選ばねばならん」
おじい様が陛下を引き留めた。
「お待ちください。男系男子は国内にいるではないですか」
「なんだと?」
え?王妃教育で学んだ貴族名鑑にはなかったはずだ。すでに昔臣籍降下した王子も男子が続くことがなかった。どこかで女児しか生まれなくなっていたはずでは?
「6代前の第二王子が隣国に嫁いだでしょう」
その言葉に貴族が声を上げる。
「だから、隣国に国を明け渡す気か!」
「正気じゃない!」
おじいさまが続けた。
「その第二王子には3人王子がいた。一人は新たな公爵家となり、もう一人は侯爵家に婿入りした。侯爵家に4人の息子が生まれ、そのうちの一人が伯爵家に婿入り。さらに伯爵家ではなんと7人もの息子が生まれた」
おじい様の言葉に、皆が顔を見合わせた。
「なんてことだ……。隣国ではそれほど男児が……」
おじいさまは調べてくださっていたんだ。
貴族名鑑は他国に嫁いだ者がどうなったのかまでは記されていない。もちろん、他国に訪れる時には他国のことも学ぶけれど、せいぜい3代前くらいまでだ。
「その一人は家を飛び出し商人になろうと我が国に来た。そして、我が国の子爵令嬢と恋に落ち婿に入った」
おじい様の言葉に、陛下が声を上げた。
「今すぐ調べよ」
「我が国の貴族であれば隣国の属国になることもあるまい」
おじい様が言葉を続けた。
「急ぐことはない。その子爵の息子はここにいる。6代前の王子の子孫、そして、3代前の女王の血を引く公爵令嬢、二人が結ばれれば、王家の血が薄すぎることもないのではないか?あの時、唯一我が孫の身を案じて駆け寄ったユメア嬢と、ルイーゼの身を案じて公爵家に安否を尋ねに訪れたカーク殿だ」
おじい様が、カーク様のと私の肩を抱き、一歩前へと押し出した。
「え……カーク様が……皇太子に……?」
拍手が沸き起こる。
「カーク殿下万歳!」
私たちの周りにいた者たちが声を上げた。
反対する者たちの怒号も聞こえるが、それ以上にカークを新しい皇太子にと望む声が大きい。




