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辺境伯は王都へ顔を出すことは少ないため侮る者もいるが、公爵と同等の地位にある。
「お集りの皆に問う」
おじい様が、大階段を数段上がり、振り返った。
「アレン殿下に王太子としての、未来の王としての資質があるとお思いか?」
貴族たちがざわつく。
「調査もせず人を陥れ、感情に任せて人を傷つける。このような男に国を任せられるのか?」
おじい様の声が会場に響く。
「だが、王子は一人しか……」
「そうだ、男系男子……王位継承権2位の者など」
「陛下に頑張っていただきお子を作っていただくか?」
「やはり早く女系男子も認めるべきでは」
「とりあえずアレン殿下はそのままで実権を取り上げることで……」
おじい様がひときわ大きな声を出した。
「次は誰だ。お前か?お前の娘か?孫か?ああ、私かもしれぬな。当然の抗議も不敬だと首をはねられるかもしれぬ。独裁の始まり。皆の言う通り、他にいない、王子が一人、だから、このような無能でも仕方なく皇太子にしている。それでこの国の行く末は大丈夫だとお思いか?」
貴族たちが不安げな目をして周りの者たちと視線を交わしている。
「騙されるな!俺は知ってる!隣国の策略だ!」
突然声が上がった。
「男系男子を探せば、隣国にいるはずだ。何代か前隣国の王女の元に王子が婿入りしただろう」
「なんだ、ということは隣国の王族に男系男子が……」
「すでに、隣国ではなぜかアレン殿下が廃嫡されるとの噂も出ている。この国は隣国の属国になるのではという声も上がっている。アレン殿下を皇太子から降ろすべきではない!」
様々な声が上がるなか、おじい様は再び大階段を下り、私の元へと着た。
そして、ベッドに横たわって意識のない私の体を抱き上げた。
「可哀そうな我が孫。誰も、助けようとしてはくれなかった。お前たちの誰も!」
ぞろぞろとおじい様の周りに貴族たちが集まってきた。
「私も抗議いたします。レオン殿下は皇太子としてふさわしくはない」
「同じく。例え公爵令嬢ではなかったとしても、女性にあのように手をあげる方には忠誠は誓えません」
私たちを、数十人の貴族が取り囲んだ。
無視できない人数だ。それを見て、私たちのまわりへと移動を始めた貴族もいる。
「陛下はどのようにお考えか!」
大階段をアレン殿下の後に下ってくる予定だった陛下と王妃様が姿を現した。
ずっと階段の上のカーテンの奥でこの様子は聞いていただろう。
だが、様子は見えていなかったようだ。
痛々しいルイーゼの姿を見て王妃様は息をのんだ。
王妃教育として接していたときの姿はそこにはない。わずか数日のうちにここまで衰えてしまったのを見て恐怖をのような感情を覚えたのだろう。
陛下は、私たちの周りに集まった貴族の数の多さに驚いている。




