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*残酷描写あり DV的な*
青ざめる私に気を使いながらマーサは話を続けた。
「奥様はマリーさんを助けようと何度も旦那様を諫めました。それが気に食わなかったのか、旦那様はルイーゼお嬢様を身ごもっていた奥様に手をあげることもあり、旦那様と近づけないようにしました。それをいいことに、旦那様はマリーさんにますます執着するようになり……」
マーサが顔を伏せた。
「何度かマリーさんを医者に見せもしました。当時の医者は覚えているでしょう」
医者に見せる?いったい何が……。
「このままではマリーさんは殺されてしまう。そう危機感を覚えて、奥様が逃がしました。旦那様に見つからないように、遠くへ。お金を渡し住むとこと仕事も用意して……」
お母様はマリーさんに嫉妬するどころか、マリーさんを助けていた……。
追い出したのではなく逃がした。
お父様が正気を失っていたと……。
「見つかるといけないからと、それ以降誰も連絡を取ってはいなかったのですが……。まさか、旦那様が居所を突き止めていたとは……。ユメア様を連れてこられた時には心臓が止まるかと思いました」
いいえ。本当はユメアはマリーの子ではないの。
「マリーさんのような執着を見せるのかと思って心配しておりましたが、娘としてかわいがっている様子を見て当時のことを知っていた使用人はほっとしました。ですが……その分ルイーゼお嬢様にしわ寄せが行ってしまい、なんとかしようと旦那様に何度も申し上げたのですが……」
それに腹を立てて、お父様は昔からいた使用人を次々辞めさせたのね。
娘としてかわいがっているか……。
もしかして、ユメアが娘でないと知ったら私はどうなるのだろう?
ぞっとして背筋が寒くなる。
「ああ、そういえば……」
マーサがふと顔を上げて私を見た。
「ユメア様は、マリーさんの名前を……お母様の名前を聞いていたのね」
「え?」
「マリーさんは、旦那様に見つからないように名前を変えて過ごしていたでしょう?何という名を名乗っていたの?」
名前を変えて?
「カ、カメア」
ユメアが口にした名前を言う。
「まぁまぁ、マリーさんは、奥様に感謝して奥様の名前から付けたのね」
お母様の名前はカリアーナ……カメア……カリアーナ……。
まさか、カメアと言う名はマリーの偽名……。ユメアは、まぎれもなく、お父様の子……。私の異母妹……!
きっとマリーの足取りを追って調べればわかるはず。
なんだ……。じゃあ、ユメアが公爵令嬢を語って皇太子の婚約者になるという話が罪に問われることはなくなるのか……。私……ユメアが死刑になることだけは……なくなるのか……。
あはは……。
死んでもいいかななんて思ったけど、生き延びられそうだ……。
ホッとして涙が落ちる。




