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カーク様の姿が見えた。
声をかけると、カーク様も私に気が付いたようだ。
「ユメア様、あの、ルイーゼ様はご無事なのですか?」
「なぜ、そこまで気にしていただけるのですか?」
なぜ、あの時は助けてくれたのだろう。そのせいで罪をかぶせられて殺されてしまった……。
「学園に入ったばかりのころ、僕はとても訛っていたんです。ずいぶんそれでいじめられていたんだ」
学園生活を思い出す。カーク様との接点はそれほどなかったはずだ。
「そんな時、ルイーゼ様が『あなたの話方は隣国の方に似ているわ。もしかしてあちらの言葉をお話になれるの?』と声をかけてくださいました。そうだと答えると、隣国の言葉でいくつか質問をされ、最後に『本当に流暢に話せるのね、外交官としてお城勤めをされるのかしら?通訳が必要な時にはお願いするわ』と言ってくださいました」
「たった、それだけのことで……」
あの時私に手を差し伸べてくれたと言うの?
どんなお咎めを受けるか分からないのに……。
「たったそれだけのことと、思われるかもしれませんが、たったそれだけのことで救われるんです。かけがえのない大切な人になるには十分なんです」
たったそれだけのことで、かけがえのない大切な人に……。
分かる……。
私にとってカーク様は特別な人になった。
あの時、抱き上げて牢へと運んでくれた、たったそれだけのことで。
助けます。カーク様。殺させやしない。
「ルイーゼお姉様は大丈夫ですから。医師には打撲で骨も折れていないと」
私の言葉にほっと息を吐き出すカーク様。
「よかった……」
「分かったらもう、公爵家へは近づかないでください……いいえ、近づくなんて許しません。子爵家の分際で公爵家とつながりが持てるとでも?」
急に厳しい口調になりカーク様が頭を下げた。
「も、申し訳ありませんでした」
「早く立ち去りなさいっ!また冤罪をかけられても知りませんわよ!」
あとは門番が追い返してくれるだろう。
背を向けて、歩き出した。
もしルイーゼお姉様の見舞いに屋敷に一歩でも入り込んだら……。犯人に仕立て上げられてしまうかもしれない。
せっかく巻き戻り前の冤罪を回避できたというのに。
カーク様は何としても助けてみせる。
ゆっくりしている暇はない。
公爵家にいつまでもルイーゼをとどめておくのは危険だ。
目が多すぎる。
本当に生きている間に、療養に向かうと移動しなければ。
田舎で療養するとなれば、流石にカーク様ももう関わることはないだろう。
それに、マーサや他の私によくしてくれた使用人とも引き離せば、彼女たちに罪をかぶせられることも無くなるはずだ。
マーサはついていくと言うかもしれない。
だから……。
お母様の話を聞いたら、父に解雇してもらわないと。
私の勝手で振り回して申し訳ないけれど……。




