22
急がなければ。ルイーゼが亡くなれば、世話をしていたマーサはまた屋敷から去るだろう。
それまでにお母様の確かめなければ。
すぐにでも聞くべきだ。そう思うのに。部屋の中から聞こえる言葉に足がすくむ。
「さぁ、ルイーゼお嬢様、お食事が運ばれてきましたよ。食べましょうね」
優しいマーサの声。
「喉もカラカラでしょう?唇もかさついてしまったわね。マーサが飲ませてあげますよ」
きっと、スプーンで根気よくスープやミルクを飲ませてくれているんだろう。
”私”が大切にされているみたいで心がポカポカする。
しばらくして、使用人がカートを押して出てきた。
カートの上のミルクが入っていたカップは空になっているものの、スープが少し減っている程度でパンも卵も残りはすべて手付かずだ。
使用人と入れ替わるようにして部屋に入る。
マーサは食事のために上半身を起こした私の体をベッドに戻そうとしているところだった。
「手伝うわ」
マーサが驚いた顔で私を見た。
「ユメアお嬢様の手を煩わせるわけにはっ」
首を横に振る。
「いいえ、私の……」
私の体だからと言う言葉を飲み込む。
「家族だもの」
家族のようなマーサの手伝いがしたい。そんな気持ちで姉と言う言葉を使わなかった。
ふわりと、マーサが笑った。
「ユメア様……ありがとうございます。私が居なくなって、姉妹で仲良くなられたのですね」
違うけれど、マーサがそう思うことで安心するのであればとあいまいに笑って返す。
二人でルイーゼの体をベッドに寝かせたあと、沈黙が訪れた。
私は、どう話を切り出したものかと頭を働かせる。
ルイーゼの母親のことを、ユメアが気にする理由をうまく思いつくことができなかった。
立場的に、たっずね方によってはユメアのことをマーサは不審に思い何も聞き出せなくなってしまうかもしれない。
ふとマーサが思いつめたように口を開いた。
「ユメア様はますますマリーさんに似てきましたね」
マリー、ユメアの母親とされる女性の名前だ。
「そんなに、似てる?」
ならば本当はカメアの娘でマリーの娘ではないと言っても、父親は信じないかもしれない。
「ええ、そっくりです……」
そっくりと言う言葉をなぜかマーサは悪いことのように口にした。
「……もし……」
マーサが、何かを言いよどむ。
「もし、辛いことがあれば、お逃げください。ルイーゼお嬢様なら助けてくれたはずです。今はこのような状態ですが……。私も力になります。辺境伯様に相談すれば協力してくださるはずです」
「え?別に、何も辛くは……」
ユメアは父親にかわいがられて何不自由なく暮らしている。
「でしたら、今の言葉はお忘れください。何もないのであれば、、それが一番ですので……差し出がましいことを申しました」
「差し出がましくはないわ。私のことを思って言ってくれたんだもの、マーサはいつもそうでしょう?厳しい言葉も全部私のために……」
はっと口をふさぐ。
ユメアの姿の私のためじゃない。
ルイーゼのためだ。




