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「分かったわ。お父様がお義姉様に毒を盛れと言ったわけではないということは理解できたわ。流石に当時は実の娘だと思っていた上に王太子の婚約者だったルイーゼお義姉様に毒を盛るように指示していたなんて、世間に知られればいくら公爵家でも立場が危なくなるもの……あら?」
今気が付いたかのように小首をかしげる。
「もしかして、カビたパンや腐ったスープを準備してルイーゼお姉様に毒を食べさせていたあなたたちは、どこかの家から指示されて公爵家を陥れようとしていたのかしら?」
集まった使用人たちが真っ青な顔をして口々に言葉を発し始めた。
「違います、私は旦那様とユメアお嬢様のために」
「黙りなさい。お父様のため?私のため?冗談じゃないわ。自分の罪を人に転嫁しないで。自分のためでしょう?自分んがお父様や私に目をかけてほしいからでしょう?そのために……そのためになら何をしてもいいと思ったの?人を傷つけてもいいと、蔑み馬鹿にし、害してもいいと?」
使用人たちが流石におかしいと思ったようだ。
急な私の態度の変化に不信感を持っている。……だめだ。まだ、聞きたいことがある。
「ルイーゼお姉様の怪我は王太子アレン様によるものです。もしこのまま亡くなれば、王太子が殺したことになります。不評が立つでしょう。そのためにルイーゼお姉様には生きていてもらわなければなりません」
突然の話題の変更に、使用人たちも何か私の態度の急変の理由がそこにあるのかと真剣な顔をして聞いている。
王太子の名前が出たことで、私が必死になっていつもと違う様子なのだと思ったようだ。
「……そして、もし亡くなってしまったら、毒を盛ったあなたたちに責任が及ぶ可能性があります。普段から毒を盛っていた人間、あなたたちの誰かが致死量の毒を与えた、怪我ではなく毒のせいで死んだ……そう言わざるを得ないでしょうね」
あなたたちを犯人にしたげ上げ差し出すと言ったようなもんだ。
「お父様のため私のためというなら、きっとアレン殿下のためにもためらわないんでしょう?脅されたわけでも命じられたわけでもなく、誰かのために自分の命を犠牲にして行動を起こすなんてねぇ、私には真似できそうにないわ」
私の言葉をどう受け止めるか。
毒を盛りなさいと暗に命じられたと感じるか。
それとも、冤罪で処罰されても助けたりしないと言われたと感じるか。
「セバス、それからアンナ」
家令と侍女頭の名を呼ぶ。
「この者たちの紹介状には微弱な毒を食事に混ぜ続けたということはきちんと明記しなさい。もしそれを怠り後でバレたときには紹介状を書いた者が責任を取らされます。ああ、そしてあなたたちも、ルイーゼお姉様が亡くなればどうなるか分かるでしょう?」
ベッドの上の異臭漂う汚れたシーツをつまみ上げる。
「アレン殿下が負わせた怪我が原因ではなく、こんなシーツに怪我人を寝かせたために病気になってしまったと言われたら?私もお父様も、命じてないわ。誰の責任かしら?流石に使用人が勝手にというのは、家令と侍女頭が言い訳に使える言葉じゃないわよね?」
二人ともぎくりと体をこわばらせる。