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けれど、王家は4代前から男児が生まれにくく、やっと血を繋いできている。アレン様も唯一の王子だ。
アレン様が廃嫡されると、王太子候補は、何代かさかのぼった傍系男子から選ばれることになるが、それが国内の混乱を招くことは明白。
我が公爵家も王家の血は流れているが、6代前の王弟の起こした公爵家だ。3代前に王女が嫁いできているため血だけでいえばそこまで薄くはないが、女系の血は序列が低い。
4代男児が生まれにくかったことで、女系の血の序列を上げようという派閥がいる。
そうすると、男児が生まれるまで子を設けた現陛下や先代陛下の娘が嫁いだ貴族が一斉に名乗りを上げるだろう。現陛下の娘が6人、先代陛下の娘が9人、それぞれの娘が産んだ男児の数は28人に上っているはずだ。
生まれた順なのか、王女だった母親の生まれた順なのか、後ろ盾となる父親の爵位の順なのか、女系の血の序列を決める法律を検討していたところでだったのだ。アレン様がひとまず王太子となっていたためまだ貴族が話合っていたところだ。
それなのに、アレン様が廃嫡されてしまえば、次の王位を狙う貴族たちが熾烈な争いを繰り広げるだろう。
だからこそ、私……ルイーゼは王太子妃となったのちには男児を設ける義務が課せられていた。男児が望めない場合は、男児が望めそうな側室をあてがうことも王太子妃の仕事の一つで……。
だから、特別な好きだとか私だけに向けられる愛だとかを期待もしなかったし求めもしなかった。むしろそういう感情は邪魔になると思っていたというのに。
肝心のアレン様が、愛を求め、婚約破棄をしよと考えていたなんて。
後先を考えての賢い選択とは思えない。
涙をぬぐうふりをしてため息をつく。
国が乱れていい事なんて一つもないのに。
何とかしなければ。
ルイーゼの体が死んだとしても、隠し通すことが一つだ。
死ななければそれが一番いい。
もし、死んでしまっても、回復したことにして、修道院に預けたことにでもしてもらおう。お父様ならそれくらいのことは”ユメア”が頼めばしてくれるだろう。
そうすれば、アレン様がルイーゼを殺したという事実は隠匿できる。
それからゆっくり日記は作り物だったという証拠を探せばいい。
お母様の名誉を回復する。ルイーゼを公爵家に呼び戻そうとしたけれど、このまま修道院で生涯を終えたいと言っているとかなんとか言えばいいだろう。
ふぅと息を吐き出す。
「殿下、申し訳ありません、少し体調がすぐれないので……」
「ああ、そうだな、こんなことがあったのだ……。大丈夫か?」
私に手を貸そうとするアレン様に何とも言えない怒りを感じる。
ルイーゼにはあれほど冷たい態度をとっていたのに、怪我をしても心配すらしなかったのに。