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第9話 雷夏vs海都月山牛頭梢vsシデン・レイラ

灼けた砂にせわしい足跡が重なる、打ち寄せる波風よりも激しく荒れてきた戦場で、たたかいのボルテージは偽物の太陽に背を押されて熱くなっていき、敵を討つため今秘めた思惑と技が煌めく。


「フフ慣れたか! 週刊ジャイアント、アニメ漫画の主人公みたいにッ!」

「アニメじゃないッ漫画じゃないッ!!! 慣れるわけないでしょっ【テクニカルスピン】!」

「うおっ──」


相変わらず力強く元気な剣と、汗水垂らしタイミングを測る剣はぶつかった。

白い凸オーラブロックは火花を散らし回転しながら青赤の強固な敵ブロックをいなし戦況を瞬間で変えてしまう。

シデン・レイラの助言は“立ち向かい決して立ち向かわない”

月山は打ち合いながら気付いた。剣と剣がぶつかればその身に当てれなくとも使い道はあることに。

万能ブロックを反時計回りに90度回転させて剣撃をいなす、右側を取った、さっきまでの邪悪な笑みが失せ面を喰らっている横顔が映る。月山雨楽楽は隙を見せた雷夏に噛みついた。

しかし雷夏は左真横から来る若い剣筋を、左手に握る剣を持ち替え受け止めてしまう。──不利な体勢から信じられない膂力を見せ大人気なくこの刹那に押し勝つ。

完全に意表を突き1本取ったタイミングだった、だがこれをやってのけるのが雷夏。

慢心はしていない……この敵に対してそんな余裕はない。無情にもここでも味わうは純然たる力量の差、月山はそのまま剣を弾かれ吹き飛ばされた。


「先生撃ちます! 【熱熱(以下略)】!」

「また撃ちますと言って撃つのかははは、…いいね! なんだそれは!」


熱々な技が飛んでいく。

クラスメイトの月山が必死で作り出した隙を今度は逃さない。

しっかりとハンドガンを両手に握り、以前まで迷いのあったトリガーは迷いなく引かれる。

楽天海都は堂々と雷夏先生を撃つと宣言した。


みんなの緑蜜ダンジョン部顧問みんなの雷夏ちゃん先生として、男子生徒の熱い誘いを避けるのは絶対的に野暮。ブドウ弾から花開き展開されていく赤い円形クレープ、それを雷電のオーラを纏わせた剣でぶった斬った。真っ二つに破られて左右に熱と熱は分かれていく、切り分けられた雷夏が注文していないクレープの残骸は青髪を追い越していき当たらない。


しかし失敗したアタックそれさえも3人はバトンリレーのように繋いでいく、それこそが3人である強み。敵のみせる隙から隙へと、またもどこからか放たれた援護バズーカの殺意を雷夏は身のこなしで避け──


「また噛み付くかツッキー! ん、速くなった? はっはっは戦いの中で急に成長につぐ成長か漫画カァァァ主人公!」

「当然一回でちょっとやそっとで勝てないでしょ! 1回1回じゃなく10回そこそこで負けて11回目全力で勝てばいいからァ! これで文句なし! ほんのちょっと漫画じゃん!でもいいでしょーー“極限ちょっとぉぉスピードアップ!”」


全てはこの瞬間のために、身を削りながら【Sショット】を自身に打ち込みスピードを極限までアップ。息を吹き返した月山は将棋の香車の駒のように、得た勢いで真っ直ぐシンプルな剣筋で青髪に突進。

その凄まじい刃を真正面から受け止めるも勢いあまって砂地をずざざざと荒らし滑っていく雷夏。

狡猾にもあえてこれまでの10戦で見せなかったDスキルチップの使い方を披露し、黒髪をヘアゴムでポニーテールに纏めギアを上げた美少女は青髪をひきずり圧倒する。


「はははそれは盲点だぁ夏ちゃん盲点だぁ!!! そういうのもありだったんだなダンジョン部! いいぞいいぞぉ♡」


「ツッキ…じゃなく月山さん撃ちます! 【巻く膜(以下略!)】!」


「だからイチイチ言っちゃダメでしょ! でもこれでハイパーモテギャップ月山雨楽楽っ、雷先生覚悟できてんのッぉ!」


たたかいの中で次々とエメラルド水着の美少女は変貌を遂げてギャップは作られた。

格段に戦闘力とスピード、それだけでなく内に秘めていたテンションを上げ、解き放った。


幾度も打ち合っていく、何合も、剣と剣は火花と青となないろのオーラを散らし、歯を食いしばり艶肌にためていた汗を飛ばし青と赤の強敵に挑む。

歯を食いしばりあい、必死なかのじょの汗を浴び、強敵は笑う。


「硬さにスピード万全でハイパーというわけか! はっはっは、いいね!──じゃあハイパーモテ夏ちゃん」


海都の援護射撃で失ったシールドを回復さらにシールドを強化、

背にさしたS字ブロックは翼となり海風を纏いスピード全開、


ハイパーモテギャップ月山雨楽楽VSハイパーモテ夏ちゃん。


対抗してまた1段階ギアをあげる、この女教師はもったいぶらない、生徒の本気に見合う力を解放した。

栃木、神牙流(じんがりゅう)の道場で学んできた一端……雷オーラをうすく全身に伝わせ肉体のレスポンスを底上げる。

打ち合い、打ち合い、月山雨楽楽の若い剣術その軌道を全て叩き返し盛り返した。


赤目を見開きニッと笑う。

勢い増す電光石火の狂気を受け止めるには荷が重い……。高校1年女子はこの馬鹿げた底の知れないチャンバラにはさすがにこれ以上酷くなるようなら付き合ってはいられない。


月山雨楽楽はそこそこに賢い、11回も試合すればわかる。予感はしていたきっとこのモードでもこの獣には遠く敵わない……。そして“ここだ”と決断した。


「やはり盛り上がるのは師弟対決だな! 絶対的にバチバチとくるぞっ!」


「冗談はゼッタイ冗談! 【冗談はテクニカルスピン】!」


「またそれか! おもしろいが、そればかりでは手羽先の小手さk…ナニ!?」


雷夏の振りかぶった剣を受けとめる素振りは月山雨楽楽のフェイント。

剣を消費し凸オーラブロックへと変換。その場から地を滑り回転回転のこりスベテのオーラ量を込めた大回転、戦場ビーチに砂嵐を起こした。


雷夏に剣を捨てたか弱い生徒は斬れない。


強引に迫られた択はひとつのみ、肉体の全レスポンス全力をもってして寸止めせざるを得ない。

激しい動きをピタリと止める力とは、激しく動きつづけるよりも易くない、それは当たり前のことだ。


青い瞳は不敵に笑う、あの狂ったぐらい元気な雷夏が苦笑いを見せる程に────凸オーラブロックがスピンし巻き起こす砂嵐は雷夏を吞み込んでいった。




これでやったのか……? そんなことを思っているものはこの場にはいない。

ここは部室ダンジョン、オーラの魔法砂嵐にその身を削られようとも、


────視界は明けていく。


健在する青髪は、剣をその場に突き刺し杖代わり。一歩も動かず生徒の全力をスベテ飲み干した。

されどまだ視界を彩る砂埃は少々厄介、ひらかれていくあのギラつく赤目。やはりこれだけではダンジョン生まれの雷夏を倒すことはできない。


“これだけでは”


「しらぬぞんぜぬツッキーのことちょっこしもっちょりLOVE、【牛頭ーカパーティー】」


本命は、灰色バズーカ娘。

高校生1年パーティーの立てた最後の作戦は決行された。


オーラを込めたあちこちに撒いていったバズーカチップは宙を浮き花開き起動。

灰色のオーラそれは未知であり、何の因果か牛頭梢に与えられたただならぬ支配のオーラである。

戦いながらひとり悠々と十分に寝かして練られた、その力のほんの一端を今解き放つ。


遥か天から垂れ下がる──常人にはみえない灰色の糸に操り人形のように吊るされた…バズーカチップ。その砲口はスベテ、雷夏先生だけを見つめている。


「フフフ…………これはとんだパーティーに迷い込んだにちがいない!!!」


【牛頭梢主催牛頭ーカパーティー】

数多の砲弾は青い一点を目指し飛んでいった。咲き誇る灰色爆炎の花が、必死な足跡だらけのビーチを焦がしていく。









咲き乱れた灰色の花の中に────いつまでも咲き誇る青い花がある。

いかずちを放つ花は、二刀の剣をついに散らしそれは海風にさらさらと流れていった。

向けられたチャンバラの範疇におさまらない、ただならぬ殺意すらも彼女には心地よい熱い雨。


その瞳は生徒たち3人の方を見つめる。見慣れた白旗はぱたぱたと靡き、それを見て彼女は腰に手を当て大袈裟な高笑いをした。


これまで雷夏とのチャンバラあわせて11戦。11戦目に全てを懸けて挑んだものの結果すべてに敗北した生徒3人は遠目に大量の汗と苦笑いを浮かべるしかなかった。


結局、緑蜜ダンジョン部顧問の雷夏ちゃんはとても強かった。


「はぁ強すぎるんだけど……手加減ってなんだったのぉー……(条約無視じゃん条約)」

「ぜぇはぁぜぇはぁ…………ちょっこしむりげー……でぇす」

「──ぶわっ!? ちょ牛頭さんだいじょぶすか??」

「ちょっこし抱っこ、らくてんかいと…」

「え、え、そ、そうか! お、おっけーっすスイカテントまでェ運びます!」

「ちょっとぉ! ナニやってんの! 酔わせた女子をあのやらしさ全開の東京テントに連れ込む気?」

「ええ!? ややらしい…? いやいやそんなつもりは……えぇ(東京テントってなに…)」


敗北を喫した感想もほどほどに、ふたりは力を出し尽くした牛頭梢の巨体をスイカテントまで手を貸し運んでいった。


そんな彼ら生徒を見つめる瞳がもう1人。

意味のない恰好だけのサングラスは既にかけていない。必要のなくなったマントはビーチに突き刺した槍に結んで日除け代わりの屋根にしていた。


(月山雨楽楽はテトラマーズ、なつかしのテトマズですか……。前代未聞のことですが万能色である自分の能力を知らず分かりやすいゲームルールのようにしたのは幸いです。結果、戦いの中で自身の強みを理解しつつ成長しています、動きの筋も悪くはない。技スキルもひとつひとつ個性立てて無駄がないもの、組み合わせてこうするんだという彼女のビジョンと意図がはっきりと分かりますね)

(楽天海都は少々やさしすぎるところがあり心配ですが逆に従順ともいえますが……もうどうにも雷夏に依存しすぎな気が……まぁ少し滑稽な荒療治となりましたがいいでしょう。あと武器をハンドガンに絞ったのは良い事です。射撃センスもそこそここのまま目の前の手本を真似すればまだまだ成長するでしょう。それに世にも希少な回復オーラ色なので無理して前に出る必要は…きっとありません、ね?)

(そしてこの牛頭梢、今回雷夏には通用しませんでしたがとても非凡な…いえド級なセンスの持ち主……。チップを複数枚同時に遠隔で操るのは並大抵のことではありません。既に遠隔で操れると聞いたときは驚きましたが、オーラの操作に余程優れているようです。それに……彼女のオーラ色も気になるところです)


(そして……雷夏、また腕を上げているようですが……。なんとも滅茶苦茶しますね、生徒相手にここまで全力で返答するとは……ただの負けず嫌いな気もしますが……。結果としては、あまり認めたくはありませんがダンジョンのビギナー同然だった生徒たちにとっていい経験になったのは間違いないでしょう)


両者バチバチと睨み合っていた2回戦開始前。

空気を察して、雷夏が彼女シデン・レイラをここに呼んだ意図を深く読み察して…。

狙いをつけていた双銃をやんわりと気の抜ける溜め息とともにさげて、マントを再び翻し退いた。


それ以上のプロレスにはブック通り付き合わず、ダンジョン部の生徒たちに雷夏を倒すための戦い方とダンジョン探索者としての基礎力を伝授する指南役へとついた。


そしてかれこれようやく与えられた役目を全うしたシデン・レイラは集中観戦で渇いた喉に、トロピカルジュースを流し込もうと思ったが、既に空の味であった。


突き刺さるストローが2本、じゅーーーっと飲み干しながらこちらを笑う赤目のおちゃめな女が近い。



「ぢゅーーーちゅっ──。よし、待たせたなヤろうか!(うまいなこれ? なにあじ?)」


「…ふふふ、いらないねそんなの(メロンバナナブルーベリーチョコホイップ味)」



11戦目明けの雷夏はまだまだ12戦目もヤル気満々。なにも伝わってはいなかったようだ。







11戦目にて温存していたオーラ量を使い過ぎた牛頭梢に2人は肩を貸し、スイカテントまで運び込んだ。


狭いテント内の影に寝かせた色々と汗ばみ艶かしい……色々とスケールの大きい、黄色いビキニ姿の若肌がいる。


そんな横たわる姿とどうしても目のいく黄色い双丘を見つめる男子の腹を肘で小突いた。見るからにやらしい色合いの東京テント内に連れ込まれたら危険、そんな知識をどこからか輸入していた月山雨楽楽は彼に釘を刺した。


「えっちなことしないでよね」

「ええ? いやそんなつもりじゃ……」

「おぉ、べつにいいよちょっこし補給してくぅ? らくてんかいと?」

「ちょっとぉ11戦もやって1発も食らってないでしょ灰色っあんた!(ゆうゆう罠仕掛けてただけじゃないすぐなぞの白旗上げるし)」

「おぉ、バレたツッキン? ノーダメだけど脳はダメあははぁ」

「はぁ? ツッキンってだれぇ?」

「あたしも灰色じゃないでぇすっ、なっちゃんいわく牛頭ちゃんもしくは梢ちゃん? もしくは牛頭梢フルでよばれることがおおい」

「はいはいこずえちゃんね。こずえ」

「おぉこずえかぁ、だいたい珍しいから牛頭さん、うっしー、ごずりん、だからちょっこし新鮮だぁツッキン」

「はぁ新鮮もなにもこんなのフツウじゃん。(それにここにいるのはたいがい珍しいとおもうけど私含め…ってごずりんってなに)──って楽天くん何見てんの? はやく男子は出てって東京テントから、ほらほら、分かってると思うけどここでほ…補給したらあの先生『さぁてシールド値もMAXになったことだしダンジョンいくーーっ♡』とか言い出すんだからねぇ! 私のことまたすぐボッ…して襲わないでよね! これはあえて回復しない策なんだからァ!」

「えぇ? あ、あぁなるほどっ! って俺月山さんを襲っては…」

「はぁ? ヤル気まんまんだったわけぇ?」

「いやいやちがちがまったくそんなわけでは!」

「マッタクそんなわけでは? はあぁ??」

「ええ、なんでぇ……(どうすりゃいいの…)」

「あははらくてんかいと、ちょっこし詰む」

「…………」


どう答えても月山雨楽楽に噛みつかれてしまう楽天海都はテント内に置いてあった飲み物だけ手に入れ、東京テントだと言い張る…雷夏先生がホームセンターで買ってきたスイカテントの中から出ていった。


追い出された男子はひとりとぼとぼと外をあてもなく歩いていると、


ヤドカリのこんちゃん、ヤドコンちゃん、がその自慢のコンセント貝殻に何やら大がかりな機器を接続している。

楽天海都は訳の分からない光景を目撃してしまった。







雷夏のしつこい誘いをどうにかのらりくらり(かわ)すつもりであったが、シデン・レイラは気付けば盾を取り彼女の剣を受けることを渋々承諾していた。


神牙流(じんがりゅう)、時空剣技レスポンスMAX! これは受け切れるか、シデンレーラ! 【爆雷斬】」


「ハァハァ、お熱いね! 【ルクラブ6】」


(こちらとてブランク明けですよ! 今の雷夏は最初に会った……彼女が中学生のときよりずっとつよい。先程の戦いで疲れているとはいえ、もう【ルクラブ3】では受けきれません。興味本位で引き受けるのではありませんでしたね……ひぃふぅみぃ…おもえば8歳差ですか…歳は考えるべきでした! しかし体調はこのところすこぶる悪くはありません!)


「あくまでその技にこだわるのかい?」


「フフ、どうもあなたには最初に覚えていた“これ”で過去の記憶ごと打ち勝ちたい! 絶対的にぃぃぃいい」


「ぐっまだ上がるのですねッこちらとてッこのたて【ルクラブ10】! ──────ッ」


栃木神牙流の時空剣技、時空を超えると言われる隠された秘伝をダンジョンで培い鍛えたオーラを用いて現実に引き起こす。

雷オーラはより濃く荒々しく彼女の今の限界まで注がれ伝う、肉体のレスポンスを極限まで上げた。


そして【爆雷斬(ばくらいざん)】雷夏が自身中学生の頃から既に覚えていたDスキルチップ技。思い出のこの技でこの見覚えのある緑クラブの盾を打ち砕く、それがひとつ雷夏の絶対的の果ての途中の目標であった。


【ルクラブ3】1枚では到底【ルクラブ6】2枚の盾でもその荒ぶる雷剣は6つ葉を焦がす。

【ルクラブ10】剣撃を受け取り溜まっていた幸運オーラを支払いこちらも今の全力で雷夏の本気に答える。


華麗にされど釣られて不格好に咲き誇った10枚の葉と、荒々しい雷剣がぶつかり合う────────




砕け散った盾、

ミドリ葉が粉々キラキラと宙を舞い

そして刀は満足したのか──迸る青い熱が失せやっと砕け散った。


爆ぜた並々ならぬ雷の衝撃で、尻餅をついた────。

殺陣としては格好のつかない幕切れに、シデン・レイラはおもむろにその腰を上げていく。



「ふっやるねカミナリナツ」



手を差し伸べる、大きく育った青髪の少女に。天を見上げる赤い目はシデン・レイラを向き、その手をとる────変わらぬ無邪気な笑みをみせた。


「あはははは、あぁ! ──引き分けだなっもう1ッ本」


「そうじゃないだろ…」


相変わらずの言動に…神妙な感じで挑もうとしていたシデン・レイラは気が抜け、つい苦笑いを浮かべた。やがてなんとなく手を離し、手を借りていた雷夏はぽすりと砂地に音を立てる。


『せんせいーーーーー』


そんな気の抜ける場面に突然、慌ただしい足音と青年の声がきこえてきた。

何事だとチャンバラ明けの2人して振り返る。


「おっなんだ? 今いいとこなんだぞ」


「ふぅ…そんなにカニみたいに走って来てなにかい?(ふぅ…助かりました楽天海都)」


「はぁはぁ……──、や、ヤヤドカリが攻めてきて!!!」



「「ヤドカリ……? ヤドカリィィィ!??」」


息切らし膝つき指し示す青年がさした方向──綺麗な青海を泳ぎ色とりどりの貝殻が上陸してきている、もう既に何匹かのヤドカリが攻めてきているのだ。


「ほんとだヤドカリ、あぁたしかガライアにも似たようなのがいたよ。港町の釣り人の釣り糸を切る常習犯でね貝殻の特徴まで書いた指名手配をされていてなおかつひとつひとつ個性的な貝殻をしているのでコレクター的需要があってね討伐報酬がおいしいんだよ(とっさにかんがえましたが…おもしろいですね、帰って聖タクにも取り入れましょうか?)」


「ふふふ。まーた宿を乗っ取るために嫌がらせに来たようだな、懲りない連中だがはははははまだまだハジケ」

「あのぉー……ほんとに急いで! 先生、シデン・レイラさん!! まじ月山さんが」


クールに顎に手をやりヤドカリの進軍を見守る2人に、さすがにふざけている場合ではないと先生たちに助けを求めに使い走った海都はどうでもいい雑談をさえぎり叫んだ。


『ちょっとおおおナニやってんの楽天くんん!!! はやく東京テントまで援軍んん!!! ちょっとおおおきゃっ痛ッ──なんなのこのヤドカリいいいつよいしなんで安全なダンジョンって言ってたのにこうなってんのよおおおしかもなんでまた私がまえッこんのッつっこむ貝殻は【テクニカルスピン】!!! ちょっと雷先生ッシデンレイラっはやくッ何やってんのよッッ楽天くんおっそいッッはやく私を守れえええええ』


スイカテントであり東京テントにて。

すでに中でダウンした牛頭梢を守るべくテントを背にヤドカリと交戦中である月山雨楽楽は、オーラブロックとヤドカリを弾き飛ばしながら必死にがなり叫んでいる。


「ええ!? 俺が前ムチャぁ…」

「私が無茶してんだから隣席の男子が無茶しないでどうすんのっ!! てかなんでしれっと私に無茶させてんのよッ」


前で剣を手渡され握らされる…。月山は後ろでハンドガンを握りそのいまいちヤル気のない彼の背に狙いをつけている。振り返る海都はその背に汗を垂れ流しながら月山女子のために前を向くしかなかった。


「つ、月山さん俺剣使えないんすけど……!」

「はぁ? はぁあ?? そんなの私もじゃん、ほらいったいったヤドカリ来るよっ!(東京じゃ男子が前なんだからっ)」

「(どういうこと…)やるしかないのか……! うおおおおおおって先生! シデン・レイラさん腕組んで見てないできてくださぁああああいい!!! ってうおおおおヤドカリぃぃぃ来ンナァっ! 【熱熱クレープ(以下略!)】ってワザ出ないぃぃ!?? なななんでぇうおおおおおおおおお────────」






後から見物していた2人の大人も加わり、懲りずに現れたヤドカリの群れをキレイに平らげていった。手厚く守られていたスイカテントの入り口から顔だけひょっこり出し、片付いた光景にサムズアップした灰色髪。

怪訝な表情で、むっと、月山は牛頭を見返す。

そして続々と同じ近場のホームセンターで買い揃えた水着姿の役者たちは集結していく。


ずけずけと近付いてきた青髪赤目に対し向き合い、ざくり…月山生徒は砂浜に剣を突き刺し立てて威嚇した。しかしその青髪も同じように得物を突き立て向かい合い笑っている。

かつてはエメラルドマーメイドのララナツという架空の設定の姉妹として仲良く活動、チャンバラで剣と剣を打ち合うまで密であったものの、今はその高みからニヤつく姉役の笑みが冗談きついものである。

ポニーテールにしたうなじのじっとりとした汗を右手で拭っていき、灼かれ地味にヒリつく肌の痛みに嫌気がさす。月山は深くながく吐くため息から……なかなか助けに来なかった元姉役に対しいだいた不満を淡々と述べていく。


「はぁ…はぁぁ……つかれた……ちょっと雷先生死にかけたんだけどナニしてくれてんの? はぁ?」

「んや? 良いうごき良いバトルだったぞツッキー! ヤドカリがスピンして仲間につぎつぎぶつかっていくのはおもしろいじゃないか!(アレもテトマズか?)」

「んや? じゃないんだけど…ゼンゼンうれしくないしちょっともおもしろくないし(アレはきっとバルカンノイドでしょ、東京で2番目に流行ってる)結局また私がまえなんだけど。──ねぇ楽天くん?」

「い、いや、だってぇやっぱり……俺の剣じゃヤドカリにまじでまったく攻撃通らないんで(3回へし折られましたし…無理かと……)」

「はぁ? あのときネズミのゲロビ防いだ盾は? かっこ…援護防御はッなんだったわけぇ? はぁあ? なんで私の後ろでちょこちょこ撃って隠れてんのよさいあく」

「いやアレはラッキー武器で手元にはもうナイからぁ(ゲロビってなに…)……あっ! そんなことよりそうだ!」

「そんなことじゃないんだけど、ねぇ?」

「いやいや月山さんちがくて!! それよりッ」


噛み付く狂犬と化した月山の牙をなんとかなだめて抑え込み、楽天海都は先生に報告すべきあの不可解な光景のことを思い出し、それを慌てた口調で伝えていく。


「先生俺見たんすよあのコンセントのいっぱいあるヤドカリがなんか変な見たことのないッアンテナの通信機器に接続して! 絶対アレ怪しくてッ敵のヤドカリモンスターを呼ん…」


青年は必死な形相で伝えていったが……両腕を組みながら生徒の話を聞き入っていた雷夏は首をこてっと傾げる。


「はぁ? ふむふむなんだと? ──ナニいってる私のヤドコンちゃんがそんなことするわけないだろ? 絶対的にぃ」

「ん、わたしのこんちゃんはそんなことしないよらくてんかいと」

「そうだぞダンジョン部の仲間を疑うなんていくらカイトきゅんでもイケナイぞ♡」


次いでテントから表に出てきた牛頭梢も雷夏先生に同調する。

ヤドコンちゃん、こんちゃんの名付けの親である2人は絶対的に疑ってはいない。既にコンセントだらけのイカした殻をしたヤドカリは良いペットでありスマホの充電もできるダンジョン部の便利な仲間なのだ。そんな風に…海都との認識の相違によるただならぬ仲間補正がかかっていた。


「ええ!? いや俺ッッ見て! ほらっアレっ!!! アレで……」

「ん──なんだホットプレートか、はははカイト生徒の目にはアレがヘンな見たことのない通信機器に見えるかはは今日は相当お疲れだな♡」

「おぉあっ、焼きそば焼いてる。くんくん──ヤドカリ夏ちゃん焼きそばとほぼ同じ」

「たしかにこの匂い、この具材、ほぉ猫並みに物覚えがいいとはなさすが私のヤドコンちゃんだ!」

「ええ……そんなばかな……ええ猫並み? 猫とかヤドカリが焼きそばなわけ……」


ヤドカリはホットプレートのプラグを自身のご自慢の殻に接続し、トングを操り豪快にヤドカリ夏ちゃん焼きそばを焼いている。牡蠣と海老の入ったあの大いに夏の海を感じる焼きそばだ。

そして楽天海都がたしかに見たはずの機器はそこにはなく、遠くの砂浜で何か爆発音がしたような気がしたがそれもこの喧騒の中ではあやふやでたしかではない。


「なにやってんの楽天くん…ヤドカリなんて殻で突進して剣でタイミングよく弾き返されてスピンするのが精一杯でしょ…(おなかすいたふぅん、これ変な甲殻類の汁入ってないよね?)」

「獅子くんヤドカリが通信機器をあやつることは常識的に考えればできるはずはないさ、せいぜい焼きそばを焼くのが手いっぱい、いやハサミいっぱいかい? ふふふ、どれどれワタシも出来上がり次第いただこうか東の島ヒッポンのピッポングリフ祭りでもワタシは出店のハイハイエルフ族の親父がこれを焼いているのを見てねなんでも店名は1000年やきそばっていうらしく1000年焼いているのにちっとも上達せず味はイマイチらしいさ、だがなんでも食せば寿命が8年伸びるとかなんとかでも怪しいだろ? いくらエルフの中でも特に長寿種のハイハイエルフとはいえ踏ん張って700年生きるのがせいぜい逆に表裏のマジナイでこの1000年やきそばを(すす)るたびに寿命をちゅるちゅると啜り吸われているっていうのが────────」


月山とシデン・レイラまで冷静さを欠いた様子の彼の言動はいまいち信じるには難しく────逆にヤドカリのなかなか応援したくなるようなぎこちない手つきで焼きそばが焼かれていく珍光景を見物している。


もはやどこにも味方はいないのか。海都がごらんと開いた両手のアピールは吹く海風と濃く香ってきた焼きそばの匂いでなぜか虚しく……。

ついに自分自身にそう思いたいバイアスがかかっていてそう見えたのではないか…暑さにやられてよからぬ幻覚でも覗いてしまったのではないかと…疑い出す始末に。ぐるぐるとあらぬ思考が巡りはじめた楽天海都は────それ以上考えるのをやめた。


ヤドカリは汗水垂らしながらソースを大量にぶちまけ必死で焼きそばを焼く。

その光景が珍しく笑えるらしく頭をからっぽにした海都も最後にはそれを見て笑っていた。


vs雷夏戦から部室ビーチのヤドカリ退治──

働き働きひじょうに空腹だった彼らは出来上がったヤドコンちゃんが作った焼きそばを食べた。具材をぶち込んでソースをぶちまけて焼く、たしかにその単純な料理工程はヤドカリにも可能であった。青海苔、鰹節、紅生姜、唐辛子、追いソースなど各々で微細調整すれば味の方も全く問題ない。夏ちゃんが作ったオリジナルのものとほぼ同じである。


そんな美味しい美味しい焼きそばを食べながら──悪いヤドカリモンスターが嫉妬し度々嫌がらせに来る程の澄んだ青い環境を見つめる。


緑蜜ダンジョン部は住まう日亜国(にちあこく)の花見の日にそののほほんとしたコンセプトを無視、されどひじょうに充実した休日をいっしょに汗をかき涼み笑い過ごしたのであった。

砂浜に残した足跡や焦げ跡は大人も子供も混ざり合い全力であそんだ証、波打ち際にキラキラとひかる綺麗なチップの数々は後で手分けして回収された。








青い海の彼方から来たるヤドカリモンスターを討伐後、ヤドコンちゃん作の焼きそばをダンジョン部の各々の胃袋におさめた。雷先生と途中飛び入り参戦したシデン・レイラの指導で今日一日だけでも色々な経験を得て吸収し成長した緑蜜ダンジョン部の生徒たち。


広々青々とした部室でのチャンバラバトルに、失ったシールド値の補給に…

さすがに今日は予期せぬイベントが盛りだくさんでご満腹、かつ疲労困憊の生徒たち。


顔も見知らぬ仲であった牛頭梢と月山雨楽楽は2人、ひみつのおしゃべりや愚痴をしながらいっしょに第イチ体育倉庫へと帰っていった。


続々と帰っていく、この部室ビーチには今3人。

お開きの雰囲気だったので自分もと帰ろうとした学生の背は、肩は────帰れないことを悟る。


のしかかりつかむ、その手に────────



其処で幾度も補給行為が繰り返されたからか、いつしかやらしい東京テントと揶揄されつつある赤い果肉のスイカテント。その内では既に女性2人が若い男を連れ込み……また襲われてはじまっていた。





▼▼

▽▽





むわっとしたニオイがたちこめるテント内から解放感あふれる陽光へと────


無法地帯のダンジョン(部室)で補給行為兼ちょっとしたおアソビを終えた2人は外に出て、手を身体を天へと伸ばす。


おおきな欠伸さらに吐いた息とともに下ろした両手、

シデン・レイラより数歩先の砂浜を歩いた雷夏は振り返らず……腰に両手をえらそうにあて海を見つめた。



「さァて、これからダンジョンに行かないかシデンレーラ。さっきの悪い方のヤドカリたちじゃ少し物足りないところだったろ。夏ちゃんはそこそこ満腹だが、ついていきたいというのならかまわないゾぉ?」

「相変わらずだねカミナリナツ。どうしてそこまで果てのまったくみえないダンジョンにこだわるのかい? 君たちの世界のWASAとよばれる冒険者ギルドでも穴から抜けられなくなるまえに、いや穴に飲まれる前に偉い学者たちの提言妄言をよくききこの青い殻に閉じこもったというのに」

「相変わらずナニを言っているかはよくしらんが…? ダ~ンジョンだからな! WASAがぜんぶ窓を閉じていちゃ風通しが悪いだろう?」

「──またピンチなってもただじゃ助けないよ。この表裏のオーラの死の予感もキミがちかくにいると鳴りっぱなしで不便で困っているのさ? それこそ今ここで死ばかりで宝のないダンジョンに鍵をかけてもいい。────もう一度問うよ、なぜキミはダンジョンにもぐるんだいカミナリナツ?」


「そんなこと────、ダンジョンは果てなくつよくなれる、そして目一杯このカラダでこのカタナで暴れられてたのしいからなっ!」


雷夏は振り返る。

秘刀名刀(ひとうめいとう)のひとつ緑蜜(りょくみつ)、彼女に宿るその刀の切っ先はやけに真剣な質問の多い白黒のお相手を刺し示す。


そこに死の予感はない、あるのは赤くギラつく女と少女の瞳。

幻影が重ね合わさるほど、シデン・レイラが雷夏と出会った頃と変わらないモノであった。


レアチップであるダイヤのガンは、狙っていた青髪の背が振り返ってもなおも銃口を向け続ける。

──やがてシデン・レイラはまたがらにもない意味のないことをしたと笑い、腰のホルダーに武器を収めようとしたが水着の今は無い事に気付く。


おどけた態度で誤魔化しそのまま歩き、やがて彼女を追い越し──海をみて語りつづける。


「ふふなら報酬としてこの青いお宝をマルマルくれるというのならワタシはそうだなっ…──前向きにかんがえてあげるよ」


「んや? はっはっは──それは無理だ、この部室ビーチは緑蜜ダンジョン部のものだからな! たとえ先輩風をふかしまくるシデンレーラでも渡さない、そうだっ逆に施設利用料金と焼きそば代をむしり取ろうとちょっうっど★思っていたところだ」


「カミナリナツ、お忘れかい? ワタシはあの焼きそば…おかわり一回しかしてないさ」


「はっはっは────笑える。さて、私のおかわりはまだだぞ……?」


冗談を言い振り返ると、首筋をトントンと刀の棟でリズムよく打つ青髪赤目がいる。

発言がその場で笑って終わる冗談にしてはただならぬヤル気を見せつけている。

笑いながらも内なる闘志が漏れ出でる……彼女の持つ青いオーラで可視化され漲っている様子だ。


オーラを秘めたままの冷静なシデン・レイラはぷらりとあそばせていた腕で、目先に置かれた問題の漲る青を見つめる。


「お熱いのはいいが、世間はまだまだ春吹くハルカゼ。冗談は……春のアイスクリームさっ!!!(一足お先ぃ!)」


レアと普通の双銃は雷夏の足元を連射し狙った。

弾丸ははげしい砂埃を引き起こし──一足早く不意撃ちしたその間に、

シデン・レイラは雷夏の冗談を、冗談の連射で煙に巻き去っていった。



(なるほどやはり彼女はこのようにッ──変わりませんね。もうかれこれ挑み続けて何年、モンスターか悪魔にでも取り憑かれているかと心配しましたが…挑む理由もまったく変わらず。15年前ダンジョン救出隊の一員として活動していましたが、この緑蜜で雷夏と出会い、奇しくも彼女を見守るという薄い理由で羽を休めながら勝手につづけていたのは私の方かもしれません。そして雷夏は緑蜜の跳び箱に結びつき秘されたダンジョンに挑むためにあのゆるゆるな校長のゆるゆるな試験を受け……教師になったのでしょう……私は違います、純粋真っ当に聖タクのつづきを書くための手段ですので、よりディープなネタさがしですのでぇッふふ────なぜかしつこく追ってきてますねぇッ! 大型犬を飼うとどのご家庭もこうなのでしょうかッ、ええっ!)



弾丸、雷、伸びる槍に砂浜を斬り裂くイチゲキ。

ダイヤの弾丸に、雷をしのぐクラブの盾。

おおよそこの激しい光景はハメを外しがちの夏のビーチでも、ルールを超してはしゃぎすぎている。

はじまってしまった少女のような大の大人たちの追いかけっこを、スイカテントからのそりと現れた青年はなんとも言えない表情で見つめている────。

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