第8話 実戦エメラルド夏ちゃん
グリーンキャップ討伐そしてその後不安だったDSシールド値を回復し次のステージへと進み、帰りの切符チップを3枚集めることに成功。
無事生存目標を達成し月山雨楽楽、楽天海都、シデン・レイラ、各位ダンジョン帰還から1日後。
この日は学校は花見の日でお休み(国民が優雅にのほほんとお花見する日)。
緑蜜高校の一行はそんな休日のコンセプトをありがたく無視し常夏のビーチへとやって来ている。
ダンジョン内の変わらぬいい天気に、グリーンキャップ討伐&ダンジョンからの生還祝いの……まぶしいエメラルド水着を纏ったお詫び夏ちゃんがそこにいた。
「まったくぅひどいじゃないか回復系男子生徒カイトくん♡この夏ちゃん先生にだまってレッドキャップの親戚とバケツに穴があくほど乳繰り合って楽しんでいたなんて」
「いや別に楽しんではまったく……なくて……ちちくりぃ…じゃなくて今回もほんとたいへんでめっちゃ死にかけて……っすね」
激闘を物語るボス級戦利品、何故か消えずにのこっていた穴あきの大バケツは砂浜に飾り置かれた。
そしてこの日電話で呼び出された楽天海都はその青髪赤目の元気な美女と久々にエンカウントしている。
「はははははダンジョンにハマりすぎて死にたがるとは若いなぁ、──しかしのしかしだぞ、運が良かったなシデンレーラに助けられるとは!」
「え、シデン・レイラさんのことしってんすか先生??(先生も聖タクのファンなのかな?)」
「知ってるもなにも私が絶賛モンスターの群れとたのしんでいるときにたまぁにダ~ンジョンに邪魔しにくるんだ。言ってみれば今は…そうッ商売敵みたいなもんだな♡(セイタク?なんだそれは?週刊ジャイアントの新連載か?)」
「……しょ、しょうばいがたき……(なんのしょうばい…)」
「はははあの強さと技量だ、何度かダンジョン部にスカウトしたんだけど断られてな、ざっとニジューサンドぐらい」
「にじゅうさん度!? それ多くないすか……あぁでもわかりますシデン・レイラさんってほんと先生並につよ……あ」
「なにぃ?? この絶対的な夏ちゃん並だとぉ? はーーん、カイト生徒そうかそうか」
「いやっ、いえっ、ごごめんなさ」
「許さん♡」
「え!? えええええ!? ちょっマっ」
「ダぁメっ許さん♡」
笑いながら指関節をコキコキと鳴らし始めた雷夏は楽天海都に襲い掛かった。
その力量の差は歴然、いつものように暴走する先生の魔の手から生徒が逃れられるはずもなく……。
「てかちょっと…なんで私まで水着(着せられて…値札ついてるし…えいっ)──しかもここナニ? 栃木にこんな…ちがったダンジョンにこんなひろいビーチとかやばくない……てかちょっとあの人ナニやって……いちおう」
月山雨楽楽は何かにすこし目覚めてしまったようだ。
拾った楽天海都のスマホで乳繰り合う2人の補給行為を撮影していく。
これぐらい東京の子はフツウに集まってやっているのでは? そう頷きビーチチェアに座り、オレンジジュースを曲げたストローで飲みながらほのかに赤面する顔を冷やしていく。
「あ? なんだこの蚊に刺されたようなアトは」
「え、え、えっと」
「ははーん、これは夏ちゃんに対する挑戦状だな。商売敵め、よぉし雷夏ちゃんが全部全箇所塗り替えてやろう♡」
なおも襲い掛かる雷夏、このビーチに似つかわしくない制服姿をした男子生徒を水着に着替えさせ、シデン・レイラにつけられた赤い印を見つける……。
なぜかより一層興奮した青髪はじぶんの獲物に噛みつき──灼けた砂浜はほこりをたてた。
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▽
何か気でも変わったのか腕を組み斜め上に向けた赤い瞳は……押し倒した海都をよそにそそくさと歩き出し、あつまった女子2人で話し込んでいる。
そして話がまとまったのか──
やがて上体を起こした半裸の海都は、並び立つ2人の水着美少女を見てしまった。
「期間限定美少女ユニット、エメラルドマーメイドだ♡」
「え、えめま?」
「そしてナツ・エメラルド」
「そ…そしてララ・エメラルド、はぁ」
「せーのっ…」
「「わたしたちはララナツシマイだヨっ」」
右、左、おのおの素足片脚を上げ、キャピっと両手の甲を見せるキュートなガッツポーズをつくる。
示し合わせたように対称の動作を披露する水面鏡合わせの姉妹がそこにいる。
「は…はぁ……?」
「反応が薄いなこれほどの水着姿だぞララナツのぉー、なにかひとつ感想でも言わないか♡」
「ふぅんま、それぐらいは必要なんじゃない聖タクの無駄に長い感想文なんかより…」
いつもの青髪赤目だがいつもと特にちがうのはその髪型。ぴょっこりとびだしているのが可愛い右のサイドテールにしている。色々と年頃の雄には目に毒な夏ちゃんのエメラルド水着ver.であり、
黒髪セミロングに地球色の青い瞳。こちらもララナツ姉妹というどこからかわいてきた架空のコンセプトに合わせて左のサイドテールにヘアゴムで可愛く束ねた。いつものメガネは東京から仕入れたONOFFモテテクを駆使しさっき外している。
すこぶる健康な夏ちゃんよりは背が低いが身長164cm、女子にしては少し平均より高いがそれほどでもないフツウである。胸は夏ちゃん先生と比べたら自慢するほどではないが……平均以上はある。
エメラルドの水着、フリルがふんだんにあしらわれた可愛らしく瑞々しい味わいを放つその水着。
ホームセンターで処分価格2着で2680円のお安い価格であったとは思えない……。この美少女2人が纏えばその価値は数10倍へと跳ねあがるのだ。
期間限定美少女ユニット“エメラルドマーメイド”の“ララナツ姉妹”……あまり設定の固まっていない2人のまぶしすぎる姿がそこにあった。
そしてそんな2人から求められる一介の男子生徒の気の利いた返答とは──
「え月山さん…いや…は、はい……そそそれは…ハイ、いいっすけど……」
「まったくぅこれだからタマシイ童貞は♡相変わらずシャキッとしないなぁ、そらっ」
「たったま、ど? ちょっせんせッなななんでぇあああ」
「それはもちろん新入部員歓迎祝いと愛しい緑蜜生徒たちのダンジョン帰還祝いだろう?」
「まっ、助かったのは事実だしこれぐらい…あってもいんじゃないの…? なぜか私まで鼠と巨人まで戦うハメになったのはアレだけどぉ…だまって受け取ればぁ? 楽天くん」
「いやっ、ちょっと…あっああああ」
再び白い砂浜に押し倒された海都の臙脂色の水着は…税込500円。その価値が跳ね上がるかどうかは今後の彼の活躍しだいだろう。
お見舞いされる電撃に、柔肌がのしかかり、あわただしい砂埃がたつ。
灼ける砂のベッドはとてもあつく……
「──フフよほどこの期間限定美少女ユニットの補給行為が気に入ったんだろう♡」
「ふぅん……期間延長する?」
「絶対的姉妹アイドル、ララナツは安くないぞおー、ちゅぢゅー♡」
「あ…あぁぁ……」
コンセプトがふんわりとアッチコッチしている期間限定…エメラルド色のかわいい水着姿の、雷夏先生、月山雨楽楽同級生。
眼下のだらしのない表情を見届けた2人は、目を合わせ汗を滴らせ立ち上がる。
はりきりつかれた身体をぽかぽかの陽気に背伸びしながら立ち去っていった。
やがて水をかけあう青髪と黒髪2人の美少女とおおきなヤドカリ…がいる。
それは見ているだけで羨むほどとてもたのしそうであり、たのしそうな笑い声を聞きながら楽天海都はネムリについていった────────。
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▽
首筋に電撃のように走る──冷たいサイダーを喰らい、目を覚ます。
夏ちゃん先生のマブい笑顔がそこにあり、ありがたく冷たいそれを受け取る。
えらく乾いた喉に炭酸がバチバチとハジケて痛い。だが生き返るほどおいしい。
道の駅で売っている地元緑蜜の手作りサイダーの瓶であった。
ガラスのほそながいセカイに太陽の陽が透き通る、泡粒がのぼる────。
そんなおもむろに太陽に翳した透けガラスに、元気な赤い目がクールな青い目がつどう────
「というわけでダンジョン部にようこそ、歓迎だ新入部員♡」
「(なんか順序ぎゃくじゃないすか……)え、月山さんダンジョン部に入るの??」
「うん、ちょっとしつこいから入ってもいいかなぁって、うん(断ったら毎日教室までお弁当食べに来るとか言い出すし…バラしたらってちょっと言ってみると……目がすーんてしてマジだった、っこの先生ヤバくない? まぁイロイロとだいぶいまさらな気もするんだけど…)」
ふたたびこの3人。夏と海都と雨楽楽。
冷たい飲み物と海での水遊びで一度はしゃいだ暑さをクールダウンし、再集結した。
海都もおもむろに痛むその腰をあげ……なにやら先程の補給行為の前にしておくべき重大な話を今現在進行形ではじめている。
ダンジョン部へと新たに入部するという月山雨楽楽のショッキングな話である。
自分はまだ一応入部していないつもりである海都にとっても、その夏ちゃん先生を通しての正式な報告は誠にショッキングであり、あれだけ月山は不平も垂れていた気がするのに入部する理由ものほほんとしたものにきこえた。
「しつこいから入ってもいいってなんすか……いやッほんとにダん」
「ダ~んじょんっ★──☆いやいやまさか緑蜜に万能オーラ持ちがいたとはな、この夏ちゃんのくりくりなお目目をもってして見逃してしまっていたとは、ふふ万能色は色が偏ってないからとくにダンジョンに入ってみないと気付きにくいんだなぁこれが」
「「万能オーラ……って?」」
「なんだぁ2人して口をそろえて妬けるな(ユニットでも組むつもりかぁ楽天と雨楽楽で楽楽コンビとか?)……ははーん、そういえばその辺は実戦ばかりダンジョン座学の方はまだゼンゼンだったな? よぉし、スーパー女教師夏ちゃんが一肌脱いで説明しよぉおおおう♡」
☆★☆
牛頭梢はなんかド級のセンスを感じる灰色オーラ
じゃんけんでいえばアイコって感じだ
雷夏ちゃんはご存じ雷たいぷの青オーラ じゃんけんでいえばグー
楽天海都はご存じだ♡回復系の濃い♡緑オーラ じゃんけんでいえばパー
というわけだ。
そしてお待ちかねツッキーの万能なないろオーラ じゃんけんでいえば…まぁ要するに、ばーんっ♡
★☆★
〝ばーんっ♡〟
雷夏はおとなしく突っ立ち並ぶ生徒たちを右の手銃で撃ち抜き、お茶目にアイドル級の悩殺ウインクを披露した。
……以上で説明を〆た。
((なるほど…ゼンゼンわからない……なんでじゃんけん…ツッキーってなに?))
並び立つ生徒男女はどことなく不満げな表情に見える。
腰に両手を置いて息を大げさに吐いた夏ちゃんは、よりさっきよりも噛み砕き補足するようにつづけた。
「なんだその物足りげな顔は? ……そうだな──いいかー! 要するに雷夏ちゃんの性格は絶対的なグーだ、カイト生徒の性格はグーをつつむ癒しのパー、ツッキーの性格はツンデレだ」
((よけいわからん…))
(私だけなんでツンデレ指定? もうじゃんけん要素がないんだけど…しかもそんなにツンデレじゃないし、ねぇ?)
(は、はい…しかも俺そのグーで妙に殴られてるんすけど…)
得意気に左のパーを右のグー拳で何度も合わせいい音を響かせている。
先生の話をよく集中して聞いたはずが、より混乱した生徒はひそひそと…夏ちゃん先生には聞こえないように耳元で話し合っている。
そんな生徒たちの初々しい反応を見て赤目をおおきく見開き、うんうんと首を縦に振り大袈裟なジェスチャーをしている。
生足を砂浜に突き刺し堂々と立つ雷夏先生は説明がうまくいった気でいるようだ。
「おっちょうど牛頭梢もきたなぺちゃくちゃと突っ立ち背を焼き習うよりとりあえず実戦だ!」
「「ぺちゃく……?ええ!?? 実戦!?」」
「ぜぇはぁぜぇはぁ──、おぉ?」
「フフ」
唐突も唐突、青髪赤目の先生はさらっと元気に口にする。
トウトツに出てきた“実戦”そのワードが何のことかが生徒2人にはわからない。だが彼女の笑みを見ているとなぜだか不吉な予感だけは2人にひしひしと伝わった。
またダンジョンにいくのか?
ぞんぶんに死にかけた昨日の今日でまた?
これから?
冗談!
入らなければ…
それともまたなにか良からぬことを?
まぶしい夏ちゃんスマイルに向け、不穏な疑念が渦巻く。
灰色髪のイエロービキニがずいぶんと豊かなモノを揺らし駆けてきている。
場は燦燦とした陽気が取り残されるほどに……混沌を極めふかめていく。
★☆★
休日。
今日の日亜国はお休み、
花見の日ですか。
家族団らん花をいっしょに愛でるのもいいですが、こんなありがたい休日の朝はテラス席でフレンチトーストを食べましょう。
ええ。はい。
フレンチトーストです。
そして小説を、あのバケツのサイクロプス戦の熱を今書き起こすときです。
きのうからうずうずと焦らしもんもんすやすやと寝かせた甲斐があるものですね。
この予感…すらすらと筆が進みます。
ふっれんっちとーふほをふふみまひゅ
んーーー、おいしいぃい。
☆★☆
黒髪をクラウンブレイドにしてまとめたその女性は、喫茶店のフレンチトーストを食べる。
フレンチトーストをコーヒーで流し込む。
凛とした姿勢雰囲気でフォークとナイフをあつかう。
休日のテラス席で晴天の下、栃木緑蜜の雄大な緑山々の景色を正面に、そのままこのシーンを切手にでもできそうなくらいとても絵になる。
そんなぜいたくな風景の最中で、一口甘い栄養補給を終えて書きだす。ノートパソコンのキーを小気味よくブラインドタッチで弾いていく。
彼女の物語は彼女の中にあり、
そうしている間はとてもしあわせで疲れもしらないところである。
今一度、あのバケツのサイクロプスと夢想し戦う彼女は、煌びやかな衣装を身に纏い美しい戦士となり──白熱集中。
そうして彼女の熱にコーヒーも冷めていく間に、町内放送がながれる。
時刻は午前10時ちょうど、独特のすこし聞き取りづらい音声が風にながれてくる。このおだやかな町の情報を集めるのにもこの場は適していて無駄がないのだ。
『ぼんどせれくしょん金賞受賞~緑蜜ボンド』
「いいことです」
『全国しょうがくせい絵画コンクール最優秀作品賞受賞~ますこだいき」
「ならべるにはすごすぎます」
『春をおいこせ夏ちゃんゼリーぃ~ 緑蜜道の駅新店クレープグレープグループにて新発売~』
「なるほど春は追い越すものですか盲点でした、ゼリーは飲み干す? いや食べる? たべほす」
『シデンレーラぁおまえの正体をぜったいてきに知っている~。ダ~~~んじょん』
〝カタッ ガタッ〟
パソコンは勢いよく閉じられ、心地の良い夢想から醒める。
フォークとナイフがはしたなく食器に音を立てた。
いったん外し、深緑のメガネレンズを拭いたが、耳に聞こえたふざけた文はきえない。
紙幣をイチマイ冷めたコーヒーカップの下に置き、いそぎ席を外した。
▼
▽
『ちょうど牛頭梢も着たところだここにダンジョン部がひぃふぅみぃ……さっそく全員で雷夏ちゃん先生とチャンバラだ!!!』
おかしい……生徒たちに対して、真剣にかつお茶目含む表情で、手持つ真剣を向けている先生がいた。
彼女はたしかにそう言ったのだ。
そして────
剣は宙をくるくると舞い、砂浜に突き刺さる。
透明な柄を構えた黒髪の美少女は汗をだらりと垂らしその場にフリーズ。
やがて竦んだ両膝をがっくりと地に下ろした。
どうにも当たらないバズーカを撃ち込んでいた灰色髪は、事前にヤドカリのこんちゃんとつくっていた自作の白旗を掲げる。ひらひらとそれが海風になびく、抵抗の意思はない、だから蹴らないでほしいと。
腹筋を蹴られた────海都はやっと砂のついたその腰をあげていく。
数十メートル飛ばされていた……自身が引いていたという砂跡を見て、かなりの苦笑いを浮かべた。
いつの間にやら──手を差し伸べる元気に笑う赤目が近い。海都は手汗が滲んだ右手で、その雷夏先生のやさしさを掴み従った。
「なるほどなるほど、うんうんっ。ダメダメだな♡」
「ちょっとぉぉ……無茶でしょ……ほんとにこれで手加減したの?」
「らくてんかいとめっちゃハジケる、ごずこずえ白旗間に合う」
「あのぉせんせい……なななんでこんなことを?(めちゃくちゃハラ痛いんすけど……)」
「なななんでぇ♡? どうした負けた途端にそれかぁ♡さっきまでアレだけ3人雷夏ちゃんをぼこぼこにレイプすると意気込んでいたじゃないか♡」
((それは負かさないとダンジョンにいどむって言われたからじゃ……レイプ言ってない))
雷夏先生をこの真剣チャンバラの勝負において負かせなければ、これからダンジョン部は鼠や巨人モンスターのうじゃうじゃとひしめくダンジョンに挑む予定である。
先生は絶対的に手加減をし、生徒たちは夏ちゃん先生の額に鉛玉をぶち込もうが刀で腹を斬り裂こうが構わない全力で来るがいい!
そんな……生徒たち側が圧倒的に有利な条件のもとに行われた真剣勝負であったが、結果は散々。
生徒たち3人も3人ならばとわりかし勝つ気満々であったが、現実は雷夏先生が赤子の手をつぎつぎとひねるような試合展開であった。
「なっちゃん大人気ない、全然当たらない、ちょっこしむりげー」
「ははははは、当てようとする意思と殺気は大いに感じ取れたがまだまだだな牛頭ちゃん梢ちゃん♡しかしのしかしだツッキーもガンばかりで逃げるのはダメだぞ使える剣はしっかり握らないとダァメっ♡それとも先生との付き合いを焦らす作戦か何かカァ??(おもわず剣ごと飛ばしてしまったぞ♡すまない♡)」
「はぁ……あんなのの相手なんて冗談でしょ、だからなんで私がまえなの……──ねぇ楽天くん?」
「えっ!? いや、その、だだって月山さんはかなり運動神経がいいんで……!」
「はぁ?? なにそれ小学生みたいな理由?? そんなよくないしなにいってんの? はぁー?」
「そうだぞラクテンきゅん! しっかり狙って夏ちゃんを蜂の巣にしないから、ツッキーの万能なばーんっ♡も牛頭梢のドきゅーんなバズーカも無駄になっていた。その銃と金玉はお飾りかぁー? まったくぅ」
「ええ……いや先生をいきなり撃つなんてそんなの無理にきまって……」
どっちの味方だ? とでも言いたげな、ため息と白い目が誰かから向けられる。
すこしたじろいだ楽天海都はその僅かな殺気に、股間を何故か抑えていた。
「ははは、まったく先生とダンジョンが大好きなのは分かるが八百長はなしだぞカイト生徒♡」
「いや、そういうわけじゃ……ほんとに撃とうと思ってもウ」
「手助けが必要かい?」
「てな、えっ!? シデン・レイラさん!?」
「おっ、来たなシデンレーラどういう風の吹き回しだ」
いつの間にか居た。
ビーチチェアに寝転びトロピカルジュースを優雅に飲む、スタイルの良い脚をクロスしている。
注目の視線がそこに集まり、サングラスをもったいぶるように外す。
おもむろに立ち上がり、白黒の三つ編みを夏のポニーテール仕様にしているシデン・レイラは部活ビーチへとその姿を現した。
自身の白黒の髪に合わせた白黒の交差するクロスホルタービキニを選択、首前で紐が交差したタイプのシンプルなデザインながら大人セクシーな水着姿である。
生徒皆はまさかの人物のクールな演出での再登場におどろき、雷夏はニヤニヤと遅れてやってきた目的の人物を見つめた。そしてシデン・レイラは一瞬目を細め星色の眼光を赤目に対して飛ばし、おどけた口調でつづけた。
「どういうも何も獅子くんたちの住む異世界ガイアでよからぬ噂が広がっているようでね、ワタシの姉妹世界ガライアからここまでやってきたしだいだよカミナリナツ」
「おぉ、だれかしらないけど4人これでかみなっちゃんせんせにかてるぅ、ちょっこし!」
「実力者きちゃったけど…これ、心強いじゃん。ふぅん、雷先生覚悟できてる?(てかこの灰色の子だれなの? おっぱい…)」
「うおおおおシデン・レイラさんがいれば先生に勝てますよ! ……あ」
またまずい台詞をいきおいで吐いてしまった海都は雷夏先生の表情を重いクビをきしませ動かし、引き攣る顔でうかがう。
「フフフなにぃ!! なぁんて♡怒りはしないぞむしろ褒めてもいい。足りないチカラを経験値のある助っ人で補うのも立派な戦略だとどこぞできいたことがある。はっはっはいいぞ、全員まとめてこォい!」
先生は海都生徒にウインクし、砂浜に刺し置いていた剣で4人の顔をそれぞれなぞり口角をぐっと上げた。そして例の白黒の人物の前でワラう切先は止まる。
「ふふふワタシに勝てる気なのかい? 裏金を回して小田舎のお暇な町内放送のお爺ちゃんをメロメロにできてもシデン・レイラは端金では靡かないさカミナリナツ!」
「はっはっは、なんのことだかしらんなぁ? ちなみに金でなびくならいくらでも積むぞ夏ちゃんは! その腕、そのオーラ、まだまだ興味があるからなっ!」
「お断りだと言ったさカミナリナツ。だが今日は黙っちゃいられないね、花見もフレンチトーストもいちじお預けさ、ふふッ」
胸元にさし置いていたサングラスはかっこよく投げ捨てるもの。
どこからか出したトレードマークのマントを露出度のたかい水着の上に装着。
ヤル気満々のシデン・レイラは向けられた剣に対して双銃を構えた。
格好良く翻したマントの巻き上げた砂ぼこりで後ろの生徒たちは、ごほごほと咳き込み……。
それでも眼光鋭くばちばちと睨み合う雷夏、シデン・レイラ両名。
4対1か……1対1か?
濃くなってきた闘いの予感に、うしろで緊張し見つめる海都の汗がだらり、一筋流れ滴り落ちた────。